美容ブランド の流通の現状と未来【Glossyアニュアルレポート2022】

DIGIDAY

・はじめに
・メソドロジー
・オンラインマーケットプレイス、eコンセッション、ドロップシッピングが美容ブランドの流通選択肢を拡大
・ソーシャルコマースとマーケットプレイスが人気だが、実証済みのチャネルがもっとも高い利益をもたらす
・ブランドはショッパブルなライブストリームで顧客を惹きつけている
・ブランドは革新的なインフルエンサーのイベント、新たなショッピングアプリ、クロスチャネルのソーシャル戦略でソーシャルゲームを向上させる
・トレンドの変化はソーシャル戦略だけでなく、流通にも影響する:プレステージビューティが拡大する一方で、マスは依然として旧チャネルで成功を収めている
・スキンケアブランドは自社サイトでの流通を好み、カラーコスメティクスはUlta.comに目を向けている
・結論と覚えておくべきこと

はじめに

見通しの暗かった2020年を経て、2021年は美容業界の売上が増加し、2022年には市場の繁栄が予想されている。マッキンゼー(McKinsey)によると、2020年のパンデミックによるロックダウンで、カラーコスメティクスの売上は世界的に33%減、美容カテゴリの小売全体では売上が15%減少したが、昨年から業界は回復に向かっている。ベアード(Baird)によれば、美容専門店やセフォラ(Sephora)やメイシーズ(Macy’s)などの百貨店を含む4万7000店ものチェーン店がパンデミック中に閉鎖を余儀なくされ、カラーコスメの売上減少の大きな要因となった。対面での社交行事や仕事関連のイベントがないため、消費者は化粧品に金を費やすのをやめたのである。しかしスキンケアやセルフケア製品は依然として重要度が高かった。ニールセンIQ(NielsenIQ)によれば、2021年にはブランドはeコマースに回避策を見出し、主にeコマースの売上が牽引して、美容・パーソナルケアカテゴリは2020年比で16%売上を伸ばした。

パンデミックのたった1年前、2019年の美容の売上に占めるeコマースの割合はわずか11%であり、美容の購入の70%以上がオフラインの店舗への訪問を伴うものだった。しかし店舗が閉鎖されたことで、ブランドは流通戦略を再構築しなくてはならなかった。多くは、Amazonやウォルマート・マーケットプレイス(Walmart’s Marketplace)といったサードパーティの販売プラットフォームに目を向けたが、主要な流通チャネルとして小売店のウェブサイトも善戦した。小売業者も、eコンセッションやドロップシッピングという流通オプションを提供することで、ビジネスを拡大し始めた。また一部の買い物客は、営業を続けている「必要不可欠」な大型店やドラッグストアのチェーン店で美容製品の代替供給元を見つけていた。

美容マーケターは、買い物客がリアルタイムでブランド担当者とやり取りして製品を購入できるライブ配信を行うなどして、若いオーディエンスにアプローチできるTikTokやインスタグラムといったソーシャルコマース・プラットフォームで製品を直接販売する試みも行っている。しかし、すべてのeコマース・チャネルの最高位を支配するのは、従来のブランド直営のウェブサイトであり、もっとも収益性が高く、もっとも頻繁に利用されている流通チャネルとして、依然として他のeコマースを上回っている。

パンデミックによってeコマースが加速したとはいえ、実店舗が過去のものとなったわけではない。パンデミック時にD2Cに移行したブランドは、デジタルマーケティングのコストが法外に高いことに気づいており——Facebook、インスタグラム、GoogleのCPM(Cost per Mille、1000回インプレッション当たりの広告費)は上昇しており、配送コストもまた然りである——多くのブランドが、D2Cだけではなく、やはり小売パートナーが必要なのだということを理解している。さらに、米国ではワクチンが広く行き渡り、店舗も再開されたため、消費者は化粧品やスキンケア製品を直接試すために、思い切って再び外に出かけるようになっている。

