もともと押し寿司は美味しいものだが、そんななかでもひときわ輝きをはなつのが柿の葉寿司だ。
柿の葉で巻かれていることで、普通の押し寿司よりもぐっと美味しく特別なもののように感じる。
あれ、なんで柿の葉なんだろう。柿の葉じゃなくってその辺の葉で包んでみたらどうよ? 今回はそういうお話です。
※2006年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
葉っぱと寿司
葉っぱは寿司業界では重宝されている。
柿の葉寿司の他にも、葉をフィーチャーした寿司は全国にある。岐阜の朴葉寿司や福井の木ノ葉寿司がそうだし、笹に関しては地域に限らない。バランなんてわざわざセロファンで作ってまで使ってる。
柿の葉寿司に関してはその葉のさわやかな香りや殺菌効果を期待しての登用という話もあるが、実用度以外に葉の彩りが美味しさに貢献しているのは間違いない。
今日はそこら辺に生えている葉っぱで寿司の美味しさを引き出したいというわけだ。雑草で寿司の美味しさが引き立つなんて夢みたいな話じゃないか。
葉っぱを採るのは楽しいよ
というわけで、早速その辺へ。
趣旨的にも遠出は無用だ。ちょっちょっとそこいら辺に生えてる草を摘んできて使いたい。
寿司を包めるほどの大きさの葉がその辺に生えているか家を出るまでやや不安だったのだが、意外にも普通の顔をして生えていた。種類もいろいろある。
あ、こっちのは実がついてるぞ。こっちのは葉がやわらかいなあ。こっちの葉は表面がざらざらしている! そうだ、後で図書館に行って葉の種類も調べよう。
葉をつむ私の脇を子供がかけていく。おまえら、自由研究終わったか? 私は今やってるよー。
テーマがうっかり「自由研究・身近な葉を調べよう」になりそうになってますが、大丈夫、寿司のこともわすれてないよ。その証拠に、葉の裏に虫が付いているのを見て
「わーっ! スシ!」
と声を上てしまったぐらいですもの(「わー! ムシ!」って言いたかったのだろう)。
最終的に30枚ほどを採取した。自宅では すし飯用のご飯が炊けているはず。
いよいよ その辺の葉寿司の制作スタートです。そして思わぬ障害の存在もあきらかに。
有毒植物ってなんだっけ
帰ってきたらすぐに葉を洗い、炊けていたご飯は酢飯にした。うちわであおいでしっかり冷ます。
と、ここで問題が持ち上がった。
酢飯を冷ます間に葉っぱの種類を図鑑で同定しようと、植物図鑑を眺めていたときだ。パッと「ドクウツギ」という植物の説明が目についた。
「果実はもう毒です」
もう毒! 思いも寄らない言葉に釘付けになる。そういえば私は有毒植物というものの存在をすっかり忘れていたのだった。思えばかぶれる心配だってあったわけだ(あれだけ採取しまくったのに何にもかぶれなかった)。
このドクウツギの葉は今回採取していないし、そもそも毒の部分は果実なので全く大丈夫なのだが、調べを進めると、採ってきた葉にも有毒植物らしきものが混ざっていた。いつか聞いた言葉が頭をよぎる。
野生のキノコは素人判断では絶対に食べるな
いや、今私が扱っているのはキノコではない。それに単に寿司を包むだけなんであって葉を食べるわけでもない。だが今日私は野生のものを扱っているのだ。重々気をつけねば。
その後インターネットなどの有毒植物照会サイトなどを震えるからだで丹念に見、有毒性のないことがはっきりした葉だけチョイスした。盛り上がったり、心配したり感情の起伏の激しい寿司作りだ。
その辺の葉っぱで寿司を巻く
さて、紆余曲折を経つつもここまでくればあとは巻く作業。包む葉の大きさがまちまちなので一つづつ握って包んでいくことにした。
包むと思ったよりも葉っぱが小さく感じる。そういえば柿の葉寿司の葉っぱって広げると結構大きいのだ。葉によっては親指の頭ぐらいの小さな寿司になってしまったが、それも「その辺の葉寿司」の魅力と思おう。
具は鯛に鯖の酢漬けとスモークサーモン。これを酢飯に乗せるわけだからとりあえずマズいわけはない。包んでいる様子からして既に柿の葉寿司みたいでおいしそうだ。
が、実は息を吸い込むとものすごい青くさい。この青くささは葉の採取時から感じていたのだが、知らんぷりしていたのだった。
あとは重石を載せて冷蔵庫で寝かせる。さて、味はどうなんでしょうか。そして問題の青くささは。
その辺の葉寿司、試食です
本来だったら重石を乗せたら一晩寝かせるものらしいのだが、張り切って朝に作ってしまったのでその晩に食べることにした。
パッケージもそれらしいものを用意。撮影時は気づかなかったのだが、これまるで飲んで帰ってきたお父さんのお土産みたいだ。頭にネクタイ巻くべきだったか。
寝かせる前に心配だったあの青くささはどうなっているだろう。柿の葉寿司は柿の葉のさわやかな香りが寿司にうつってなんともいえない味わいをかもし出すのだが……。
おそるおそる、開いていこうじゃないですか。
これが、うちの「その辺の葉寿司」だ! |
ハマヒルガオの葉寿司
ノブドウの葉寿司
ムラサキサキゴケの葉寿司
トキリマメの葉寿司
タチドコロの葉寿司
ノブドウの葉寿司
ドラセナ・スルクロサの葉寿司
ヤマグワの葉寿司
ニワトコの葉寿司
ウラジロの葉寿司
※植物名の同定は古賀によるもので、やや推測の部分もあります。植物って種類多いですよね!
ふつうのお寿司です!
食べた。もぐもぐ食べた。具はもちろん、酢飯も塩梅良くしあがっている。重石のおかげでよく押され、味も馴染んだ。うん、美味しい。この味は……そうだ、押し寿司だ!
ええと、はい、普通の押し寿司の味がしました。肝心の葉の効果なのだが、かおりが移るというようなことはなかった。心配していた青くささは、むいた葉に顔を近づけてかいで野原の匂いがする程度で、寿司自体にうつることもなかった。
ただ、やっぱり雰囲気がある。葉をはがして食べるというのが楽しいし、緑が目にきれいだ。たいしたことない私の寿司が美味しく感じられたのは間違いない。
やっぱり寿司には葉っぱなのだ!
柿の葉ででなくてもある程度の雰囲気はその辺の葉でまかなえるということが分かった。
今日のお昼、押し寿司だけじゃちょっとさびしいわねえなんてとき、2品目を用意するのもいいけれど、その辺の葉っぱで巻くなんてのもいいんじゃないかしら。というご提案でした。
そういえば、柿の葉も実家の埼玉の山のほうへ行けば柿の木が民家の庭先に植わっており、あれも言ってみれば「その辺の葉」なのかもしれない。
その辺の草を採ってきて寿司を巻く。21世紀の今やるべきことなのか正直迷いものこりますが、案外普通にすてきにできてしまって うっかり言うことはなにもない状態です。