もちろん、「のぞき」はいけない。しかし、壁にちょっとした穴が空いていて、そこから向こう側の部屋の明かりが漏れていたりしたら……。ちょっと覗いてみたくなるのが人情なのではないだろうか? ドキドキしながら穴に顔を近づけて向こう側を覗く。もちろんいけない事なのだが(しつこい)、ちょっとでもその感覚を味わう事は出来ないか。
という訳で、「のぞき穴付きの板」を持ち歩き、日常の光景を、あたかものぞき見しているかの様に演出してみる事にした。
のぞき穴から見る世界はいつもと違って見えたのか?
※2005年11月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
「105円でのぞき穴を作る」
のぞき穴から色々なものを見る為に、携帯出来る「のぞき穴付きの板」を用意する事にした。
そして、東急ハンズ。
なるべく壁っぽい材質の板を選び、穴空けの加工処理をお願いする。板の中央に直径3センチの穴を作ってもらう。加工費用は105円だ。
加工指示書に穴の位置と大きさを記入すると、東急ハンズのスタッフがその通りに仕上げてくれる。
せっかくなので普通の穴とは別に、鍵穴風の穴も作ってもらう事にした。
出来上がってから気付いたのだが、これは鍵穴ではない。鍵の「型抜き」だ。
こんな穴で開け閉めする鍵なんて見た事ない。
鍵穴の方は210円かかったが失敗に終わった。
フォトショップといえば、あれだ。今回の企画、普通に撮影した写真に後からフォトショップで黒い縁取りをつければいいんじゃないか、そんな風に思われるかもしれない。
しかし、そうじゃない。実際に穴からのぞいてみる事で、日常的な光景に「のぞき見」のドキドキを導入する。それが目的なのだ。
普段見慣れた風景がこの穴越しにどう変化するのか?
この目で確かめるため、板を持って町に出る。
「変化する日常の風景」
朝の通勤電車。
いつものこの風景に「のぞき穴付きの板」をかざしてみる。
板を一枚挟む事で、こっち側とあっち側に区別されたように思える。3センチののぞき穴がかろうじてあっち側とこっち側をつないでいる。
が、「のぞき見している」という感覚からは少し遠い。ちょっと視界が狭くなった。残念ながら、その程度の変化しか感じられない。
のぞき見する対象が何かに没頭している様なシチュエーションを探そう。
例えば、昔のアニメ「一休さん」にもそんなシーンがあった。
障子に穴を空けて和尚の部屋を覗く一休さん。中では和尚がおいしい水飴を一人占めしている。水飴に夢中な和尚は一休さんが覗いている事に気付かない。
つまり、おいしいものを目の前にすると人は無防備で夢中になれる、という事だ。
という訳で、ファミリーレストランに移動して「水飴に夢中な和尚をのぞく一休さんの気分」を味わいたいと思う。
電車の中と比べ、のぞき見っぽさが増した様に見える。
しかし、こっちは顔の前に板をかざしている訳で、そんな怪しい姿を長時間キープすることなんて出来ない。のぞき見対象に気付かれる前に、店員さんから注意されてしまう。
もっともっとのぞき見感覚を味わう為には、ある程度長い時間その対象を見守らないといけない様だ。
ならば誰かが仕事をしている姿を見守る、というのはどうだろうか?
そう思い立ち、当サイトの編集部にお邪魔する事にした。ウェブマスター林さんの仕事風景をのぞき穴から観察する。
今度こそ、一休さんの気分を味わいたい。
「デイリーポータルZ編集部をのぞき見する」
ニフティさんにやって来た。
ここにはデイリーポータルZの編集部があり、ウェブマスターの林さん、月曜日ライターの古賀さん、制作担当の橋田さんが働いている。
普段は商談スペースで打ち合わせする事が多く、林さんたちのワークスペースに立ち入る事はない。今回は特別に、商談スペースとは別フロアにあるデイリーポータルZの編集部にお邪魔した。
しばらくの間、ここでデイリーポータルZ編集部の仕事ぶりを見守る。
僕の事は気にせずいつも通り仕事して下さい。3人にはそう伝えておいた。
この日は、夜からデイリーポータルZの編集会議が行われる予定だった。もちろん僕も参加する事になっていたので、編集部から商談スペースに場所を移した。今度は編集会議の様子をのぞき穴から観察する。
デイリーポータルZでは、ほぼ毎週、編集会議が行われている。この日の参加者は、林さん、古賀さん、べつやくさん、乙幡さん、三土さん、宮城さん。
各自がそれぞれ自分の企画案を発表し、それについてみんなで意見を交わす。そんな丁寧なやりとりが繰り返される為、いつも2時間以上の長丁場となる。
この日もいつも通り、編集会議は長時間に渡った。時間が経過するうち、僕がのぞき穴からのぞいてる事をみんなが気にしなくなっていく。そのおかげで「水飴の和尚さん」的な状況を穴越しに垣間みる事が出来た。
上の写真からも「のぞき見している感」がにじみ出ていると思う。
と、ここまでは僕が他者の様子をのぞいて来た訳だが、これで終わってしまってはフェアじゃない。
最後に、「逆に僕がのぞき見される」という状況を作ってみた。
「逆にのぞかれる」
弊社のスタッフに「のぞき穴付きの板」を渡し、僕が気付かないうちに僕をのぞく様にお願いした。
午前中はデスクワーク、午後からは外出して打ち合わせというスケジュールの中、スタッフはこっそりと僕に着いてのぞき穴越しに僕の姿を撮影していた様だった。
以下がその記録である。
…すみません、嘘です。
そしてのぞき穴は何を変えた?
のぞき穴越しに色々なものを見てきたが、完璧にのぞき見のドキドキ感を味わう事は出来なかった。
それはきっと、のぞき見の対象から僕の姿が丸見えだったからだろう。
これじゃあ、のぞき見になってない。