店舗への来店客数の増加を意識して、ブランドは、セフォラとコールズ(Kohl’s)、アルタ(Ulta)とターゲット(Target)の事例のように、「ショップ・イン・ショップ」パートナーシップといった店舗でのオプションを拡大している。さらにいくつかのブランドでは、インフルエンサーを店舗に招いて自社ブランドを試してもらうことで、ソーシャルメディア戦略と実店舗でのアプローチを融合させている。また、ブランドがどのタイプの店舗で流通させているかは、製品カテゴリーによって異なることが多い。プレステージ美容ブランドは美容専門店、マス美容ブランドは大型店やドラッグストアチェーンに製品を置く傾向がある。

ブランドが利用できる従来の流通チャネルとeコマースの流通チャネルが数多くあり、Covid-19のパンデミックが収束に向かいつつあると言われているなかで、新たなトレンドを理解し、2022年とそれ以降のマーケティングおよびマーチャンダイズ計画の策定に必要な情報をブランドに提供するため、Glossyアニュアルレポートでは美容の売上と流通チャネルの状況を分析した。

メソドロジー

美容製品の流通の現状を評価し、パンデミック後の世界でどのチャネルが成功をもたらすかを理解するため、Glossyは業界の専門家たちに、過去2年間でマーチャンダイジングの取り組みがどのように変化したか、eコマースと店舗でのショッピングがどこで交差しているか、そして以下のどの流通チャネルを利用しているのかを尋ねた。

・ソーシャルコマース
・小売パートナーのウェブサイトや店舗
・自社で運営するプラットフォーム
・実店舗
・ライブストリーミング・プラットフォーム
・ゲーミングプラットフォーム
・直接販売業者
・サードパーティ販売業者
・ポップアップストア
・ブロックチェーンマーケットプレイス

Glossyでは、美容ブランドと小売業者へのオンライン調査、および美容企業のマーケティング、販売、小売パートナーシップを監督するシニアマネージメントエグゼクティブたちのフォーカスグループを通じて回答を集めた。また、さらなるインサイトを得るために32ブランドのデータベースを構築し、プレステージビューティとマスの小売の価格帯、カラーコスメとスキンケアのカテゴリーにわたる、ブランドの流通チャネルの分析、ソーシャルコマースの台頭の評価、プラットフォーム間のブランドのプレゼンスの把握を行った。

プレステージビューティは、平均以上の消費への支出が可能な所得をもつ消費者を主にターゲットとする高価格帯の製品のブランド、マスビューティは、あらゆる所得レベルの消費者を主なターゲットとする手頃な価格帯またはエントリーレベルの価格帯の製品を持つブランドと定義される。

Glossyのデータベースには、以下のブランドが含まれている:

オンラインマーケットプレイス、eコンセッション、ドロップシッピングが美容ブランドの流通選択肢を拡大

Glossyの調査では、ブランドに対して、美容製品の流通にどのようなチャネルを利用しているかを尋ねた。予想通り、ブランドは小売店の店舗とブランド直営のウェブサイトがもっとも一般的な流通チャネルだと回答している。しかし、Amazonやウォルマート・マーケットプレイスといったマーケットプレイスチャネルでの販売に乗り出すブランドも増えており、58%の回答者がマーケットプレイスを通じて販売していると述べている。特に、マーケットプレイスでの販売は、ブランドと小売業者のウェブサイトとのパートナーシップを徐々に追い越しつつあり、従来の小売業者とブランドとの関係性に大きな変化が生じていることを示している。

現在では小売業者自体も、eコンセッションやドロップシッピングのマーケットプレイスの流通オプションをブランドに提供するなど、この変化の大きな原動力となっている。どちらの選択肢にしても、ブランドは小売業者のウェブサイトを通じて販売することができ、在庫の保管とフルフィルメントはブランド側で完結させられる。またどちらの選択肢でも小売業者は製品の売上から手数料を受け取るが、ブランドは卸売価格で販売しないため、一般的に従来の小売業者とブランドの提携にくらべてブランドにとっての利幅が大きくなる。eコンセッションとドロップシッピングは、ブランディングに違いがある。eコンセッションでは、ブランドはデジタルストアフロントとマーチャンダイジングを維持しなければならないが、ドロップシッピングでは、小売業者がその両方を担当する。

