Shopify のデリバー買収は、フルフィルメント分野において何を意味するか?

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D2C新興企業のブームによって、ここ数年、フルフィルメント能力の獲得競争が激化した。そしてその競争は、2022年5月にピークに達した。

Shopify(ショッピファイ)は5月5日、Amazonや、ウォルマート(Walmart)、イーベイ(eBay)などのマーケットプレイスと統合されているフルフィルメントの新興企業であるデリバー(Deliverr)を21億ドル(約2730億円)で買収することを発表した。Shopifyはこの買収によって、フルフィルメントの目標に向けて一気に歩を進めることができる。

eコマースの大手企業であるShopifyは2019年、独自のフルフィルメントネットワークを構築中であることを発表した。しかし同社はそれ以降、自社のフルフィルメントネットワークの計画について多くを語らず、どれだけのマーチャント(加盟店)がそのサービスを実際に使用するのかも公表しなかった。だが、デリバーの買収は同社のフルフィルメント戦略の転換を意味し、アセットを軽量化した4PL(Fourth Party Logistics)戦略をさらに追求しようとしていることを示している。

ShopifyとAmazonの「フルフィルメント」競争が過熱

この買収のニュースは、D2Cブランドにとって、どのフルフィルメントサービスを利用するかを決定するうえで、Shopifyがより大きな役割を果たす可能性があるということを意味している。Shopifyは買収の一環として、自社のフルフィルメントネットワークが、ショッププロミス(Shop Promise)と名付けたサービスのもと、2日後および翌日の配送オプションを選択できるようになったことを発表した。

しかしこれは、フルフィルメントの分野で今後何が起きるかも示唆している。ShopifyとAmazonとの競争は、Amazonが先月バイ・ウィズ・プライム(Buy with Prime)というサービスを開始したことで、さらに過熱することが予測される。その結果、D2Cブランドは、eコマースの大手各社がそれぞれのフルフィルメントサービスを利用するようブランドに対して働きかけ続けるため、その渦中に巻き込まれることになるだろう。同時にこれは、シップボブ(ShipBob)やシップヒーロー(ShipHero)など、過去数年間にベンチャーキャピタルで数億ドルを調達したフルフィルメント新興企業にとっては、イグジット先がひとつ減少したことを意味する。

ロジスティクスコンサルティング企業のセカンドマラソン(Second Marathon)の共同創設者であるマット・ヘルツ氏は次のように述べている。「ざっくりいうと、私はShopifyの経営陣が何かしらの動きを見せていることを評価している。なぜなら、同社が過去3年間にフルフィルメントの面で行ったことは非常に失望するものだったたからだ」。

Shopifyがフルフィルメントネットワークを構築することを最初に発表したのは2019年の夏のことだ。同社はその年の秋、倉庫自動化テックプロバイダのシックス・リバー・システムズ(6 River Systems)を4億5000万ドル(約585億円)で買収することも発表した。これは、荷受や梱包の能力を増強することが目的と想像されている。

フルフィルメントサービスは当初、招待制で提供されており、同社はフルフィルメントサービスをベータ版から移行することを正式に発表することはなかった。

そして今年1月、ビジネスインサイダー(Business Insider)は、Shopifyが自社のフルフィルメント戦略を見直し、これまで提携していた倉庫のいくつかとの契約を解消していると報じた

Shopifyの4PL戦略

Shopifyはデリバーを買収したことで、アセットの軽量化の戦略を重視するようになっていくと、ヘルツ氏は述べている。デリバーは4PLプロバイダで、3PLのブランド向けに倉庫の容積を確保するブローカーの役割を果たす。

これは、Shopifyが今後倉庫を保有しないということではない。経営陣は、1月に行われた同社の第4四半期の決算発表において、同社がアトランタで自社運用のリース倉庫の構築を開始したと述べている。

「当社はデリバーを、SFNのD2Cフルフィルメント運用とシックス・リバー・システムの最先端の倉庫自動化技術と統合することを計画している」と、Shopifyはデリバーの買収を発表したプレスリリースで述べ、同社のフルフィルメントサービスが今後どのような役割を果たすかについて説明した。「当社のターンキーソリューションのフルセットは、デリバーのネットワークテクノロジーや、Shopifyの組み込みソフトウェア、Shopifyとパートナーが運用する倉庫内のロボティクスを通じて接続される」。

また第4四半期の決算発表では、最高財務責任者を務めるエイミー・シャペロ氏が、同社が今後、「D2Cで非常に大きな成長を見せている自社配送業者」に焦点を絞っていくと述べた。

ここ数カ月において、小売およびeコマース分野に重点を置いている企業はShopifyだけではない。アメリカンイーグル(American Eagle)は、ペロトン(Peloton)やアウトドアボイシズ(Outdoor Voices)などの有望なD2C企業と協力しているフルフィルメント新興企業のクワイエットロジスティクス(Quiet Logistics)を、昨年3億6000万ドル(約468億円)で買収したことを発表した。

ガートナー(Gartner)のアナリストであるブラッド・ジャシンスキー氏は、「ほかの大手小売業者が、これらの大手企業を買収するのは間違いなくあり得る」と筆者に話した。ただし、クワイエットロジスティクスやデリバーの買収の規模を参考にするなら、それには膨大な資金が必要となるだろう。

ヘルツ氏は、Shopifyがデリバーを獲得することで、ロジスティクス関連の新興企業にとって、今後イグジット先がひとつ減少することになるかもしれないと語る。同氏は、デリバーが11月に、20億ドル(約2600億円)の評価額を達成したと発表したことから、同社の買収額はもう少し大きく、「30億ドル(約3900億円)から40億ドル(約5200億円)の範囲」になると予測していたという。これは、eコマースの全体的な冷え込みが、こうしたオンラインブランドと提携するB2Bプロバイダにも広まりはじめたことを示唆している。

板挟みにされるD2Cブランド

しかしD2Cブランドにとって、この分野におけるShopifyの動きは、フルフィルメントビジネスで勝利するための能力増強の競争が激化する可能性が高いことを意味している。

たとえばAmazonは、顧客がAmazon以外のサイトで自分のプライム(Prime)メンバーシップを使用できるバイ・ウィズ・プライム機能によって、さらに多くの小売業者を獲得しようとしている。Amazonには数億人のプライムメンバーが存在し、ほかのウェブサイトにプライム認定シール付きの商品があれば、これらのメンバーが購入する可能性が高いというのが売りだ。同社はプレスリリースで、このサービスは当面、フルフィルメントby Amazon(Fulfilled by Amazon)サービスを使用する小売業者のみが利用可能になると述べており、フルフィルメントサービスを利用する小売業者を増やす方法として、バイ・ウィズ・プライムを利用したいことを示唆した。

一方、Shopifyは、デリバーの買収によって、Shopifyのマーチャントが、同社のフルフィルメントネットワークを利用して、2日後または翌日の配達を実現できるようになると約束し、さらに多くのマーチャントを獲得しようとしている。

しかし、この分野に注ぎ込まれる資金の額を考えると、Shopify、Amazon、そのほかのフルフィルメントサービスからの売り込みがさらに激化することを、D2Cブランドは予測すべきだろう。

「総合的に見て、フルフィルメントサービスは企業が数百万ドル、数十億ドルもの資金を注ぎ込むほどの、非常に興味深い分野だ」と、ジャシンスキー氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: What Shopify’s acquisition of Deliverr means for the fulfillment space]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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