ハブ探しの旅は日本のアマゾンへ!
※めちゃめちゃヘビが出ます。苦手な方はご注意ください。
もはやなんのためにやっているのかわからなくなってきている感もあるが、奄美、沖縄諸島のハブのいる島をめぐっている。ちょくちょく記事にしているのでなんかやたらハブコンテンツが豊かなサイトになってしまい申し訳ない。
しかし、私はむしろ人間を書いているつもりなのです、ってそれはともかく、およそ7年間でだいぶ埋まってきたハブスタンプラリーのマップにはまだでかい未踏の地があって、それが自然豊かな八重山諸島の中でも最大のジャングル島、西表島である。
いよいよ日本のAmazonへ(英字で書くな)
もちろん西表島には行きたいと思っていたのだが、なんせ広いのである程度日数が必要だし、西表自体は割とメジャーどころで結構情報を得られるので、なんかわかったような気になってしまい未知の小島なんかを優先していたのだ。
いよいよこの大未踏領域を埋める時がやってきた(つまり長めの休みが取れた)
空港のない西表島へ行くには、石垣島から高速船で北側にある上原港か南側の大原港へ向かう事となる。
大原港行きの高速船に乗り込み窓の外を見ると、港になんか陽気なおっさんが立っていたが正体は具志堅用高の像だった。石垣島から黄金の具志堅のイメージだけを持って海を超え、西表島に着いた。
西表島は島のほとんどがジャングルで覆われていて、みたいな事は頭の中ではわかっていたが、着いてみるとスケール感が桁違いだった。すごいわ、私みたいな似非ナチュラリストからしたらもうなんかこわいわ。
宿泊したゲストハウスで会った釣り人は西表のマングローブの迫力にすっかり魅入られてしまい、定職を辞め釣具店などで働いて金を作ってはここに来て数ヶ月滞在する生活を繰りかえしているという。「なんかもうね、他はありえないんですよ」と言っていた。私がマングローブだったら喜んでいっそう茂るだろう。
こういう変態(敬意)の心をとらえて離さない、人に蓄積された社会性をはぎとっていくような原生的な芳香をこの島は放っている。
島内を移動するための幹線道路は島の北岸からジャングルを迂回するように東〜南部の海岸沿いを走る県道215号白浜南風見線のみ、島を一周する事はできない。
県道自体は広く車で走りやすいが、すぐそこまでわっさわさにせまった亜熱帯雨林から様々な生物が飛び出して横断するため厳しく速度規制が敷かれ、おなじみの天然記念物イリオモテヤマネコやカンムリワシの看板が警告を発している。
たしかにヤエヤマセマルハコガメやシロハラクイナなど、この地域特有の希少生物たちが悠然と横断歩道のないアビーロードのように横切るのでスピードをおさえても気が抜けない。
ある時は巨大な横断者が現れた。
全長で250cmにもなる日本最大級のヘビである。ハブとちがって毒は持っていない。
でかいというだけでも最高なのだが、その端正な顔立ちやマットゴールドの体に刻まれた黒い斑紋が尾の先に行くにしたがってストライプになってゆくデザインの美しさは筆舌に尽くしがたいものがある。
これだけかっこいい美しいと言っておいてさらにたたみかけるがこのヘビの英名は「Sakishima beauty snake」、キューティー鈴木のように恥ずかしくなるほどダイレクトにビューティー呼ばわりされているのだ。
森林だけでなくキビ畑や住宅の近くでも見られるヘビだが、現地で聞いた話では集落周辺で見かける事はかなり減ったという。畑のほうでよく見ると言う人もいたが個体数は減っているようだ。貴重な出会いに歓喜しながらも一抹の寂しさを感じる。
豪雨、そしてヘビカーニバル
例年より梅雨入りが早く、八重山諸島はあつい雲に覆われ時折にわか雨に見舞われていた。周囲の観光客が残念がる中、私はゲンキクールサイダーを飲みながらほくそ笑んでいた。爬虫類両生類が活性化するにはむしろ都合のいい気象条件なのだ。
夕方になると南からの風が吹き込み、いっそうモイスチャーな感じになってきた。
ハブがおもしろい、好きだという割に私にはハブを見つけるセンスも技量も欠落していて、一時期はハブがほとんど出てこないハブ記事ばかり書いていた。しかし西表島にはそういう枯れ感はなく、天候もあいまってこれはきっとやってくれるという期待感が高まってくる。
日が暮れると地面をぶち叩くような激しい雨が降り続けた。県道の路面を無数のヌマガエルが飛び回り、ムカデが予測できないターンを繰り返し徘徊している。
それに惹きつけられるようにサキシママダラという、かわいいけどくさいヘビがわらわらと現れ、路上は一般に不人気な生物たちの百鬼夜行の様相を呈していた。
しかし私の頭の中では山下達郎の「パレード」が流れていたのだ。ごらん、カーニバルのパレードが行くよ。
ひっきりなしに出現するサキシママダラに混じってついに奴が現れた。
サキシマハブは石垣島や西表島など八重山諸島に分布するハブで沖縄本島などに住むいわゆるハブ(ホンハブ)よりも小さく、毒も弱い。しかし、以前ハブ捕りの人に「そのかわり、(咬まれたところの)壊死が早い」と聞いた。嫌なトレードオフだな。
頭の形状はホンハブに似てそれがきちんとハブ感を醸し出しているが、体型はサキシマハブのほうがずんぐりしており模様はシンプル、小粋なカーディガンのようだ。その模様や体の色はじつにバリエーション豊か。