これらのマーケットプレイス流通の利用を検討しているブランドは、eコンセッションドロップシッピングの長所と短所を比較検討する必要がある。eコンセッションでは、ブランドが小売業者のサイト上でデジタルプレゼンスを管理できるため、ブランディングをよりコントロールすることができる。一方、ドロップシッピングでは小売業者がブランディングをコントロールするが、ブランドの関与が少ないため、ブランドはドロップシッピングを複数の小売業者に拡大し、より広く流通させるためのさらなる余力を得られる。プレステージビューティブランドは、ブランドの一貫性を維持するためにeコンセッションがよりよい選択肢だとわかっているが、マスブランドは、より広範囲に製品を流通させるためにドロップシッピングを好むかもしれない。特に小規模なブランドにとって、従来の小売業者とブランドとの契約はマージンが低く、より多くの製品数量を要求されていたことから参入に障壁があったこともあり、いずれにせよ、これらの新しい流通モデルは消費者にリーチするためのさらに多くのチャネルをブランドに提供している。

ソーシャルコマースとマーケットプレイスが人気だが、実証済みのチャネルがもっとも高い利益をもたらす

前出のグラフにあるように、調査対象のブランドの50%が、インスタグラムやTikTokといったソーシャルコマース・プラットフォームでも販売を行っている。最近のソーシャルコマースの広がりと参入コストの低さにより、顧客に製品を提供する主要な経路としてこの流通チャネルは実店舗を凌駕しつつある。また小売業者のウェブサイトにも追いつき始めている。そのチャネルで製品を販売していると答えた回答者はわずか約57%にとどまった。

このスピードで導入が進めば、ソーシャルコマースは間もなく小売業者とのパートナーシップと同じくらいありふれた存在になるかもしれない。以下はGlossyがリストアップした、Facebook、インスタグラム、ピンタレスト(Pinterest)、TikTokの4つの主要なソーシャルメディアプラットフォームが提供するソーシャルコマース一覧である。

しかし、ソーシャルコマースとマーケットプレイスの両プラットフォームの採用率は高いにも関わらず、このふたつのチャネルは、重要な分野である収益性において、いまだに従来のチャネルに後れを取っている。Glossyの調査では、回答者はブランド直営のウェブサイトがもっとも収益性が高いと断固として述べているが、これはおそらく製品マージンがより有利であるためで、また小売店の店舗とウェブサイトがそれに続いている。マーケットプレイスチャネルは収益の面では小売店のウェブサイトに近いが、定評のある小売店とのパートナーシップは、ブランドが慣れ親しんでいる明確な流通プロセスを提供することで、依然として両者を上回っている。

ニールセンIQによると、2021年は美容製品の総売上げの29%がオンラインショッピングによるもので、現在までに消費者の65%が美容製品をオンラインで注文したことがあるとされている。エスティローダー(Estée Lauder)は、2021年6月30日に終了する会計年度の財務報告書でそうした意見に同意しており、自社サイト、小売店サイト、デジタルマーケットプレイスでの販売へとオンラインプラットフォームの拡大を継続するなかで、ほぼすべてのブランドでデジタルでの売上が増加したと述べている。

ブランド直営のウェブサイトはもっとも収益率が高く、その結果、美容ブランドの主要な流通チャネルとなっているが、消費者のデジタルでの購入が増加し続けているので、より新しいオンライン流通チャネルも成長が期待できる。

