両わきの甘さをどう埋める、セブン&アイ

アゴラ 言論プラットフォーム

セブン&アイを人間の体に例えると胴体がコンビニ事業、そして両腕が百貨店事業とスーパーマーケット事業とみると非常にわかりやすいと思います。昨日の同社の株主総会で株主提案の井阪隆一社長ら5名の退任要求が通るかどうかが大きく報道されました。この会社の経営は最高益を積み重ねるにもかかわらず、混迷の深さを物語っているとも言えます。それは両腕の百貨店とスーパーマーケットが胴体から離れ、わきが甘くなり、そこを外部の多くの人が突つくことで両腕と胴体が更にバランスしない状況にあるからです。

いったい何がこれほど面倒な事態を引き起こしているのでしょうか?

Robert Way/iStock

セブン&アイについては目先の問題と根底の問題の2面から取り上げる必要があります。

目先の問題は百貨店売却とイトーヨーカドーの経営不振の件です。この2つの問題は共に現経営陣に責任がある、これは明白です。つまりコンビニ事業は出来るけれど事業売却や他の事業の経営は不得手だということを世間にこれほど見せつけた恥はないと思うのです。本質的に経営手腕の問題であります。

西武とそごうの百貨店の売却に関してはフォートレスとの協議が止まっています。止まった理由はフォートレスの後ろにヨドバシカメラがついており、そのために様々な問題解決が前提になっているからです。問題は仮にフォートレスがヨドバシを切る場合、同社がヨドバシに巨額の違約金を払う仕組みが織り込まれているはずで、フォートレスはヨドバシをこの売買で組み込まない訳には行かないのです。

つまり、立ち往生して困っているのはフォートレスなのです。しかもそのフォートレスの親会社はソフトバンクGから中東の会社に代わり、経営方針を含め、行方が分からない状況です。一方でセブン側は交渉遅れは最重要問題ではないはずです。むしろ、コロナ明けで消費が戻っており、百貨店事業は大きく改善している最中であり、次の四半期決算では思った以上に良い百貨店事業の数字が出てくるものと思われます。ただこれはたまたまであって、経営手腕としては評価できないわけです。

ではイトーヨーカドーの件です。井坂社長の説明、ヨーカドーのノウハウがセブンの食材部門に生かされており、イトーヨーカドーとセブンは一体であるというのは苦し紛れというか、表面繕いの理由でしかありません。スーパーマーケット事業は国内で大小乱立、大乱戦が続く中、大が小を飲み込みつつあるのが業界絵図です。ところがヨーカードーは完全に出遅れ、その競争力は喪失しつつある、これが現状です。

本質的にはセブン&アイは誰のものか、でしかないと考えています。セブン&アイ社の主要株主は信託口を除けば伊藤家が約10%を所有する最大株主です。その伊藤家にとりイトーヨーカドーは祖業です。それを誰が守るのか、その契りが伊藤家と井坂社長との間にあるとみています。つまり、「自分が社長である限り、ヨーカドーは守ります」と。

鈴木敏文氏がセブンのホールディングス会長だった際、井坂氏はコンビニ事業の社長を長年やっていました。が、鈴木氏は「経営に改革がない」と唐突に井坂氏排除の人事案を出すものの、伊藤雅俊名誉会長がNOを突き付けました。鈴木氏はこれが決め手で辞職します。

伊藤氏と鈴木氏の関係は書籍等を読む限り両名はほぼ水と油の関係だったのですが、伊藤氏が粘り強く我慢をした、それが私のみた関係でした。ですが、伊藤氏はどこまで鈴木氏を一人間として評価したか、これは分からずじまいでした。伊藤氏はその点、井坂氏とは一定の良好な関係を築いていたとみています。故に人事案で「拒否権」を発動したのではないでしょうか?少なくとも現時点では伊藤家にとって井坂氏しか頼る人がいない、という構図にみえます。

とすれば井坂氏が外資の圧力に屈し、イトーヨーカドーを売却しましょう、という話は逆立ちしても起こりえないことになりやしないでしょうか?もっと勘繰れば、百貨店事業の売却が完了すれば次はスーパーマーケット事業だとマスコミや評論家は騒ぐだろう、だったらここは引き伸ばし作戦をして時間を稼いだ方がよい、という戦略にも取れます。

私の上記のシナリオの真偽のほどを確認する術はありません。が、ありうる話だし、仮にそうだとすればセブンほどの企業はこれほど内向き経営だということ、あるいは第2の経営の柱を立てることすらできない一本足経営に傾注せざるを得ない点において経営者としての評点はやっぱり昨日の株主総会での支持率、76.36%でしかないということです。つまり成績でいうとC評点です。

創業家の祖業であるスーパーマーケット事業がサイドラインに追いやられ、コンビニをメインラインに押し出した鈴木氏、そしてその恩恵にあずかった伊藤氏、更には伊藤氏亡き後の大株主創業家としての意向という複雑な関係は「日本的創業家問題」という表現で終わらせて良いのか悩ましいところであります。

セブンは世界に打って出られる素養がある企業なのに頑強な胴体に対して両腕に振り回される経営陣という実に奇妙な構図がまだしばらく続くということでしょうか。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年5月26日の記事より転載させていただきました。

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