ビューティ業界における APPI の表現について語る:タッチャのヴィッキー・ツァイ氏、ダニエル・マーティン氏

DIGIDAY

サンフランシスコを拠点とするスキンケアブランド、タッチャ(Tatcha)の創業者でCEOのヴィッキー・ツァイ氏は、2009年に同ブランドを立ち上げた。ツァイ氏は、日本の芸妓の美のリチュアル(作法)にヒントを得たという。2020年には同ブランド初のアーティストリー&エデュケーション・グローバルディレクターとして、セレブリティのメイクアップアーティストであるダニエル・マーティン氏が加わった。マーティン氏はナチュラルメイクに関する専門知識を提供し、ツァイ氏と共同で革新的な新製品のローンチを行っている。スキンケアブランドとメイクアップアーティストというのは従来にはみられなかったパートナーシップだが、マーティン氏の信念はタッチャのブランドバリューにぴったり調和している。ツァイ氏と同様に、マーティン氏も美しいメイクアップは美しい肌から始まると考えている。

アジア系アメリカ人のレプリゼンテーション

ツァイ氏とマーティン氏のコラボレーションは、同じ系列の業界における表現の重要性を証明している。ふたりは美容業界におけるAAPI(アジア太平洋諸島系アメリカ人)のレプリゼンテーションの欠如に対抗するために公に提携し、AAPIコミュニティのほかの人々の手本となっている。

タッチャは、顧客に若返りのスキンケアのリチュアルを提供するだけでなく、世界にポジティブな影響を与えることに専念している。2014年にローンチした同社の教育基金「ビューティフルフェイシズ、ビューティフルフューチャーズ(Beautiful Faces, Beautiful Futures)」は、非営利団体のルーム・トゥ・リード(Room to Read)を支援するものだ。フルサイズの美容製品の売上から、十分なサービスを受けられない地域の子どもたちに均等な教育機会を与える活動への資金提供を行っている。

東アジアの美容企業について、また欧米の美容業界におけるAAPIのレプリゼンテーションの拡大など、よりインクルーシブな美容コミュニティに向かう最近の進展について、ツァイ氏とマーティン氏がGlossyに語ってくれた。

台湾系アメリカ人というアイデンティティは、タッチャのアプローチにどのような影響を与えたか?

ツァイ氏:「台湾系アメリカ人という自分のルーツをきっかけに、日本の美容文化に興味を持つようになった。東アジアの文化は歴史を共有していることが多く、その共有の歴史は言語、芸術、食、美容、健康などの文化に影響を与えている。日本の美容文化の成分や原理は、台湾の伝統を受け継いでいる私にとってなじみ深いものでありながらも、アメリカ人として育った私には興味深いほど異なっているように思えた。

私の目標はつねに、自分の肌と精神を癒してくれた哲学と実践を共有すること。その結果、タッチャの顧客とその肌をケアするアプローチはほとんど変わっていないのだが、いま私たちが歴史的な時代に生きているからこそ、そうしたアプローチはより多くの人から共感を得ているのかもしれない。Covid-19(のパンデミック)によって、多くの人が、肌と心はつながっていること、見た目の美しさと内面の心地よさにはウェルビーイングの実践が不可欠であることを理解するようになった」。

ーーあなたのシグネチャーである「ノーメイク」のルックは、あなたの生い立ちや文化からどのようにインスパイアされているか?

マーティン氏:「高校時代に嚢胞性にきびに悩まされた者として、仕事では肌を尊重することを自分の使命としてきた。濃い厚化粧(のルック)が好きではないので、できるだけ(自分の肌が)完璧に見えるようにしたいと思っている。継母や姉妹が長年、韓国の美容法を実践していたので、それについても子どもの頃からよく知っている。それも私の心理に大きく影響している」。

ーータッチャが顧客に「肌と心の調和」をもたらすという約束を維持する上で、文化やコミュニティは重要な役割を担っているか?

ツァイ氏:「もちろんだ。東洋の健康法は、脳、身体、皮膚、そして精神にいたるまで、すべてが全体的な(ホリスティックな)システムの一部であることをつねに認識している。だから東洋医学はよくホリスティック医学と呼ばれているのだ。したがって私たちの東洋のルーツは、私たちの肌や処方の哲学、そして顧客サービスの哲学を特徴づけるものとなっている。

また、私たちの目的に対するコミットメントには、文化も重要な役割を果たしている。東洋文化では、私たちは皆、より大きな全体の一部であるという認識があり、歴史的にも個人主義を強調する傾向が少ない。私たちはつねに、サービスを提供する人々への影響と責任を考えている。ルーム・トゥ・リードのパートナーとなって世界的に女子の教育を支援しているのも、それが理由のひとつだ。美容業界は、歴史的に女性や女性たちの自尊心という感覚に大きなダメージを与えてきた。私たちは、美しさは心と精神から始まると信じている。私たちの顧客が、世界中のすばらしい少女たちの美しい未来を作る手助けをしていることに感謝している」。

ーーあなた自身の伝統や立場を考慮すると、アジア人以外の消費者に対するマーケティングのアプローチに違いはあるか?

