ADVERTISING WEEK ASIA2022 が、3年ぶりにリアルイベントとして東京ミッドタウンへ帰ってきます! 本イベントのメディアパートナーを努めるDIGIDAY[日本版]では、「AWA2022 リアル開催復活記念」として、そのカウンシルメンバーが個々のセッションの背景や裏側について語るリレー形式の寄稿連載を掲載。第1段の執筆者は、産業能率大学 経営学部教授 小々馬敦先生です。
ADVERTISING WEEK ASIA2022開催に膨らむ期待
AWA、3年ぶりのリアル開催! ポストコロナ時代に広告ビジネスが本格始動するモメンタムとなりそうな予感がします。コロナ禍の中で自社の存在意義を再考する時間を持ったこともあり、経営の中心にパーパスを置き、SDGs達成年の2030年に向けて「ビジョン2030」を描き表明する企業が増えています。日本経済新聞社によると、ESG・パーパス関連の新聞広告(全面広告)は、毎月50件程度掲載されており、1年前から1.5倍以上増えているそうです。書店にはタイトルや帯に「パーパス」が記載されるビジネス本が数多く並んでいます。世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクが、毎年初頭に投資先企業に送る通称「フィンクレター」2022年の冒頭で「パーパスをステークホルダーとの関係の基盤に位置付けることが長期的な成功の鍵だ」と強調したことも、経済界でのパーパス熱の高まりに影響しているかもしれません。
パーパスは経営のみならず、これからのマーケティング、広告の社会的意義を問う大切な概念なので、このムーブメントを一過性に終わらせないためにも、広告界でもパーパス・オリエンテッドな活動が本格化することを期待します。AWA2022ではパーパスをテーマとするセッションが多く開催されるようですので、一連のセッションに参加することで、広告でソーシャル・コミュニケーションを推進することの重要性と実装へのヒントが繋がり、体系立てることができそうで楽しみです。
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1972年、ローマクラブが「地球の成長の限界」を発表してから半世紀、1992年、リオ地球サミットで「グローバルアジェンダ21」が採択されてからちょうど30年目の節目の年に開催されるAWA2022が「パーパス経営とソーシャル・コミュニケーションが日本社会の当たり前になる」マイルストーンになることを確信しています。
企画の背景:なぜ、『統合報告書』を調査したのか
私が登壇するAWA2022のセッション「パーパス経営において求められる広告コミュニケーション」では、日本企業の『統合報告書』分析から企業メッセージの傾向を読み解き報告します。調査のきっかけは、私の大学での授業「マーケティングと広告」でした。授業で毎年、学生の広告接触と再生について確認していますが、双方共に年々低下しています。GRP2000%/月以上を投下するCMを事例として、背景にある事業戦略を解説するのですが、「CMを見たことがある」と答える学生は1割未満で、CMを上映し視聴することから始めなければならないのが実態です。学生はCMを覚えていないのですが、私が広告の意図を説明するために、企業ホームページのIR情報から『統合報告書』を引用し、企業理念と事業ビジョンについて紹介すると、その企業の想いへの共感と共鳴、応援したい意識が芽生え、それまでは聞き流していたCMへの関与が高まり広告のメッセージを理解しようとする態度が生まれることがわかりました。学生にしてみれば、「こんなに真摯に社会課題に向き合って事業活動をしていることを知りました。ちゃんと伝えてくれれば応援するのに」という感覚です。ホームページには、その企業の存在価値を説明する情報は揃っていますが、学生だけでなく一般生活者には固すぎるメッセージであるし、生活者をオウンドメディアまで誘うことは困難です。ソーシャル・コミュニケーションでは、企業が生活者の近くまで出向いていくことが必須ですが、その際に語るべきメッセージや物語のプロット(筋書き)は『統合報告書』の中に揃っているのではないかと考え、ゼミ学生に協力してもらい読み込むこととしました。調査対象は「日経統合報告書アワード2021」に参加した290社を母集団としました。
経営存続の前提になる社会的存在意義に注目しました
企業価値の9割を無形価値が構成する現在、『統合報告書』は投資家との建設的な対話(エンゲージメント)を目的として、自社の企業価値を評価しやすいように財務情報(定量)に加えて、非財務情報(定性)をESGの観点から開示しています。