ブランドはショッパブルなライブストリームで顧客を惹きつけている

ブランドは、新規顧客を惹きつける力があるとして、ライブストリーミングが成長する分野であることも指摘している。実際、Glossyの調査結果では、企業が新規顧客を呼び込むためにもっとも投資すべきだと考える流通チャネルとして、ライブストリーミングがソーシャルコマーススペースを上回っている。

Glossyが実施した美容ブランドのシニアエグゼクティブを対象としたフォーカスグループでは、参加者の多くが、ライブストリーミングは消費者向け製品を販売するための次の注目の場所であるという考えに同意した。「当社の『ブルーミングスキンショウ(Blooming Skin Show)』を通じて我々はライブストリーミングで大きな成功を収めている」とスキンケアブランドのビークマン1802(Beekman 1802)のCMOブラッド・ファレル氏は述べている。「限定商品やギフトを販売することと、物事への独占的なアクセス(を提供すること)のすばらしい組み合わせとなっている」。

ビークマン1802は、ライブストリームショッピングソフトウェア会社のライブスケール(Livescale)と協力して、(専用のランディングページ付き)ライブストリームをビークマンのウェブサイトでホストしており、またFacebookやインスタグラムでもライブストリームを配信している。消費者がその空間を探し出し、そこで買い物をするよう気を引くために、限定商品や異なる商品の品揃えを追加することで、ライブストリームを純粋なマーケティングチャネルではなく、流通チャネルとして扱っている。

ソーシャルコマースの上位3つのプラットフォームのうち、それぞれがライブストリーミング機能を提供しているが、ライブストリーミング中にショッピング可能な機能を提供しているのはFacebookインスタグラムのみである。Glossyの調査では、ブランドはメタ(Meta)所有のプラットフォームをソーシャルコマースにもっとも多く活用していると指摘している。

一方、TikTokは、ショッパブルではないライブストリーミングしかできない。しかし、中国版TikTokである抖音(Douyin/ドウイン)は、ショッパブルライブストリームを提供しており、TikTokユーザーは将来的にはこの機能を目にすることになると思われる。ピンタレストも2021年にライブストリーミング機能であるピンタレストTVを追加した。ピンタレストTVが他のライブストリーミングオプションと異なるのは、ブランドが独自のスケジュールでストリーミングできるようにするのではなく、ピンタレスト側でブランドを選択し、特定のショーを作成して紹介するという点だ。

従来のソーシャルプラットフォームがライブストリーム機能を構築している一方で、これまでビデオゲームのライブストリーミングやクリエイティブなコンテンツに注力してきたTwitch(ツイッチ)のような競合も、ようやく事態に追いつき始めているか、あるいは少なくとも状況を理解し始めてしている。シャーロットティルベリー(Charlotte Tilbury)がガールゲーマーTwitchチャンネルと提携したように、美容ブランドはTwitchのインフルエンサーと提携してTwitchのオーディエンスに自社を紹介するようになってきた。E.l.f.のような他のブランドは、独自のTwitchチャンネルを立ち上げている。

ブランドやインフルエンサーはどちらも、Twitchをはじめとするライブストリーミングのプラットフォームやサービスで高い視聴率を獲得しており、2020年から2021年にかけてTwitchの視聴者数は83%増加している。ライブストリーミングがマーケティングやコマースの戦術として一般的になっていくにつれ、Twitchのようなプラットフォームは提供サービスを増やし、他のソーシャルプラットフォームと同様にブランドやインフルエンサーの戦略の中心となる可能性がある。また、ピンタレストTVの最近の発展にみられるように、旧来のプラットフォームも、アテンションと予算を得るためにライブストリーミング機能を成長させていくと思われる。

ブランドは革新的なインフルエンサーのイベント、新たなショッピングアプリ、クロスチャネルのソーシャル戦略でソーシャルゲームを向上させる

ソーシャルコマースの人気が高まり、ブランドがライブストリームの将来を見据えるなか、ブランドはマーケティング予算の大部分をソーシャルチャンネルに割り当てている。Glossyの調査では、他のデジタル広告やオフラインマーケティングよりも、ソーシャルメディア広告に予算の41%以上を割り当てた回答者が多かった。ただし、店舗イベントなどのオフラインマーケティングは、パンデミックの間に突然中断され、ブランドのマーケティング戦略に少しずつ戻り始めているという点には注意すべきだろう。

