今年もっとも注目の ラグジュアリー×ハイストリート のコラボ:「イージーギャップ・エンジニアド・バイ・バレンシアガ」が与える影響とは?

DIGIDAY

間違いなく2022年もっとも期待されるコラボレーションのひとつだろう。イェ氏とデムナ氏のコラボレーションは、ラグジュアリーブランドがハイストリートブランドと将来的にどのように連携していくのかを定義するものでもある。

まだ不明な点の多いコラボレーション

このコラボレーションは、昨年10月にカニエ・ウェストから改名したイェ氏のインスタグラムのアカウントに投稿されたイージー(Yeezy)、GAP、バレンシアガ(Balenciaga)の契約書の写真を通じて1月7日に発表された。「イージーギャップ・エンジニアド・バイ・バレンシアガ(Yeezy Gap Engineered by Balenciaga)」と呼ばれるこのコラボではドロップモデルに従い、6月に最初のドロップが、今年後半にもうひとつのドロップが予定されている。このコレクションがもっぱらプレタポルテのスタイルのみとなるのか、アクサリーも含まれるのかなどはまだ不明である。これまでのイージーギャップのアイテムから判断して、コレクションはGAPの中でも高価格帯にとどまることが予想される。今のところ、これが長期的なコラボレーションになるかどうかはわからない。

イェ氏は2020年にGAPと10年契約を結び、最初のアイテムとなったラウンドジャケット(200ドル、約2万2900円)が発売された昨年夏以降、同ブランドのアイテムを多数発表している。そのジャケットは発売時にGAPのサイトをクラッシュさせて即完売となった。その後9月にイージーギャップのパーカーが発売されている。ジャケットは12月にサイズとカラーバリエーションを増やして再登場したが、それ以降は価値が大きく上がることはなく、マーケットプレイスのグレイルド(Grailed)では250ドル(約2万8600円)で取引されている。

これは、GAPのサイトではすぐに売り切れてしまうアイテムが、転売目的で買い占められることを示しているのかもしれない。イージーのようなスニーカーが転売のために資産として購入されるのと似ている。一部のアイテムはほかよりも健闘しており、パーカーは小売価格よりも50%高い値段で取引されている。またGAPはできるだけ多くの顧客にアイテムを提供しようとしているため、同ブランドが採用しているドロップモデルの「限定」という性質は、話題性を高めるにはあまり効果的ではないかもしれない。

ファッションを民主化しポピュラーなデザインを変えるという野望

イージーギャップ・エンジニアド・バイ・バレンシアガコレクションは、バレンシアガがハッカー(Hacker)プロジェクトでグッチ(Gucci)などのブランドとともに行ったコラボレーションのように、より独占的なコレクションになることが予想される。GQのファッション評論家レイチェル・タシアン氏は米Glossyに次のように語った。「これはファッションを民主化し、またスティーブ・ジョブズ氏のようなレベルでポピュラーなデザインを変えたいというGAPに、参加する以前からのカニエ氏の本来の意図とミッションステートメントとまさしく合致している。彼がどのようにしてそれを実現したいのかが見てとれる。彼はデムナ氏をジョニー・アイヴ氏のような形で迎え入れた。アバンギャルドなファッション、信頼性、デザインへの関心への常軌を逸するようなデムナ氏のレベルに、カニエ氏の才能とGAPのリーチを組み合わせようとしているのだ。iPhoneは丸い角をしたあのデザインで、あらゆるものを非常に洗練されたミニマルなものへと再構成していったが、イェ氏が望んでいるのはまさにそうしたレベルの変化だ。彼は自分がGAPで行っていることに影響を受けたデザインのエアコンが作られて人々に使われるようになればいいと思っている」。

デムナ氏(以前はデムナ・ヴァザリア氏)はイェ氏の10枚目のアルバム『Donda』にも関わっており、アトランタとシカゴで行われた『Donda』の体験イベントのクリエイティブディレクターを担当した。現在イェ氏はこのアルバムの続編を制作中と伝えられている。その体験やコレクションについて、タシアン氏は言う。「これについて興味深いのは、この1年間でそうなることが予想できたという点だ。デムナ氏とイェ氏は昔からの友人だ。あの時点でもう10年近く一緒に仕事をしたり、一緒に出かけたりしていた。この1年間、ふたりはとくに親密で、彼らの友情とクリエイティブなパートナーシップは公然のものとなっており、かなり型破りな方法でともに仕事をしてきている。この夏にアトランタで行われたイェ氏のリスニング・パーティはデムナ氏がクリエイティブ・ディレクターを務めており、ふたりにとって本当に前例のないものとなった。彼らがまたどうにかして一緒に仕事をする方法を見つけるのは必然だと思われた」。

ふたりのクリエイターによる長期的なパートナーシップの予感

ブランド主導の年間コレクションにクロスオーバー・ロゴが加わるなど、コラボレーションは、ファッション・コレクションを多様化させる方法としてとらえられている。最近プラダ(Prada)とのコラボレーションの継続を発表したアディダス(Adidas)や、昨年11月にジル・サンダー(Jil Sander)とコラボレーションしたコレクションを発表したニッチなアウターウェアブランドのアークテリクス(Arc’teryx)とは異なり、GAPはストリートウェアブランドとして明確に定義されてはいないかもしれない。しかし、イージーギャップコレクションの最初の数アイテムは「ハイプ」な製品を購入したい消費者に着目しており、このスタイルへの転換を示しているように思える。このアプローチはたしかに人気があるが、消費者は最初の発売後はそうしたコラボにさほど強く関与しないことが多いため、ラグジュアリーブランドとハイストリートブランドとの長期的な関係が到来していることを示すものではない。むしろこのコラボレーションは、イェ氏とデムナ氏の友情とクリエイティブな表現への類似したアプローチにもとづいた、長期的なクリエイティブパートナーシップの機会を示している。

コラボによって高品質で優れたデザインを低価格で提供する

バレンシアガは成功をもたらしたハイ・ロー(high-low)の美学を融合させ、ストリートウェアに大きく傾倒してきた。もっとも話題を呼んだスタイルには、2022年の春コレクションのトリプルS(Triple S)のスニーカーや「シンプソンズ(Simpsons)」のパーカーなどがある。「どちらのデザイナーもストリートウェアに夢中であり、そして、さらに重要なことは、実用的なファッションにもこだわっていて、とても高品質な製品、あるいは少なくとも優れたデザインの製品を大量に提供していることだ」とタシアン氏は指摘する。「(後者は)ファッション資本をはるかに低価格で提供する多くのこうしたハイ・ロー・コラボレーションの背後にある考え方であり、第一の焦点となるのは、超ファッショナブルに感じられるものをというよりも、そういった考え方だろう。彼らがこれまでやってきたことに関連した、まったく新しい製品群になる可能性もある。また、もっとも有名な服を数多く再現した、2012年のマルジェラ(Margiela)がH&Mと行ったのと同じようなことを目にすることになるかもしれない」。

PwCのレポートによると、ストリートウェアの年間売上高は約1850億ドル(約21兆1792億円)で、「一説には世界のアパレルとフットウェア市場全体の約10%を占める」といわれている。フランスのファッション団体であるオートクチュールおよびファッション連盟(FHCM)が先月発表した1月24日から27日のオートクチュール暫定カレンダーには名前が見られないが、バレンシアガも昨年7月にショーを開催するなど、最近クチュールをリローンチしている。

[原文:How will Yeezy Gap Engineered by Balenciaga change luxury and high-street brand collaborations?]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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