人員削減を発表したスナップ、 AR に注力で差別化を図れるか:「スナップがもう終わりだなどとは思わない」

DIGIDAY

Snapchatを運営する米スナップ(Snap Inc.)にとって、8月最終週は激動の1週間だった。

8月30日、スナップ広告部門の幹部2人が退社した。最高事業責任者のジェレミ・ゴーマン氏と営業担当バイスプレジデントのピーター・ネイラー氏がNetflixに引き抜かれ、同社の広告部門を率いることになったのだ。ゴーマン氏もネイラー氏も業界内でよく知られ、過去数年間にわたりスナップの成長を牽引してきた人物だ。

事業再編計画の中身

スナップは8月31日、事業再編計画の一環として、従業員6400人の20%に相当する1200人あまりの人員削減を発表した。加えて、自律飛行型ドローンカメラPixyへの投資を打ち切るほか、位置情報共有アプリZenlyやボーカルエフェクトアプリVoisey等の最新スタンドアロンアプリ開発プロジェクトを停止する。また、Snap Originalsでは既存番組を残すものの新規コンテンツ制作を中止し、ミニアプリSnap MinisとゲーミングプラットフォームSnap Gamesについても「メンテナンスモード」と称して投資を縮小する計画だ。

マーケターなど業界関係者は今回発表されたスナップの計画について、Snapchatの差別化要因であるARに的を絞った戦略を展開するきっかけになるとみている。実際、スナップ自体もそれを狙っているようだ。

スナップの共同創業者兼CEOのエヴァン・シュピーゲル氏は8月31日付の社内通達で、事業再編は「コミュニティ拡大、売上増、AR」の3つの中核分野への注力を目的としていると述べた。再編によるコスト削減効果は推定で年間5億ドル(約650億円)に上るという。人事異動では、Amazonで10年近く勤めた後スナップに入社して6年のジェリー・ハンター氏が、エンジニアリング担当シニアバイスプレジデントからCOOに昇進した。また、Googleで英国・アイルランド担当バイスプレジデント兼マネージングディレクターを務めていたローナン・ハリス氏が、EMEA部門長に抜擢された。

社内通達でシュピーゲル氏はこう記している。「ハンター氏のCOO就任は、日々の業務遂行における改善だけでなく長期的なイノベーションの加速にもつながるだろう」。

AR技術におけるスナップの優位性

  • スナップはAR技術の先駆者として、内製および他社との協業で長年ARレンズの開発を進めてきた。
  • ブランド各社はスナップ提供のARツールの試験運用を通じて、ソーシャルコマースからVR(仮想現実)への進出にそなえている。
  • スナップはAR技術を応用した新商品と新フォーマットを短期間でテストし、導入する能力をもっている。

AR技術の先駆者として

スナップは長年、ARレンズを活用したツールの先駆者として、社内開発だけでなくクリエイターやブランドとの共同開発を通じて業界を引っ張ってきた。広告代理店バーバリアン・グループ(Barbarian Group)のCEO、スティーブン・モイ氏によれば、ソーシャルコマースの進化形を目指してVR/AR技術を取り込むべくテストを拡大中のブランド各社にとって、「メタバースでいえばバージョン1.1に近く、とっつきやすいレベル」であるSnapchatのAR機能はますます魅力的に映るはずだという。

モイ氏はこう述べている。「企業は、メタバースの基礎編としてSnapchatの機能を利用できる。だから、わざわざ分散型バーチャルリアリティプラットフォームのディセントラランド(Decentraland)で自社のスペースを構築してまで、まだ不安定さの残るメタバース体験を提供する必要がない」。

広告会社幹部のなかには、ARを活用した新商品や新フォーマットを短期間でテストし導入できるスナップの能力に着目し、同社がコンテンツ関連のイノベーション推進で大きな役割を果たせるようになると期待する者もいる。またスナップは、他ソーシャルネットワークとのデジタルクローン開発競争でも優位に立つ可能性があるとみられている。R/GAでグローバル・メディア&コネクション部門長を務めるエリー・バムフォード氏は2022年8月、ソーシャルメディアに関するインタビューで、イノベーションの創出と機能の多様化を短期間でなしとげたスナップを評価した。