ソーシャルに費やす金額が増えるにつれ、ブランドは従来のやり方だけでなく、さまざまなプラットフォームや戦略を試している。そのなかでも、Glossyのフォーカスグループのエグゼクティブたちが言及したのはフリップ(Flip)アプリである。これは2019年にローンチしたソーシャルアプリで、TikTokの短い動画フォーマットを模倣しているが、特にショッピングに注力しており、基本的にデジタル小売業者として運営されている。この新たなプレーヤーは美容ブランドとのみ提携していて、2021年9月までに100万ダウンロードを超え、3万件以上の注文を出荷している。フォーカスグループでは、リバイブスキンケア(RéVive Skincare)のマーケティングおよびeコマース・シニアバイスプレジデントのアマンダ・カーン氏がこのアプリについて強調した。「フリップは非常に成功している。いまやフリップにはかなり忠実なファンがいるので、本当にスケールアップし始めている」。

また、エグゼクティブたちが注目すべきソーシャル戦略として取り上げているものに、「インフルエンサー・イマージョン」がある。スキンケアブランドのノーブルパナセア(Noble Panacea)でグローバルセールスを率いるドーン・ヒラージック氏は、「我々はインフルエンサーを小売店のパートナー店舗に招待し、ブランドを体験してもらっている」と述べている。「そうすることで、インフルエンサーのソーシャルネットワークを利用して、可視性やブランド認知度を高め、教育することができる」。この戦略は、インフルエンサー戦略と小売店戦略を融合させたもので、先の分析でも指摘したように、小売店の店舗やウェブサイトはソーシャルコマースよりも収益性が高いため、有力な方策となる。

プラットフォームの数が増え、それぞれに独自の効果的な戦略があるなかで、ヘアケアブランドのフェイブルアンドメイン(Fable & Mane)のCEOでグロース・アンド・デジタルマーケティング専門家であるアケーシュ・メヘタ氏は、クロスチャネルの観点からソーシャルメディアについて語った。「インスタグラムにいるTikTokerを寝かせてはいけない」と彼は述べている。「TikTokに300万人のフォロワーがいる人のインスタグラムのフォロワー数は1万6000人かもしれないが、インフルエンサーにTikTokのコンテンツをインスタグラムに再投稿するよう説明するという二重性が、(当社では)多くの成功につながっている」。

「TikTokerは高額だが、インスタグラムのチェックアウト・コード付きのストーリーはもっと安く、大きなコンバージョンも得られる。ふたつの存在を区別するのではなく、ひとつの存在として考え、ブランドにとってさらに手頃な価格になるクリエイティブな方法はある」。

ソーシャルをニッチな市場を持つ個別の領域ではなく、ユーザーが重なり合って、互いに高め合う一連のプラットフォームと捉えるこうしたアプローチは、美容ブランドがソーシャルメディア広告の背後に置く複雑なマーケティングプランの必要性を強調している。

トレンドの変化はソーシャル戦略だけでなく、流通にも影響する:プレステージビューティが拡大する一方で、マスは依然として旧チャネルで成功を収めている

ソーシャル戦略を拡大するにつれて、パンデミックと消費者の購買動向が美容小売店の状況を一変させたため、ブランドはまた、流通戦略も固めてきている。Glossyの調査では、調査対象のブランドの半数以上が百貨店で小売りを行っており、回答者のじつに81%がセフォラやアルタといった美容専門店を通じて販売していると回答している。ブランドは、価格設定のカテゴリーによって特定の小売店を好む傾向がある。プレステージは高価格帯、マスはより手頃な価格帯となっている。

