メタバースブームにあやかる、古参のAR・ホログラム企業

DIGIDAY

広告業界とそのステークホルダーたちは、何かを表現するための新語(あるいは嘆かわしい頭字語)を生み出すことに抵抗がない。このことは、一貫性のなさとも無縁ではない。

新しいメディアチャネルが登場すれば、そこをゼロから開拓できるチャンスが生まれる。ただしもちろん、そのチャネルが急速に成長して、多くの関係者がパイを欲しがるようになれば話は違ってくる。そしてその新たなチャネルとは、「メタバース」だ。

メタバースという言葉は、ゲームやVR(仮想現実)を通してメタバースにアプローチするロブロックス(Roblox)やメタ(Meta)のおかげで、最近になって広く知られるようになった。しかし、AR(拡張現実)やホログラフィックディスプレイ技術によってデジタル空間を長く占有してきた企業は、この流れを変え、自分たちもメタバースのなかにいることを顧客に、さらには投資家にも、知ってもらいたいと考えている。

このようなリブランディングは、「メタバース」という言葉の定義を拡大するのに役立つかもしれない。この言葉はいまのところ、主にゲームやVRに結びつけられている

ナイアンティックの場合

たとえば、ポケモンGOは、メタバースが流行語になるずっと以前から、ARビジネスにかかわっている。このゲームは2016年以来、多くの熱心なファンを生み出しており、彼らはARで表現されたお気に入りのポケットモンスターの姿を撮影するため、スマートフォンを片手に実世界を探索している。このゲームはいまだに莫大な収益を上げ、何百万人もの定期ユーザーを抱えているが、開発元のナイアンティック(Niantic)は、つい最近まで自らの存在をあまり前面に出してこなかった。しかしメタバースが大きな話題となった11月、ナイアンティックはエージェンシーのグラビティ・ロード(Gravity Road)と提携し、仮想空間での経験豊富な、表に出るブランドとして消費者の前に再登場した。

「我々はこれまで、ブランドを前面に押し出すことに投資してこなかった。前面に出すのは、常にポケモンGOや(同じくナイアンティックが手がける)『イングレス(Ingress)』だった」と、ナイアンティックのワールドワイド製品マーケティング担当ディレクターを務めるアーチット・バルガバ氏は述べている。「我々が長年行ってきたマーケティングは、コミュニティに重点を置いたマーケティングだ。重要なのは、このような体験をしてみたいと思う人々のコミュニティを成長させることだからだ」。

実際、もっともよく知られるメタバースのコンセプトは、VRヘッドセットの使用を前提としたものであり、メタの発表動画でマーク・ザッカーバーグ氏もそのようなビジョンを打ち出しているが、それでも現在、VRよりはるかにアクセスしやすいのがARだ。ポケモンGOに定期的にログインしている数百万人のユーザーに加え、さらに数百万人がSnapchatレンズを通じて日々ARを利用している。ただし、これらの行動をメタバースのコンセプトと結びつける人はほとんどいないだろう。

ルッキング・グラス・ファクトリーの場合

また、ヘッドセットを装着せずに、バーチャルなアイテムや空間にアクセスする方法となりうるのは、ARだけではない。ブルックリンと香港を拠点とするルッキング・グラス・ファクトリー(Looking Glass Factory)は、2014年から、ライトフィールドディスプレイとボリュメトリックディスプレイの技術を組み合わせ、3次元のイメージを空中に描き出す、「ホログラフィックディスプレイ」の開発を行っている。これは、ある物体や場面の何十もの異なるビューを同時に生成することで、鑑賞者の脳をだまし、3次元の物体を見ているかのように錯覚させるというものだ。

このホログラム技術を使えば、実際の写真を3次元のイメージに変換することができる。また、アンリアル(Unreal)やユニティ(Unity)などのゲームエンジンを使用する開発者は、バーチャルなオブジェクトを現実の空間へ簡単に移すことができるようになるだろう。ゲーム企業がリードするメタバース業界において、こうしたバーチャルからフィジカルへの変換は大きな価値をもつ。ルッキング・グラス・ファクトリーのCEO、ショーン・フレイン氏は、「我々の技術は、ヘッドセットを使わずにバーチャルなオブジェクトを現実の世界に持ち込み、実際の3Dで見たり操作したりすることが可能な唯一の方法だ」と話す。「既存のプラットフォームと我々が異なるのはそこだ。実際の3Dで、ほかの人と一緒にアクセスできる。いまから100年後には、それが最大の特徴として振り返られることになるだろう」。

フレイン氏自身の構想するメタバースでは、さまざまな方法で仮想空間にアクセスできることがカギとなる。そのようなメタバースのコンセプトでは、ユーザーは異なる種類のプラットフォームを行き来することができ、おそらく異なる技術を介してメタバースに入ってくるユーザーと一緒に過ごすことさえできる。たとえば、VRとARのユーザーが同じ空間を共有できるようになるかもしれない。「我々は以前から、2Dのコンピューティング、2Dのコミュニケーション、2Dのクリエーションを引き継ぐのは3Dだという未来を思い描いてきた」とフレイン氏はいう。「そしてそれは、クロスプラットフォームなものになるだろう。モバイルデバイス、VR、ARだけでなく、そこにホログラフィックインターフェースもある」。

言葉の選択には注意が必要

ポケモンGOは、フレイン氏の定義に十分当てはまるが、ナイアンティックはグラビティ・ロードによるキャンペーンのなかで、メタバースという言葉をあからさまに強調することを避けた。キャンペーンでは、「Meet You Out There(あそこで会おう)」と題したブランデッド動画や、サンフランシスコにARの飛行船を浮かべるといった要素をフィーチャーしている。

「メタバースという言葉自体は、我々のブランド表現には含まれていない。ただし動画のなかには、我々が入れたかったグラフィック要素などに、ちょっとしたヒントが隠されている」とバルガバ氏は述べている。

「消費者向けにメッセージを発信するとなれば、言葉の選択には注意しないといけない」と、グラビティ・ロードの共同創設者、マーク・ボイド氏は述べている。「こうしたことは、おそらくは来たる時期に向け、プラットフォームやジャーナリスト、カンファレンス主催者、弁護士が気にすることだ。しかし消費者向けとしては、それらは非常に直感的に体験されるものだ」。

成否を分けるのはアクセシビリティ

とはいえ、この言葉を受け入れるかどうかにかかわらず、ナイアンティックやルッキング・グラス・ファクトリーなどの企業は、ヘッドセットやビデオゲームのなかに仮想世界を構築しようとしている企業とまったく同等に、メタバースに対する権利を有している。これらの企業が、まだ初期段階にあるメタバースへの権利を主張することは、クロスプラットフォーム、かつクロスメディアな初期メタバースの構築に力を貸すことにつながる。

メタバースプラットフォーム、ザ・サンドボックス(The Sandbox)のCOO、セバスチャン・ボルジェ氏は、次のように述べている。

「アクセシビリティは、メインストリームに普及するうえで重要であり、だからこそ多くの場合、もっともシンプルなものが取るべき道となる。インターネット接続環境とコンピュータさえあれば、誰でもメタバースに入れるようにすることが勝利につながる。VRやARが進化し、さらにはテック大手が今後新しいデバイスを発表する可能性もあり、それらもまたメタバースへの新たな、そして楽しいアクセス方法となりうる」。

[原文:Why some companies are bringing virtual items into physical space via AR and hologram technology

ALEXANDER LEE(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:村上莞)

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