「スナップは、価値を提供できる分野を見つけて参入し、多くの実績を残した」とバムフォード氏はいう。「賢明な判断だった。スナップがもう終わりだとか、影響力を失っているなどとはけっして思わない。あの会社の商品開発チームは実に優秀だ」。

マーケターはスナップの実績を高く評価

調査会社フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、ケルシー・チッカリング氏は、スナップがAR技術の分野で業界のリーダーであると評価しながらも、同社が「人を夢中にさせる」という点ではTikTokに及ばず、「TikTokがもつマジック」をそなえるに至っていないと述べている。オンラインユーザーを対象としたフォレスターのMedia and Marketing Benchmark調査(2022年版)によると、米国では18歳から25歳の42%が、TikTokについて「やみつきになる」プラットフォームであると答えたのに対し、Snapchatが「やみつきになる」と答えた回答者は21%にすぎなかったという。

「広告主は、『オールウェイズ・オン』の接点を持ったマーケティング活動の場合、Metaとは違ってSnapchatには予算をつぎこまない傾向にある」とチッカリング氏はいう。「Snapchatは季節ごとのキャンペーンや大規模イベントを活用したアクティベーションには適していて、広告主のメディアプランでは『あれば助かる』的な位置づけだ。経済が不安定ないま、マーケターは効果が実証済みのチャネルにより多くの予算を割かざるをえず、Snapchatのようなプラットフォームへの広告出稿は二の次になっている」。

スナップが最近、苦戦しているにもかかわらず、一部のマーケターは同社の実績を高く評価している。たとえば「ニューバランス(New Balance)のファッション/ライフスタイル商品向けのプラットフォームとして、Snapchatは依然として米国でトップの地位にある」と、ニューバランスの最高マーケティング責任者、クリス・デイヴィス氏は指摘する。Spapchatは、ローワーファネルマーケティングにおいてはとくに、広告費の回収率とインプレッション数で他ソーシャルネットワークを大きく引き離しているという。

スナップの最新技術のベータテスト・パートナーであるニューバランスは2021年、契約選手の新シグネチャーモデル発表にあたりARキャンペーンを実施した。商品はNBAのスター、カワイ・レナードが子供時代にお気に入りだったキャンディのジョリー・ランチャー(Jolly Rancher)とのコラボによる限定版スニーカーで、当該のキャンペーンは730万人を超えるアクセスを記録し、ニューバランスのウェブサイトに25万人のユーザーを送客した。

ディヴィス氏はスナップについてこう語っている。「ARを活用したアクティベーションの事例でもわかるように、スナップのチームは、新たなマーケティング施策や技術関連プロジェクトでの我々との協業に積極的だ。施策の効果で当社のブランド好感度が上がった例もある」。

「いまでも注目のプラットフォーム」

チョコレート大手のザ・ハーシー・カンパニー(The Hershey Company)でメディアアナリティクス/データ&テクノロジー部門長を務めるヴィニー・リナルディ氏は、Snapchatについて「いまでも大いに注目を集めているプラットフォームだ」と指摘する。購買行動が変化している年齢層のユーザーはとくに、「Snapchat上での滞在時間が長い」とし、Snapchatを利用した同社のマーケティング施策は引き続き有効だと述べている。

「スナップがもう終わりだ、という認識は私にはない」とリナルディ氏はいう。「アドテク企業はどこも似たような状況だ。市場の反応を受けて向かい風が顕在化しており、採用凍結や人員削減を実施する企業が後を絶たない。しかし、そういった企業の多くはそもそも、市場によって過大評価されていたのだ」。

[原文:As Snap restructures, marketers believe it should focus on augmented reality as it differentiates the platform

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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