Glossyのプレステージビューティ分野の32ブランドのデータベースを分析したところ、小売店の販売チャネルとしてはセフォラがもっとも一般的で、それにすぐ次いでアルタが多いことがわかった。どちらの小売店もショップ・イン・ショップのパートナーシッププログラムを提供しており、セフォラやアルタのパートナーシッププログラムに参加しているブランドは、それらのパートナーシップ(オンラインと店舗の両方)を通じて新たなオーディエンスにリーチすることができている。特に、プレステージブランドはこの戦略によって、製品が従来の百貨店や高級店に限定されていたときにはアクセスできなかったプレステージビューティの消費者が多く存在していたことがわかった。

セフォラがマスを対象にした小売業者のコールズと提携したことで、コールズはプレステージ領域に参入することができたが、すべてのセフォラ流通ブランドがコールズでの販売を許可しているわけではない。アルタはターゲット(Target)と提携しているが、ターゲットという量販店にプレステージブランドをそれほど多く取り込むことには成功していない。カラーコスメブランドであるスマッシュボックス(Smashbox)のグローバルエンゲージメントおよびデジタルマーケティングエグゼクティブディレクターのヘザー・ドゥカウニー氏は、プレステージビューティブランドの数が少ないにも関わらず、ターゲットの流通戦略にはメリットがあることを指摘している。「私たちはアルタとともに、アルタ・アット・ターゲットをローンチした」と彼女はGlossyのフォーカスグループで述べた。「まったく新しいオーディエンスにリーチすることに非常に成功したことがわかった。そこでの売上の多くは、Z世代だったことが判明したのだ」。

マスビューティ価格帯におけるブランドによる流通をみると、流通の混在の中ではアルタが唯一の美容専門となっており、その幅広い製品の種類と他の小売業者とくらべて美容の買い物客のデモグラフィックの多様性が示されている。アルタ以外では、大型店やドラッグストアなど、より一般的な量販店が上位の小売パートナーシップを占めており、消費者は依然としてウォルマートやウォルグリーン(Walgreens)のようなアクセスのよい場所でマスビューティ製品を購入することを望んでいることを示している。

ワクチンが普及する前のパンデミックの間、大型店やドラッグストアは生活に必要不可欠な店舗とされ、多くの百貨店が閉店を余儀なくされるなかでも営業を続けることができた。その結果、直接買い物ができる数少ない場所として、それらの空間に存在していたブランドは消費者にリーチする機会が増えた。メンズヘアケアブランドのスコッチポーター(Scotch Porter)のマーケティングおよびeコマース・バイスプレジデントであるアリーシャ・ウォーシントン氏は、Glossyのフォーカスグループにおいて、これらの生活必需品店舗でプレゼンスを示すことの重要性について、「興味深いのはCovid19の間にローンチすることだ」と述べている。「ターゲットとウォルマートが新たなデートスポットとなった。そこで我々にとって、それらの店舗は顧客にアピールするための本当に理想的な場所となった」。

スキンケアブランドは自社サイトでの流通を好み、カラーコスメティクスはUlta.comに目を向けている

Glossyのブランドデータベースで製品カテゴリー別の流通をみると、さらにいくつかの明確な戦略が浮かび上がってくる。調査したカラーコスメのブランドでは、前の項目でも述べたように、美容専門店が明らかに好まれており、かなりの数のブランドがそこ通じて流通している。美容専門店では、流通チャネルとしてはアルタがブランド直営ウェブサイトを上回り、カラーコスメブランドの流通パートナーとしてトップの座に立っている。もうひとつのトップクラスの美容専門店であるセフォラは、流通業者としてはドラッグストアや大型店に後れをとっている。とはいえ、セフォラがプレステージビューティのみを販売しているのに対し、アルタはマスとプレステージの両方を取り扱っているため、取り扱うブランドの数もより多いという点は留意すべきだろう。

