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配達アプリのインスタカート(Instacart)は、ユーザーのロイヤルティを作り上げるため、会員制プログラムを改修した。
インスタカートはパンデミックのあいだに需要の回復を経験したサービスのひとつだ。同社への注文数量は2020年に500%も増加し、収益は15億ドル(約2030億円)に達した。この増収をもとにベンチャーキャピタルでさらに2億6500万ドル(約358億円)を調達でき、同社の評価額は2021年には390億ドル(約5兆2700億円)に増加した。
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しかし同社は今年、以前のロックダウン時の収益を維持するために苦闘している。5月に評価額を40%切り下げ、販売の勢いをつけようとする一方で雇用を抑えた。同社は6月中旬、自社の会員制プログラムである既存のインスタカートエクスプレス(Instacart Express)を基にして再設計された、新しいインスタカート+(Instacart+)を発表した。この新しいプログラムは、顧客、特にコロナウイルスによるロックダウンのあいだに同社サービスを見つけた人たちに対して、自社サービスを継続に使用してもらうことを目的とした試みの一環だ。同社によれば、昨年のエクスプレス会員は、非会員と比べて、毎月2倍近い額を使っていた。
新しいインスタカート+は、Amazonやウォルマート(Walmart)のメンバーシップによる食品配達の特典と同じ特徴がある。たとえば、家庭でアカウントを共有し、家族用のカートを作成できる。また、チェイス(Chase)カードの保有者は、インスタカート+を最長で1年間無料で購読できるなど、独占的な特権を得られる。ほかのブランドとの共同によるサービスとしては、インスタカートの注文に使った金額に応じて、デルタ(Delta)航空から航空機のマイルボーナスを獲得できる。気になる料金システムは、インスタカートエクスプレスと同様に、インスタカート+には月額で9.99ドル(約1350円)、年額で99ドル(約1万3400円)となっている。また、メンバーは35ドル(約4700円)を超える注文について送料が無制限で無料になり、引き取り注文では5%のクレジット返却、またサービスの料金でも割引を受けられる。
経済アナリストの見解
一部の専門家は、このブランド刷新は配達業者の需要が全体的に低下している兆候だとし、食料品配達ビジネスの持続的な成長がいかに困難かを示しているという。
小売データアナリティクス企業である1010データ(1010data)の最高製品責任者を務めるジョナ・エリン氏は、アメリカ経済の変動がひとつの要因ではあるものの、競合他社の勃興もインスタカートの成長に影響を及ぼしていると語っている。ウーバー(Uber)といった競合他社も現地での食料品フルフィルメントに取り組んできた。たとえばウーバーは、配達の新興企業であるコーナーショップ(CornerShop)を昨年買収し、ポストメイツ(Postmates)を自社のウーバーイーツ(UberEats)アプリに統合した。ウーバーの食料品ビジネスの注文金額は、2021年に30億ドル(約4050億円)を超えた。一方で、ドアダッシュ(DoorDash)が生活必需品と食料品の配達に展開したことからも、インスタカートは市場シェアを奪われることになった。
エリン氏は、インスタカートの売上高の増加とシェアの獲得が、今年は前月比で鈍化していることを示す、1010データの追跡資料を提示している。たとえば、1月から4月までに食料品のeコマース全体に占めるインスタカートの割合は、Amazonを除いても、2.3%減少している。
新しいサービスは、熱心な顧客を直接対象としているため、インスタカートのほとんどのパワーユーザーにとってカスタマーエクスペリエンスが改善されるだろうと、エリン氏は語る。同氏はインスタカートのチェイスプログラムを、ウォルマート+とアメリカンエクスプレス(American Express)とのパートナーシップになぞらえている。「これは、利便性やメンバーシップの特権に共感するような富裕層の個人や家族をインスタカートが対象とするための優れた方法だ」。
パンデミック後に配達アプリが置かれている状況
ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は、パンデミック後の時代において、食料品の配達アプリはいくつかの課題に直面していると語る。まず、独自のサブスクリプションサービスを開始または拡大し、インスタカートやドアダッシュのような中間者を不要にする小売業者が増えてきていることだ。たとえば、クローガー(Kroger)はブースト(Boost)という会員制プログラムを昨年秋に開始した。このプログラムは年会費が59ドル(約7970円)で、クローガーの商品を24時間以内に手数料なしで配達するサービスを無制限に利用できる。そしブーストの適用地域は現在さらに広がりつつある。
それに加えて、ドアダッシュやウーバーイーツなど、ほかの潤沢な資金を持つ配達アプリとの競合もあると、ジャシンスキー氏は語る。これらのアプリは食料品店との提携もますます求めるようになってきていると同氏は述べ、アルバートソンズ(Albertsons)が最近ドアダッシュと提携し、食料品の30分以内の配達を行うようになった例を挙げている。
「もうひとつの課題は、インフレや燃料価格の上昇により、食料品の配達コストが上がったことだ」と、同氏は述べている。実際に、ギグアプリの作業員はコスト上昇の影響を激しく受け、しかも注文のフルフィルメントに対応するよりも前にこれらのコストを支払う必要がある。同時に、ゴリラズ(Gorillas)やゴーパッフ(Gopuff)のような新しい配達アプリも、成長しようとするなか資金を燃焼している。一方ジョーカー(Jokr)は6月中旬、フリッジノーモア(Fridge No More)やバイク(Buyk)に続いて米国での操業を中止した。
新サービスの着地点
インスタカートは、より多くの顧客と小売業者を獲得するため、自社の会員制プログラムの刷新以外にも試みを行っており、同プログラムは同社が収益を多様化するため行っているいくつかのイニシアチブの一部でしかない。たとえば同社は今年初頭に、15分以内での配達を希望する小売業者向けのB2B倉庫ソリューションを公開した。また、広告ビジネスの拡大も試みており、ペプシ(Pepsi)やダブ(Dove)などのブランドとともに、ショッパブル動画の実験を開始している。
「インスタカート+を推進することは、客の買い物の頻度を増やし、消費者がこのサービスによる注文を好むようにするため意味がある」とジャシンスキー氏は述べる。同氏は、ファミリーアカウント(Family Accounts)やファミリーカート(Family Carts)の機能が大きな差別化要因であると指摘している。「これらの機能は、家族やルームメイトによるインスタカートの使用を増やすだろう」と同氏は述べている。「もし家庭内で複数人がインスタカートを利用した場合、キャンセルの可能性が低くなり、顧客の継続率も高まる可能性がある」。
ただし、多くの顧客は現在、2020年や2021年よりも店内での買い物に抵抗がなくなってきていると同氏は語る。アメリカ人が資金を節約する方法を探し求めている現状で、「多くの人々は利便性よりもコストの低減を重視し、店内での買い物に復帰していくだろう」と同氏は予測する。
[原文:Instacart revamps membership program with new perks]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)
Image via Instacart