橋下徹氏・玉川徹氏は日本のお茶の間平和主義の象徴か

アゴラ 言論プラットフォーム

評論家の橋下徹氏がウクライナ危機に関する発言が物議を醸しだしている。ウクライナ人は国を捨てて逃亡するべきだ、といった趣旨のことを主張している。キャスターの玉川徹氏も、ウクライナは早く降伏して命を守るべきだ、と主張している。

日本のテレビ界は怖いところだ。このようなウクライナ人の決死の努力を馬鹿にするかのような主張が「命を最優先にすべきだ」といった原理的な文言とあわせて流通してしまうのだから。

すでに多くの人々が批判をしているが、現代日本の閉塞を象徴しているようにも思われるので、あえて書いてしまう。説明は不要とも思われるが、ロシアよる占領では、多くの人々が粛清される。命を守る、といっても、降伏さえすれば全員が生き残れるという保証があるわけではない。逃亡すればいいと言われても、逃亡中に命を落としているウクライナ人も多数出ている。降伏後も逃亡後も、抑圧・困窮は必至で、命がけの生活だ。ロシア支配下では、ウクライナという国の実質的あるいは形式的な存続も危うい。

また、侵略者が侵略によって利益を得ることを被侵略者が積極的に許してしまったら、国際社会全体の秩序が壊れ、日本人を含めた世界中の人々が損失を受ける。ウクライナは国際社会の秩序の維持のためにも戦っている。

「生命よりも大事なものはない」という。だが「生命を守る」というのは、簡単なことではない。ただ降伏したり逃亡したりすれば、万人の生命が長期にわたり保障される、などといったことが言えるわけではない。

ガニ大統領が国外逃亡した後に残されたアフガニスタン人の多くは、現在のタリバン支配の状況下で、苛烈な状況に置かれている。旧政府の治安関係部門で働いていたとわかれば、確実に粛清対象である。公開処刑されている者も多数いるし、失踪したままの者も多数だ。女性の権利のために運動しているだけで、深夜に自宅のドアをぶち破られ、連れ去られて行方不明にされてしまうくらいである。なんといっても無数の若者の夢や人生設計が大幅に狂わされた。

国外逃亡したガニ大統領は、外国メディア関係者に向かって「私はアフガニスタン人の生命を救った」などと主張するのだが、実際には、確実に救ったのは、ただ自分の生命だけだ。

日本のテレビ番組で、日本のお茶の間の視聴者向けに、自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げている、といった趣旨のことを言うのは、せいぜい個人的な信条としては可能であろう。だがそのような個人的価値観をウクライナ人に押し付けることが倫理的に許されるかどうかは、公の議論のレベルで検討されるべきだろう。

万が一にも、「日本のお茶の間でテレビをつけてウクライナ情勢のニュースを見ると気分が悪いんだ、降伏でも逃亡でもなんでもいいから、早く終わりにして、我々日本人がもうウクライナのことなんか忘れ去って考えなくてもいいようにしてくれないか」、といわんばかりの態度であるとしたら、少なくともウクライナ人に対して極めて失礼である。

現実がいかに困難であっても、安易な結論をテレビ番組などに求めることなく、現実に向き合っていきたい。

sihuo0860371/iStock

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