かつてない危機に直面するアメリカ10代の若者たち

アゴラ 言論プラットフォーム

bodnarchuk/iStock

黒坂岳央です。

NewYorkTimesの公開したYouTube動画「Teens Are In Crisis(ティーンエイジャーの危機)」が大きな話題を呼んでいる。現代の10代の若者は、30代以降が知っている10代とはまったく異質の環境に身を置いており、今これまでなかった問題に直面しているという。

端的にいえば、過去10年間でアメリカで自ら命を絶つ10代若者の割合は40%近く上昇している。そして、令和3年版の自殺対策白書によると、この現状は我が国においても似たような状況であることがわかる。

子を持つ親の立場で今10代の若者に起きている異常事態を分析するとともに、改善策を探る目的でこの記事は書かれた。

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16歳から12歳へと加速した思春期

同社によると、アメリカのティーンネイジャーは不安に襲われているという。もちろん、昔から不安を抱える若者は多くいた。筆者は昭和生まれで、思春期には「1999年に世界は滅びる」なるノストラダムスの大予言が多くの人を不安に陥れていたと記憶しているし、いつの時代でも、それぞれの時期特有の不安材料はあっただろう。

一体、昔と今の不安は何が違うのか?一つには人生不安を覚えるタイミングが早すぎる点にある。西洋諸国及び日本における思春期とはかつて「16歳前後」を指すものであった。しかし、現代の思春期は「12歳」だという。そして恐るべきことに、メンタル的意味合いに留まらず、身体的成育も促進させている。つまり、実際に体の成長も早くなっているという。しかし、いくら体の成育が従来より速くなっても、精神的な成熟には時間がかかる。ここに大きなギャップがある。

ではなぜ、早熟化が促進されているのか? 原因の全てではないにしろ、スマートフォンの普及とソーシャルメディアがその一因を担っているのは確実である。つまり、デバイスやアプリケーションを通じて情報の洪水が思春期を狂わせているのである。ITテクノロジーの発展により、クラスメート間の人間関係の悩みが全世界へと拡大した。これは子供の豊かすぎる感受性では到底、処理しきれるものではないだろう。

筆者が12歳の頃はいかにも子供らしい子供だったと記憶している。頭の中はクラスメートとのドッジボール、それから新作のゲームくらいしかなかった。そんな幼い時期に悩み多き思春期が降りてきたと想像するのは、とても恐ろしいことだ。

10代の思春期を破壊する「毒になる情報」

情報は受け取る人によって毒にも薬にもなり得る。そして成熟した大人にとってはなんてことなくても、10代には強い毒になり得るものもあるだろう。いくつか取り上げたい。

まず1つには「他者比較」である。動画の中で次のような一節がある。

Everybody is miserable. And everybody’s more miserable when they think that everybody’s having a great time.

(誰もが惨めだ。みんなが楽しく過ごしていると思うとさらに惨めになる。)

これはつまり、自分がふさぎこむような状況下において輝く他者を見ることで、さらにふさぎこむ負のスパイラルに陥るということだ。筆者にも似たような経験がある。自分が学業を失敗する中で、親友が次々と上へ上へと階段を登っていく。その様子を暗闇から見つめるのは、自分一人が置いていかれているように感じて孤独感を強めたと記憶している。昔はこれが周囲の数人の人間関係だったが、今はインターネット規模に拡大している。

次に「情報過多」。若い脳は感受性が豊かであり、報酬系、恐怖に対して十分に成熟した大人より敏感である。しかし、その自己制御を司る前頭前野を含む脳の他の領域は未熟なままだ。これはつまり、効きの悪いブレーキの車にアクセルをふかせて乗る行為に近い。結果、自死という事故に至るのである。

10代を「情報の毒」から守るには?

では、我々上の世代はどうすれば10代を破壊から守れるだろうか?ここからは門外漢素人の個人による独断の考察に過ぎず、多くの間違いが含まれるリスクを承知で読み進めていただきたい。

まず1つには「子供にスマホは持たせない」である。スマホは24時間365日いつでもどこでも情報が追いかけてくる。いちいち新着通知に付き合っていたら、人生でやるべきタスクは何一つ進まず、たとえ通知がなっていない状態でも手を伸ばせば届く距離にスマホがあるだけで、集中力は恒久的に奪われ続ける。

そのため、使うべきはデバイスはスマホではなくPCだ。PCなら集中したい時は自宅を出て、図書館に行くという習慣を構築すれば良い。そうすることで意図的に情報の毒を遮断できる。個人的にもスマホの取り扱いには気をつけている。夜になると自動電源オフに設定している。自分がスマホを使うのではなく、スマホに自分が動かされるようになった時、まるで自分の人生のレールをスマホに明け渡したような心持ちにさせられる。

もう1つは「SNSは使用しない」である。10代はSNSによる情報の影響はあまりにも大きい。最近は若きビジネスマンも多く誕生しているので、ビジネス運用はまだ良さそうだが、それでも行き過ぎた利用は感情を激しく上下に揺さぶる理由になり得る。一部のメンタルタフネスに優れた人には有効でも、未熟な段階では薬になる以上に毒になるケースも決して否定できない。

多くの人にとってのSNSの運用は、精神的な成熟を待った後でも遅すぎることはないだろう。実際、筆者は大学生の時期に、MixiやFacebookなどでプライベートアカウントを作っていたが、「これにのめり込むと自分の人生がおざなりになる」と直感的に感じ、すぐ辞めた。今でもプライベートアカウントは使わない。

今の10代は、もはや30代以降上の世代の知っている10代ではない。彼ら/彼女らはその幼き感受性をインターネットの情報の洪水に触れ続けるという、未踏の領域に足を踏み入れている。世界を変えたスマホとITテクノロジー、登場した当時とは違った形で今も変え続けている。

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