企業財務の観点からの企業価値評価に関する体系化は政府主導、経済界での建設的な対話継承により進捗しています。一方で、広告界に視点を移すと「広告で企業価値を向上する」と謳いながらも、広告部門の実務者からは、実際にそうなるのか腑に落ちていない、広告の枠組みで社会志向型メッセージを発信することに戸惑いがあるという相談を受けることが多くあります。そこで、フューチャーするのが「パーパス:社会的存在意義」です。
調査研究の観点に、現代企業の経営命題は、①持続経営のための企業価値を向上すること、もうひとつそもそも論があり、②事業継承の前提として存在意義を社会から承認されることがあり、広告部門への期待が大きくなるのは、②の自社の存在意義の社会コンセンサスの形成、言い換えると「生活者に応援してもらえる会社になる」ことであることを前提に置いて、これからの時代に広告と広告部門が果たすべき社会意義について考察しました。
AWA2022セッション情報/セッション名:『日経統合報告書アワード2021』参加290社の企業メッセージ分析から見えてきた〜パーパス経営において求められる広告コミュニケーション/開催日時:6月2日(木)時間調整中/登壇者:日経広告研究所 北村裕一専務理事(ファシリテーター)、日経広告研究所「ESG経営と広告コミュニケーションプロジェクト」研究員(パネリスト)
見どころ:パーパス経営の浸透とソーシャルメッセージの全体観を見渡せます
セッション・オーナーの日経広告研究所は、広告主企業、広告会社、メディア各社により1967年に設立された中立的な研究機関です。
多くの会員社からの「広告で社会志向型メッセージを発信するコミュニケーションのあり方」を体系化してほしいという要望を受けて、昨年「ESG経営と広告コミュニケーションプロジェクト」を始動。経営・ブランド・マーケティングなど各分野の研究者が参加し、基本概念を整理し、オンライン講習を実施するなどの活動をしています。
本セッションはこの一環として実施、プロジェクト委員を拝命している、パーパス経営の専門家、法政大学長谷川直哉教授から経営に不可欠な構想力と能動的なコミュニケーションのあり方を解説いただき、私は企業ブランディングの専門家・実務者の観点から「日本企業290社の統合報告書の調査分析」から見えてきた国内のパーパス経営の進捗と、これからのソーシャル・コミュニケーションのありかたについての洞察を報告します。
報告する主要項目は下記を予定。実務者の方に有意義な情報となるよう準備していますので、どうぞご期待ください。
- パーパスを表明する企業の割合
- パーパスとタグライン(ブランドスローガン)の使い分け傾向
- トップメッセージで語られる想い・理念の文脈
- ソーシャル・メッセージの傾向
- マテリアリティ、重要課題をどのように捉えているか
- 表明するSDGs17ゴールの傾向 など
トーク・セッションでは、今後の企業経営において広告部門と広告が果たす役割、統合報告書に記載されている価値創造ストーリーを、どのように生活者に共感されるナラティブに変換していくのかの道筋を明らかにしていきます。
押さえてもらいたいポイント:社会のコミュニケーションを洗練することが広告部門の使命
企業と投資家間では建設的な対話(エンゲージメント)が常習化し、ESGへの配慮が遅れている企業への投資から撤退するダイベストメントが当たり前となっています。消費においても、サステナブルに配慮していない商品サービスの購買を避けるネガティブスクリーニングは確実に進行しています。これからは、広告部門が企業のコミュニケーション全体を主導し、生活者との対話を洗練していくフェイズと捉えています。
旧来の広告表現の枠組み、作法にとらわれず、広告・広報・SNS・コミュニティなどのコミュニケーション機会を生活者中心に統合し、人々の関心に寄り添ったナラティブなメッセージを届ける。そして、共感・共鳴してくれる生活者から「応援します!」と声を返してもらう対話(エンゲージメント)の過程で、自社の存在意義を確信し高めていくことが社会の当たり前となるように、社会のコミュニケーション体系を洗練できるセンスは広告の実務者が持っているはずです。その使命を果たすことで、広告と広告人の存在意義が社会で再認識されることを願い、当セッションが、その一助となれば幸いです。6月にミッドタウン六本木でお会いしましょう!
※DIGIDAY[日本版]は、ADVERTISING WEEK ASIA2022のメディアパートナーです。
Written by 小々馬敦
Image courtesy of ADVERTISING WEEK ASIA2022