一方、調査対象のスキンケアブランドは、圧倒的に自社サイトに依存する傾向がある。スキンケアカテゴリーは製品の使い方に関する学習曲線がより急勾配となっているため、製品も製品情報も自社サイトが主な販売・発信源となっている。スキンケアの分野ではカラーコスメとは異なり、アルタとセフォラがともに63%と接戦している。カラーコスメブランドは明らかにアルタに偏っているが、スキンケアブランドはまだ分かれている。

結論と覚えておくべきこと

2020年と2021年にパンデミックに関連するさまざまな問題が発生した後、美容市場は2002年には健全な方向に向かっており、スタティスタ(Statista)によると、米国の美容とパーソナルケアの収益は880億ドル(約11兆2500億円)に達すると予測されている。ブランドがソーシャルな流通チャネルを引き続き試行錯誤しているため、eコマースが主導し続けるだろうと予想される。マッキンゼーによれば、eコマースは美容の販売においてもっとも急速に成長しているチャネルであり、2024年までに最重要チャネルとなるだろう。

Glossyのフォーカスグループのメンバーが指摘したように、「未来の店舗」はオンラインと対面販売の融合となり、eコマースと実店舗の経験が組み合わってシームレスなショッピング体験を提供することになりそうだ。店頭でQRコードをスキャンしてオンライン・レビューを読み、購入を決定することから、オンライン・インフルエンサーを店頭に招いて製品を試すイベントを主催して、実店舗を「エンターテインメントのハブ」とすることにいたるまで、さまざまなことが考えられる。ブランドと小売業者の実験する意欲によってのみに未来は制限されるようだ。

2022年の美容販売と流通チャネルの状況に関するGlossyのアニュアルレポートから、いくつかの重要なポイントを紹介する。

・ブランドはマーケットプレイスチャネルでの流通を増やしており、回答者の58%がマーケットプレイスで販売していると答え、従来の小売業者のウェブサイトとのブランドのパートナーシップを徐々に追い越している。

・現在、より多くの小売業者が、ブランドのためにeコンセッションドロップシッピングという流通の選択肢を提供している。eコンセッションでは、より多くのブランディングをコントロールすることができ、一方ドロップシッピングでは、小売業者がブランディングをコントロールする代わりに、マーチャンダイジングを維持するのに少ない従業員しか必要としない。

・ソーシャルコマースやマーケットプレイスのプラットフォームの導入率は高いにもかかわらず、もっとも利益を上げているのはブランド直営のウェブサイトであり、次いで小売業者の店舗やウェブサイトとなっている。消費者のデジタルでの購入が引き続き増加するのに伴い、新たなオンライン流通チャネルの成長も期待されている。

・企業が新規顧客を引きつけるためにもっとも投資すべき流通チャネルとして、今回の調査では「ライブストリーミング」が「ソーシャルコマース」を上回った。

・元々ビデオゲームのストリーミングに焦点を当てていたTwitchのような新しいライブストリーミングプラットフォームは、美容ブランドとの提携を始めている。旧来のソーシャルプラットフォームは、この上昇する消費者領域で競争するために、ライブストリーミング機能を成長させると思われる。

・Glossyの調査では、他のデジタル広告やオフラインマーケティングよりもソーシャルメディア広告に予算の40%以上を割り当てた回答者が多い。主要なマーケティングチャネルとしてソーシャルメディアの活用が増加しており、ソーシャルメディアを実験的に利用した複雑なマーケティング戦略が求められている。

・プレステージビューティの中では、セフォラがもっとも一般的な小売業者の販売チャネルであり、アルタが僅差でそれに続いている。どちらもショップ・イン・ショップの提携を結んでおり、こうした提携を通じて、ブランドは新たなオーディエンスにリーチできるようになった。

・カラーコスメブランドでは、流通チャネルとしてアルタがブランド直営サイトを上回っている。一方、スキンケアブランドは自社サイトに依存している。

[原文:Glossy Annual Report 2022: The state and future of beauty brand distribution]

LI LU(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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