オゾン・プロジェクト(The Ozone Project)には、英国の一部最大手パブリッシャーの単なる御用達メディアレップ以上の存在になりたいという思いがある。
彼らにはもっと大きく、複雑な野心がある。つまり、あらゆる市場のあらゆる規模のプレミアムなパブリッシャーに、厄介を回避できる場を提供したいのだ。
このため、オゾン・プロジェクトではパブリッシャーが自社の広告事業を伸ばしていくためのテクノロジーやサービスを提供している。
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オゾン・プロジェクトの中核サービス
サービスは大きくふたつに分けられる。まずは、パブリッシャーが自社インベントリーの販売をもっとコントロールし、最終的にはオープンウェブへのデータ流出を防ぐためのテクノロジーの層がある。もうひとつは、パブリッシャーが販売を行っていない市場でも広告収入を得られるようにするサービス群だ。
オゾン・プロジェクトのCOOを務めるダニー・スピアーズ氏は「過去10年ほどのプログラマティックの進化を通して、パブリッシャーはインベントリーとデータのもっとも重要な資産を期せずして広く市場に開放してしまい、それらがサードパーティのサーバーに保存されている」といい、「そのデータを、パブリッシャーと競合する仲介者が市場に持って行くという事態になっている。こうしたデータ資産を巡るコンプライアンスと統制に、大きなニーズが生じている」と話す。
たとえば、テクノロジー面のサービスを見てみよう。3つの異なる部分から構成されるサービスは、どれもパブリッシャーのサイトで販売されるインプレッションから少しでも多く価値を絞り出すことを図る。
このコントロール目的の層の最初の部分は、「オゾンID」という許可ベースの識別子だ。オゾン・プロジェクトでこれを利用するパブリッシャーのインベントリーのアドレサビリティは2019年の52%から現在では82%に達している。いいかえると、このIDのおかげで広告主がインベントリーにもっと高い値を付けやすくなっている。
次にあるのが、オークションの履歴データを使用してパブリッシャーのどのようなインベントリーが広告主にもっとも魅力的に見えるのかを把握させてくれるテクノロジー。基本的に、インプレッションをどうオークションに出せばよいのかをより細かく検討できるようにするものだ。うまくやれば、パブリッシャーは広告収益の増加だけでなく、入札してもらえる頻度の向上も狙える。
インプレッションを最良の形で提示できるようにするためのデータに加え、同様にインプレッション販売にもっとも適したアドテクベンダーを探すこともできる。この情報をもとに、そのインプレッションをどのアドテクベンダーには出すべきで、どこには出すべきでないのかを判断できるのだ。
こうして入札の重複が削減できる。たとえば、インプレッションを実際に収益につなげることができるアドテクベンダーが5社のうち2社だけだと教えてくれるテクノロジーがあれば、そのインプレッションを5社すべてに送る必要はなくなる。オークションが増えるとデータ漏洩の可能性も高くなるが、そのような漏洩を抑える効果もあることはいうまでもない。
これらのサービスはすべてサーバーサイドのものであるため、その技術を統合する負担はパブリッシャーのページから離れてオゾン・プロジェクト側に移り、ページの読み込み遅延も回避できる。オゾン・プロジェクトのSaaS製品の中核を成しているのはこうしたサービスだ。
「サプライチェーンのコントロールを取り戻す話は業界全体に見られるが、それは最終的には流通をコントロールすることを意味する」とスピアーズ氏は述べる。「この一群のテクノロジーは、パブリッシャーが自分たちのサプライチェーンのコントロールを取り戻し、提携パートナーからより多くの価値を生み出すためのものだと考えている」。
ジャーナリズムというビジネスへの影響
だが、プログラマティック担当チームを置く余裕がなく、したがってSaaSモデルを使いこなすこともかなわない小規模パブリッシャーもある。オゾン・プロジェクトは、こうしたパブリッシャーに対しては、代わりに入札管理のマネージドサービスを提供する。
この場合、パブリッシャーが直接販売しないインベントリーは、オゾン・プロジェクトのチームが管理する。オゾン・プロジェクトのエキスパートたちが、ヘッダービディングを通して行われるオークションとGoogleのアドエクスチェンジを総合的に管理するのだ。通常は、ヘッダーソリューションでオークションが実施されたあとにGoogleのアドエクスチェンジを経て最終的な入札がパブリッシャーに送られるが、オゾン・プロジェクトなど一部のソリューションでは、両方の入札を見てから最高入札をパブリッシャーに戻すことができる。
これまでオゾン・プロジェクトのパブリッシャーは、このサービスを主力市場以外におけるトラフィックの収益化を図るために使用してきた。
ここまでは特に目新しいことは何もない。実際、これらのサービスは長いものでは18カ月前から提供されているものもある。テレグラフ(The Telegraph)の入札管理業務は、そのときからオゾン・プロジェクトに移されている。英国外でも、15社の有名パブリッシャーがオゾン・プロジェクトのテクノロジーをすでに利用している。だがオゾン・プロジェクトは、最近までこうしたサービスを世界中のパブリッシャーに広く提供してはいなかった。
スピアーズ氏は「世界中の市場でジャーナリズムというビジネスに影響を与える力がオゾン・プロジェクトにあるのか、その力を持続できるのかという問題」だと語る。
ついて回るマーケターたちの期待
Cookieがあるところ、Cookieを使用して個人レベルでアドレサブルな集団をトラッキングできるのではというマーケターの期待もついて回る。広告主は相応に反応している。彼らはサードパーティCookieなしでトラッキングとプロファイリングを行う態勢を整えているところであり、現在それを試すことのできるもっとも拡張性のあるテスト対象が、パブリッシャーによってキュレーションされたオーディエンスなのだ。
ガートナー(Gartner)のアナリスト、エリック・シュミット氏は「多くのCMOが全体的にメディアをどう割り当てるか、基本的な前提を見直している」と話した。ブラウザ内広告インベントリーに基づくオープンウェブ的なモデルの見通しはあまり有望ではない。現実問題として、多くのメディア予算担当者はGoogleにかける予算を最大限活用する方法、メタ(Meta)に対する投資のモニタリングと調整、そして未開の地であるネイティブメディアプラットフォームを探ることのほうに意識を向けている。アドレサブル広告を推進するために必要なファーストパーティ的な関係を消費者と持っているのは、ネイティブメディアプラットフォームであるからだ。
[原文:‘Taking back control’: U.K. publisher ad alliance The Ozone Project charts global growth plan]
Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:長田真)