先ほどのハブからそんなに遠くないところで見つけた個体はかなり白っぽくてかっこよかった。
そうかと思えばやたら黒ずんでいたり、肌色っぽくも見えたり、赤みが強く紫がかったのまでいて、西表島では10匹以上のサキシマハブと会えたが見つけるたびに「ほほう、そうき来たか」とうなっていた。
ある夜、県道の端から四足歩行の動物が少し重心を沈めた後、さささっと道を横切った。島のアイドル、イリオモテヤマネコではないか。
あまりにも素早くて写真は撮れなかったが、いろんな島でリュウキュウイノシシを見まくっているのでイノシシでない事は断言できるし、イエネコにしては集落から離れすぎている。
ただ、イリオモテヤマネコはこの広い島に100頭ほどしか生息しておらず、そんな徳川埋蔵金みたいな希少生物をぽっと見かけることなんてあるのだろうか。
地元の人に「あの、なんていうか、感覚的に、感覚的にですよ、昨日夜横切るのを見たとか言ったら、そんなわけないだろ5年通ってから言えぐらいの感じなんですかね?」と聞いたら「いや、見るときは見ますよ」との事だった。
あれはヤマネコだったのだろうか、もうヤマネコでいいか。こんなもやもやしたヤマネコの幻影を抱き、西表島を後にする来訪者はきっと私だけではないだろう。
見えたようで見えてない、このイマジナリーなイリオモテヤマネコがまた 再訪したくなる焦燥を生むのだ。やはり不思議な島だ。
竹富島でハブ探し
西表島と石垣島の間にある小島3島のうち、もっとも石垣島寄りにあるのが竹富島である。
周囲約9kmのコンパクトかつ平坦な島で、レンタカーやレンタバイクは無いが自転車で2~3時間ほどゆったり走ればだいたいのスポットを回れてしまう。
島の中央にある集落には赤瓦屋根の木造家屋と石垣、白砂の路地といった沖縄の伝統的な街並みが残り、無目的にぶらつくだけで時間を忘れるほど楽しい。
なんせコンパクトな島なので集落を囲む牧場や草原を抜けるとすぐ眼前にオーシャンブルーの絶景が広がる。
日が暮れて集落から離れた島の周縁部を歩くと、さすがに西表島ほどの豊穣さはなかったがこの小さい島のどこに潜んでたんじゃというほどのでかいヤシガニがほっつき歩いていたり、さすが八重山である。
草むらからサキシマハブがのっそりと顔を出し、こちらに歩いてきた。襲ってくるとかそういうテンションではなく、目覚めの悪いボーッとした頭で最寄りの駅から会社に向かって歩きスマホをしてこちらに気づいていない感じである。
距離1.5mぐらいのところで私に気づくとたちまち踵を返し、ってヘビに使っていい表現なのかわからないが大慌てでまた草むらに逃げ込んでいった。
ハブはかなり臆病なヘビで、人間などの姿を認めるとさっと逃げてしまう。サキシマハブもそのあたりは同じだが、ホンハブに比べ機敏さに欠けていて、注意散漫というか少し間抜けなところがある気がする。そこに可愛げを感じるかは見る人次第だが。
竹富島では西表島ほどの数を見る事はできなかったが、出会った個体は大きめで、餌環境の厳しい小島で生き抜いてきた貫禄を感じるものだった。お互いのためにスマホ見ている態でなく周りに注意して出歩いてほしいものだ。
7年ぶりの黒島へ
いちど石垣島へ渡り、そこからまた高速船に乗り約30分で黒島に着く。
島の周囲は約12km、その形からハートアイランドと呼ばれる平坦な島で竹富島と同じく自転車でさくっと周ることができる。
畜産が盛んで住民の10倍以上、約2700頭の牛が飼育されており、見通しのよい、だだっ広い牧草地で牛達がのんびりと草を食んでいる様が黒島独特の景観となっている。
2015年、ハブ巡りを始めて石垣島に行ったがハブが見つからず、この黒島に急いで渡り、黒島研究所で飼育展示している個体を見に行ってなんとか当時の記事にハブを載せた。
今回はぜひとも野生のハブを見つけたい。
日が暮れて耳を済ますとどこからかサキシマヌマガエルの鳴き声が聞こえる。
サキシマハブはカエルも食べるので探す時は水田や川の近くの湿地帯などカエルがいそうなところをまずターゲットにする。
黒島に川は無く、わずかな湿地の周辺に住むカエルのところに来るのではないかとカエルの合唱が響く周囲を探す。ナイス戦略、さすがに7年も経つと人は成長するものだ。
しかし、出てきたのはサキシママダラ1匹のみ、残念ながらハブは見つからなかった。
黒島は残念な結果だったが、なんだかんだトータルで15匹近いサキシマハブと遭遇したハブ充な旅だった。
規格外の西表島はさて置き、竹富島、黒島ではだいぶ念入りに探してもハブには会えるか会えないか、通常の観光で来島する分にはほぼ遭遇しないだろう。しかし万が一の事もあるので無闇に薮のなかに入ったりしないでほしい。
これで未踏のハブ島(有人島ね)は八重山の小浜島や奄美諸島の請島など、点在する小島を残すのみとなって踏破が見えてきた。それはそれでコロナ禍もあって行くのが大変だったりもするのだが。
しかしここに来て「ハブがいない島にハブはいないのだろうか?」という愚かしいが根源的な問いが浮かんできてしまった。
不在をたしかめる旅が始まるのだろうか。老後に必要な2000万円は確保できるのだろうか。その時が来たら考えよう。