ツァイ氏:「ブランドの約束とコレクションの効能は、すべての人と同じ方法で共有している。私たちが従来のいくつかの欧米企業と異なる点は、マーケティングにおいて人々の不安につけこんだり、脅すような戦術を用いることとを信用していないことだ。私たちが信じているのは、顧客の肌の健康のためにどのようなケアをすればよいのか、また、スキンケアのリチュアルをシンプルで楽しい健康の実践とするにはどうすればいいのか、顧客を教育することだ」。

ーー西洋の美容の規範から外れていることで、タッチャは困難に直面したことがあるか?

ツァイ氏:「西洋の常識から少し外れたものを発売するたびに、疑惑や懸念に直面してきた。エッセンス、米酵素パウダー、芸妓がびんつけ油を手で伸ばす手法を応用した化粧下地などをローンチしてきたが、どれもすべて西洋の顧客には馴染みのないカテゴリーだ。しかし、これらが私たちのリチュアルの基礎となっている。なぜなら、一度これらのフォーミュラを使用することのメリットや喜びを学んだ顧客は、その穏やかな変化を評価して、私たちとの関係を続けてくれるからだ。

歴史的にみると、西洋のスキンケアは、どんなことをしてでもすぐに結果が出ることを約束する傾向がある。肌にしみることが効能の証明であるとか、肌を「除去する」ことが当然であるという考え方は、私たちが信じているあらゆることに反している。私たちはいまでもよく、もっと西洋的なアプローチをとるように勧められるが、自分たちの処方理念については明確であり、変化をもたらす結果と優しい成分は互いに矛盾するものではないことを知っている。

ーータッチャを作って以降、インクルーシブという点で業界はどのように変化したか?

ツァイ氏:「世界中の独特な美容文化を表現し、美容におけるあらゆるシェードやジェンダーを代表する起業家たちの新しいスタートアップをたくさん見てきた。(これらのスタートアップは)ブレークスルーであり、セフォラ(Sephora)のような小売業はインキュベータープログラムを活用して、こうした若い創業者たちが美容業界に新しく重要な視点をもたらすのを助けている。これらの新しいブランドも、タッチャの『ビューティフルフェイシズ、ビューティフルフューチャーズ』プログラムのように、自分たちのビジネスモデルに社会的事業を組み込んでいる。これは、私たちが創業した当時にはなかったことで、いまそうした状況を目にすることができてうれしく思う。

また、アジア人が創業した多くのブランドが主流となりつつあることで、アジアでより確立されているカテゴリーが米国で成長し始めているのも目にしている。クレンジングオイル、シートマスク、さらにはエッセンスも、いまではスキンケアのに欠かせないものとしてたくさんの人に受け入れられている。私たち全員に活躍の場があり、みんながここにいることに感動している」。

ーー今年のAAPIヘリテージ月間(アジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産月間)は、タッチャではどのように祝う予定?

ツァイ氏:「日本のウェルビーイングのリチュアルを共有するために存在する企業として、またタッチャファミリーの多くがAAPIコミュニティの一員であることから、AAPIヘリテージ月間は私たちにとってとても意味のある時期だ。

私はハーバード・ビジネス・スクールの学生たちと一緒に、職場におけるAAPI女性のレプリゼンテーションについての調査を開始したが、正直に言って(その結果を)読んでショックを受けた。『ハーバード・ビジネス・レビュー(The Harvard Business Review)』は、アジア系アメリカ人は米国でもっともリーダーシップに昇進する可能性が低いと報告している。私たちは異国的であると見られるため、嫌がらせや人種・性別による偏見を受ける可能性が高く、だがそれを報告する可能性はもっとも低い。特にAAPIコミュニティに対する暴力が増加していることを考えると、これらは厳しい事実だ。

でもアジア系アメリカ人のディアスポラの人々は、何千年もサバイブしてきた文化の出身だ。私たちには、自分たちの文化の中に築かれてきた歴史、知恵、回復力の膨大な蓄えがあって、それを駆使して経験を通じて成長することができる。

アメリカで育った私が子どもの頃に望んでいたことは、典型的なアメリカ人になって、社会に溶け込みたいということだけだった。いまでは、自分の中にある本質的に受け継いできた文化的な多様性にとても感謝している。コミュニティと力をもっとも必要とするときに、それが私のスーパーパワーとなっている」。

[原文:Tatcha’s Vicky Tsai and Daniel Martin on AAPI representation in the beauty industry]

REBECCA RUSSO(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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