もう10年近く前だが、瀬戸内海の直島というところで草間彌生の「南瓜」という、かぼちゃをモチーフにした作品を見た。
有名な作品だから知っている人も多いと思う。
かくいう私は、これといった予備知識を持たない状態でかぼちゃと対面した。そんな私が最初に抱いたかぼちゃの感想は、「遠目に見た姿がアウトドア製品で有名なPRIMUSのガス缶に似ている」というものだった。
かぼちゃとPRIMUSのガスボンベが似ている
かぼちゃは、海岸の突堤の突き当りに設置されていた。
初手こそ的外れな感想を抱いたものの、瀬戸内海をバックに鎮座するその姿は、当時アートのアの字も知らなかった(これは今でもそうだ)私の心にその存在感を刻みつけたのだった。
あらためて見比べるとそれほど似てないな、とか思ったりもしたが、ここはそういう冷めた目線をぐっとこらえて、10年間持ち越してきたインスピレーションを大事にしてやる。
というわけで、このガス缶を直島で見たかぼちゃに仕立て上げたい、というのが今回の工作の趣旨である。
趣旨の説明から間を置かずで恐縮だが、ここで早速、完成したかぼちゃPRIMUSを見ていただこう。
かぼちゃボンベのできるまで
「できるまで」とは要するに色を塗っただけである。
PRIMUSのガスボンベはもともと黄色いのだが、この上に直接模様を描き込んではなにがなんだかわからなくなってしまう。
なので、作業は黄色いボンベをいったん塗りつぶして、再度黄色く塗るところから始まる。
次にこれを黄色く塗る。
とりあえず家に余っていたアクリル絵の具を使ってみたのだが、これがなんとも微妙な結果に終わってしまった。
おかしい。紙粘土や紙に塗るときはあんなにきれいに塗れるのに……。
下地と塗料に相性があるのは知っていたけれど、サーフェイサーとアクリル絵の具の相性はどうも最悪のようだった。たかが色塗り、されど色塗りだ。
「そんなの写真に撮ったらわかんねえよ」
悪魔が左の耳から囁いた。
「そんな、真面目にやりなさいよ!」
天使が右の耳から囁いた。
今回は天使の意見を採用することにした。
作業時間はアクリル絵の具の方が約1時間(塗って乾かしてを繰り返すから時間がかかるのだ)、ラッカースプレーの方は3分ほどである。
次からは最初から素直に専用品を買って使おうと思った。
もう2度とやりたくない、と思うくらい大変だったが、完成するとさすがに達成感があった。
長時間ぶっ続けで描いたせいで、作者の集中力のアップダウンを反映して丸の形がいびつになったり丁寧になったりするのも面白い。
人の手で作った温もりというやつだ。
かぼちゃPRIMUSはアウトドアでこそ映える
完成した作品をもって家の外に飛び出した。
かぼちゃもPRIMUSも野外にあってこそ存在感を発揮するというものだ。
初めてかぼちゃに出会ったのは瀬戸内海の見える突堤だった。海は無理でも、ここはやはり水のある風景に連れて行ってやるべきだろう。
やはりこの毒々しい模様は自然物の中に置かれたほうが見る者の心にビビッとくるようだ。
黄色と黒といえば、ハチやトラの模様と同じ警告色。われわれの本能が、自然とそちらを注視させてしまうからに違いない。
落としてもすぐに見つけられるから、アウトドア製品としての面から考えても実用的。考えれば考えるほど秀逸だ。
ただ、量産するのはいろいろな意味で無理な相談というもの。中のガスがなくなるまで大切に使おうと思った。
実用性のある工作はいい
だいたいの工作は記事を書き終わるとしまい込まれてしまうのだが、かぼちゃPRIMUS は実用性があるというところが素晴らしい。作って楽しく、使って楽しいからである。積極的に外で使って見せびらかしていきたいと思う。