CTV 広告が抱える、ゴルディロックスのパラドクス:「テレビとデジタルの中間、という単純な話では無い」

DIGIDAY

CTVは、従来型TVとデジタル、双方の広告主にとって最良の部分を融合したいいとこ取り――というのが理論上、CTVが約束する利点だ。ただ実際のところ、CTVにおけるTVとデジタルの融合は、それほど単純な話ではない。原因は、その融合によって生じる微妙な差異の数々であり、そこを理解できないとCTVが約束するせっかくの利点が損なわれてしまいかねない。

CTVが内包する、いわばゴルディロックス(「3匹のクマ」の童話にちなんだ、程よい中間状態)のパラドクスとでも言うべき問題は、米DIGIDAYが6月7日に主催したイベント「Virtual Forum: Shaping CTV Creative Management and Measurement in 2022」でも、焦点のひとつだった。

「CTVは中間に存在する、いわゆるゴルディロックス的な立ち位置だ。そして私が思うに、一部の広告主はそこに、レガシーバイアス(従来の先入観)と独自の穿った見方を持ち込んでいる」と広告サービス企業、ノウン(Known)のCTO/EVP、ネイサン・フゲンバーガー氏は、CTVにおけるパフォーマンス広告とブランドとのバランスに関するセッション中に指摘した。

落ちかねないCTVの罠を避けるポイント

  • 従来型TV戦略の過度の信奉
  • デジタル戦略の度を超えた導入
  • CTVの低粒度ターゲティングおよびメジャメント関連コストの軽視

広告主の「誤解」

従来型TVの広告主とデジタルネイティブな広告主がいずれも、各々のレガシーバイアスをCTVに適用できるという事実は、上述のとおりCTVが約束する利点のひとつだ。だが、この約束には危険も伴う。そうしたレガシー戦略にこだわり過ぎるため、広告主の姿勢に調整が求められることが少なくないCTVの微妙な差異に対応できない、というのがそのひとつだ。

「従来のテレビとまったく同じように考える、レガシー的な見方をそのまま持ち込んでいる人もいれば、デジタル的思考を持ち込み、クリックですべてがわかる、いわゆるラストタッチ(アトリビューション)を利用すれば簡単に測定できる極めて単純化された手法だと、思い込む人もいる」と、フゲンバーガー氏は語った。

ところが、現実はそれほど簡単な話ではない。

たとえば、CTVのデジタル的側面は確かに、広告主がデジタルで慣れ親しみ、従来型TVでは基本的に不可能と考えている、低粒度ターゲティングおよびメジャメントに近いものを可能にする。ただしそれは、デジタルほど真の意味で低粒度、というわけではない。

「世帯レベルのデータで止まってしまっている」と、コネクテッドマーケティングエージェンシー、ディジタス(Digitas)のVP/インサイツ&アナライシス部門グループディレクター、キャスリーン・メツガー氏はアドバンスドストリーミング測定に関するセッションで話した。「つまり、たとえば私の家に5人が暮らしていると、広告を見たのが私なのか、私の夫なのか、それとも子どもなのかまではわからない。それを知るには、我が家の消費習慣に関する質問に回答させるというフォローアップ調査をするしかない。そこまでしてようやく、その世帯の誰がそれを見たのかがわかる」。

CTVの特性をどこまで理解できているか

CTVがスマートフォンやPCといった個人レベルではなく、世帯レベルのデバイスという事実自体は、決して悪いことではなく、特にブランドメッセージに関してはそう言える。ただしこれは、CTVキャンペーンのターゲットをどこまで絞り込めるのかに関する明確な自覚と、そのキャンペーンから得られるデータの特異性に対する適切な予想設定が広告主に求められることを意味する。

広告主にはCTVキャンペーンで可能となるより粒度の低いターゲティングおよびメジャメントに関連するコストについても、明確な認識が必要となる。「データ収集にかかるコストは一般に法外なほど高額になりかねないため、そうした資金を投じられるのは大手ブランドだけとなる」とメツガー氏。「CTVでのターゲティングに必要な適切なデータ利用コストが下がる世の中を、個人的にはぜひ見てみたい」。

CTVに広告を打つ際、レガシー戦略に固執し過ぎてしまうのは、広告主がはまりかねない落とし穴のひとつだが、反対にレガシー戦略から離れ過ぎてしまう姿勢も同じく危険な落とし穴となる。これには、従来型TVの広告主がCTVでデジタルなアプローチに傾倒し過ぎてしまう場合と、デジタルネイティブな広告主が従来型TVの戦略を信奉し過ぎてしまう場合が考えられる。

たとえば、大手エージェンシーグループの1社、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)には、「すでに相当額の資金をCTVに移行させた」典型的な従来型TV広告主がいると、同社のアドバンスドTVおよびクライアントサクセス部門EVP、ニコル・ホイットセル氏は、CTVの効率性および非効率性に関するセッションで話した。「そしてその一環として、彼らはあらゆるメジャメント、あらゆるタグ、あらゆる類のアウトカムベース戦略、そしてデモのベリフィケーションをCTVに適用しようとしている」。

「正反対の思い込みをしている」

一方、その対極として、これまでFacebookといったプラットフォームに広告を打っていたD2Cマーケター勢が、ブランド確立を目的として資金の一部をCTVに移したものの、デジタルプラットフォームでやっていたことはCTVではできないと思い込んでいるという。それというのも「自社事業の未来に絶対的に不可欠な成長をもたらすアウトカムが手にできないからだ」と、最初から諦めている姿を実際に目にしたと、ホイットセル氏は話した。

ホイットセル氏いわく、「両者ともに、まったく正反対のことが起きると端から思い込んでいるところが、非常に面白い。TVに強いブランドはCTVやストリーミングをデジタル寄りに、かたやデジタルネイティブなブランドはおそらく、ストリーミングを従来のTV寄りに捉えている。そして両者は基本的に、多くの場合において正反対のことをしている」。

[原文:Agency execs shine a light on connected TV advertising’s Goldilocks paradox during Digiday’s CTV virtual forum

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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