ヨーロッパのサッカーチームといえば、ACミランは誰もが知る存在だ。そして同チームは、現在、チーム史上最大のオーディセンスを抱えている。
イタリアでの試合を見るためにテレビでチャンネルを合わせている約1580万人の視聴者だけでなく、世界中の何億人もの人々が定期的にクラブをフォローし、オンラインで見ていると推定されている。実際、ニールセン(Nielsen)によると、ACミランの累積オンライン視聴者数は約5億人だという。
そのさらに上を行くのがマンチェスター・ユナイテッドFC(Manchester United)の数字だ。マンチェスター・ユナイテッドはインスタグラムだけで6000万人のフォロワーを誇っている。ヨーロッパのサッカー界のエリートであるマンチェスター・ユナイテッドが持つような商業的影響力をACミランは持っていないが、それを鑑みても、ACミランはかなりの存在感を示していると言える。
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広告主との交渉材料
そして、この数字は成長している。このことは、特にシーズン中の重要な場面での広告主たちとの交渉において大きな影響力を持つことになる。広告主たちはどれだけのフォロワーが自分たちのブランドを見ることになるかを知りたがっているからだ。
チームの勝利はそれを駆り立てる。5月に11年ぶりにセリエAのタイトルを獲得したことは、グランド上での成功であると共にグランドの外でも大きな成功を意味していた。
ACミランのCROであるキャスパー・スタイルスヴィグ氏はこう語る。「ソーシャルメディアに関連する当社の主な目的は、チャネルを使って世界中のオーディエンスとエンゲージし、成長させることだ。セリエA優勝のような瞬間は、大きな、グローバルな、文化に重要な瞬間となり、私たちのコアベースを超えて、より広いオーディエンスに到達する機会を提供する。この試合中に世界中で開催された250以上のウォッチパーティへのファンの反応を通してそれが反映されていることがわかった。ファンは素晴らしい瞬間を共有し、次にこのコンテンツを自分たちのチャンネルで共有したいと思っている」。
ACミランの成長を裏付ける数字
- 300万人以上の人々が、公式アプリ、YouTube、Facebook経由で、カサ・ミラノ本部におけるサスオーロの試合後のクラブのタイトル祝賀会を生中継で見た。ブランドデッド・コンテンツではないため、スポンサーは関与していない。同時視聴数のピークは5万だった。
- クラウドタングルによると、スター選手のズラタン・イブラヒモビッチがロッカールームで行った試合後のスピーチは、5月23日〜25日の再生回数がインスタグラム最高であった。ACミランは、5月21日〜25日に前年比約0.93%でインスタグラムで最も高い成長率を記録したサッカークラブだ。
- ACミランのTikTokチャンネルは優勝以来、約90万人の増加を記録した。
- Twitterではハッシュタグ「#SassuoloMilan」が5月22日と23日のトップトレンドとなった。
- 中国のマイクロブログサイトの微博(Weibo)では、ACミランの公式ハッシュタグがもっとも使われたハッシュタグのトップ10にランクインした。また、新たに3万人以上のフォロワーを獲得した。
- 「こうしたファンの高いレベルでのエンゲージメントは、チャンネルを独占的に確保できるスポンサーへのエンゲージメントに変えることができるし、うまく活用すれば、それが(広告的な人工的なものではなく)リアルなエンゲージメントになりうることを示してくれる」とスタイルスヴィグ氏は述べた。
TikTokでの成功
現在のところ、ミランのソーシャル戦略がもっともうまくいっているプラットフォームがTikTokだ。
実際、同クラブによると、フォロワー4人のうち1人はTikTokにしか参加していないという。そこで週に3日、同アプリ向けのコンテンツ制作のために専任のスタッフを1人雇った。このおかげで、昨シーズンの成長率は他のクラブに比べて指数関数的(少ないベースではあったが)で300%を超え、クラブはヨーロッパでトップの座についた。
現在、このクラブには約760万人のフォロワーがいる。ティックトックで最もフォローされているクラブはパリ・サンジェルマン(Paris Saint Germain:PSG)で、2320万人以上のフォロワーがいる。両者のフォロワー数の差はかなり大きいが、PSGは2019年から同アプリでのコンテンツ提供をしており、ACミランよりも二年間早いスタートを切ったからだ。
それに比べても、ACミランの足取りはそれほど悪くはない。フォロワーを効果的に集めるやり方をちゃんと持っている。難しいのは、ユーザーたちが定期的に見るコンテンツを作ることだ。同アプリに溢れるコンテンツ量を考えれば、これは簡単なことではない。
成功に結びつく「正しいアプローチ」とは
デジタルエージェンシーのオーサカラボ(Osaka Labs)の創設者であるサム・ゴーリー氏は、「ACミランはフォロワー数は750万人を抱えているが、動画が投稿された最初の24時間での平均視聴回数は10万となっている(エンゲージメント率1.3%)」 と述べた。「フォロワー数という観点からは成功しており、彼らがTikTokに正しくアプローチしているとしても、定期的に視聴してもらうためには、有料広告とスポンサー付きコンテンツを組み合わせる必要がある」。
2020年にTikTokでローンチして以来、ACミランのスポンサーたちは徐々にティックトックでも関与を深めてきた。クラブはスポンサーと協力して、有料キャンペーンと並んで、ブランドの認知度を高めるための新しいフォーマットを作っている。
スタイルスヴィグ氏は「商業的な関係を活用してクラブを財政的に支援し、ピッチ上での成功を後押しするというこの戦略は、将来に向けて強固なACミランを築くための持続可能なアプローチの中核をなすものだ」と語った。
チャネルに応じたコンテンツの出し分け
これらのコンテンツはすべて、昨年2月にスタートしたザ・スタジオス:ミラン・メディアハウス(The Studios:Milan Media House)という社内のコンテンツチームで制作されている。その間に、チームは各プラットフォームがどのように連携して機能するかについての明確な視点を作り上げた。
「たとえインスタグラムは、イベントに関連する写真やショートビデオ(試合の日、トレーニングセッションなど)をリアルタイムで利用し、イベントへの注目を『高める』ことに注力する」とACミランのデジタル・メディア・スタジオのディレクターであるランベルト・シーガ氏は言った。
「YouTubeには、歴史的なコンテンツや舞台裏に非常に興味を持っているフォロワーベースがあり、プレイヤーとその個性に深い関心を持っている。一方、TikTokはイベントを告知する形式ではあるが、表示されるタイミングが時間的に離れていることが多いため、より『冷静』なコンテンツが特徴となっている」。
[原文:‘Core part of our sustainable approach’: AC Milan on growing its social media footprint]
Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)