新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人間の脳に影響を及ぼすことが知られており、回復後も集中力や認知機能が低下するケースがあると報告されているほか、重度のCOVID-19は20年分の老化に匹敵する認知的影響をもたらすとの研究結果もあります。アメリカのトーマス・ジェファーソン大学やイースト・カロライナ大学の研究チームが発表した研究結果では、「COVID-19がパーキンソン症候群の発症リスクを増加させる可能性がある」と報告されています。
COVID‐19 Infection Enhances Susceptibility to Oxidative Stress–Induced Parkinsonism – Smeyne – – Movement Disorders – Wiley Online Library
https://doi.org/10.1002/mds.29116
Study in mice suggests that COVID-19 increases risk of developing Parkinson’s disease
https://medicalxpress.com/news/2022-05-mice-covid-parkinson-disease.html
パーキンソン病はドーパミン神経細胞の減少によってドーパミン不足となり、手の震えや動作の緩慢といった運動障害を示す神経変性疾患で、症状が進むと自力歩行すら困難になってしまう難病です。また、薬物投与や精神疾患、脳炎などの後にパーキンソンのような症状が見られるケースも確認されており、これら何らかの原因があるものはパーキンソン症候群と呼ばれています。
そんなパーキンソン症候群を引き起こす要因の1つに「ウイルスによる感染症」があり、1918年に流行したスペインかぜの後には、感染からおよそ10年ほどが経過してパーキンソン症候群となる患者が報告されています。2021年に発表された研究では、インフルエンザ感染者は非感染者と比べて、感染後10年超におけるパーキンソン症候群の発症リスクが70%以上高いことが判明。2009年の研究では、インフルエンザウイルスに感染したマウスがパーキンソン病を誘発する有毒物質・MPTPの影響を受けやすくなることが示されました。
そこでアメリカの研究チームは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染することがパーキンソン症候群のリスクを上げるのかどうかを調べるため、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に使われるタンパク質であるヒトACE2受容体を発現するように遺伝子組み換えしたマウスを、SARS-COV-2に感染させる実験を行いました。今回の実験では、人間に換算すると中度のCOVID-19を引き起こす量のSARS-CoV-2が投与され、感染したマウスの80%が生き残ったとのこと。
生き残ったマウスは2つのグループに分けられ、回復から38日後に一方には通常はパーキンソン症候群を引き起こさない低用量のMPTPが投与され、対照群には生理食塩水が投与されました。MPTPまたは生理食塩水の投与から2週間後、研究チームはマウスの脳を解剖して、ドーパミンを合成するニューロンに変化があるかどうか調べました。
その結果、COVID-19になっただけではニューロンに影響が及ばなかったものの、回復後にMPTPを投与されたマウスではパーキンソン症候群にみられるニューロン喪失パターンが確認されました。このパターンは過去にインフルエンザで確認されたものと類似しており、COVID-19はインフルエンザと同様にパーキンソン症候群の発症リスクを高める可能性があると示唆されています。
論文の筆頭著者であるトーマス・ジェファーソン大学のRichard Smeyne博士は、ウイルス自体がニューロンを殺すのではなく、毒素や細菌といったものの影響を受けやすくする可能性があると指摘。インフルエンザやCOVID-19は炎症を誘発する化学物質が大量放出されるサイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)を引き起こす場合があり、これがニューロンをその後のストレスに対して脆弱(ぜいじゃく)にしているのではないかと主張しました。
Smeyne氏は、パーキンソン症候群はまれな病気であり今回の研究結果でパニックになるべきではなく、マウスに起きた現象が人間でも生じるかどうかは不明だということを強調しています。その上で、SARS-CoV-2が脳に及ぼす影響を理解することは、パンデミックの長期的な影響に備える上で重要だとしています。研究チームは今後、より低用量のSARS-CoV-2がパーキンソン症候群のリスクにもたらす影響や、ワクチンがパーキンソン症候群の発症リスク軽減に役立つかどうかなどを研究したいと述べました。
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