先日、山梨県の小淵沢にある保養所に宿泊した。観光でどこを回ろうか地図を見ていたところ、目に入ったのが清里だった。
高原のリゾート地として80年代に「清里ブーム」を巻きおこした、山梨県の清里高原。幼かった頃、テレビで「高原のペンション」や、タレントショップの特集が組まれていたことをおぼろげながら覚えている。調べたところ「清泉寮」という、ソフトクリームが有名な牧場もあるらしい!
私のように九州の海沿い出身の人間にとって、高原は憧れの地である。意気揚々と清里へ向かったのだが……思いがけない光景が広がっていた。
・アクセス至難
清里へは、小淵沢駅からJR小海線に乗車するのだが……。まず、この小海線の本数の少なさに驚いた。
1時間半に1本くらいしかない!
観光地だから、もうちょっと本数があるものだと思っていたが、乗り遅れたらえらいこっちゃ。
ちなみに、小海線はJRの中でも1番高い標高を走る電車らしい。
山の中をゴトゴトと、ゆっくりと電車が進んでいく。気づくとものすごく高いところを走っていて驚く。晴れた日には旅情を感じる素晴らしい景色が車窓に流れるのだろうが、私が旅行に訪れた日は、あいにくの天気だった。
……いや、「あいにくの天気」なんて曖昧なもんじゃない。4月中旬とは思えないほど、冷たい雨が降り続き、山の中は深い霧で包まれ、高原を回るにはまったく向いてない天気だった。
上へ上へと電車が進むたびにどんどん霧が深くなり……。
清里駅に着いた頃には、5メートル先すら見えなくなっていた。
ぜんぜん人がいない……。駅舎にはかろうじて駅員さんがひとりいるだけ。この時点で「なんか想像してたんとだいぶ違うな感」が漂っている……。
・生きている者はいないのか
気を取り直して、駅を出て町を見下ろすと……霧でなんも見えん!!!!!!!!!!! そして誰もいない……。
さすがに下に降りたら人の気配がするだろうと思ったが……ひとっこひとりいない!!!!!!!!!!!!!!!
いやいや、ここ、観光地の駅前だよね? さすがに平日の昼だからって、こんなに人がいないことある?
電車が1時間半に1本しかない霧深い山の中、ぽつんとひとり。さみしいを超えて、怖くなってきた。
・メルヘンな廃墟
とはいえ、どこか店は営業してるだろうと思って、駅前の商店街を歩いてみることにした。町並みは整備されていて、レンガ風の街路にピンクや緑の三角屋根のメルヘンチックな建物が立ち並んでいる。どこか懐かしい感じだ。
かろうじてファミマだけは営業していたのだが……
凝った作りのかわいらしい建物はどこもかしこもシャッターが閉まっている……。たしかに全盛期に比べて廃れているとは聞いていたが、正直、ここまでとは思わなかった。
キュートなティーポット型のお店も……
ミントグリーンのお城みたいな建物も……
時計台を模したピンクのそば屋さん(?)も……
赤い三角屋根のロッジ風の建物も……
ネーミングと当て字に時代を感じる「里里庵(りりあん)」も……
とにかく全部シャッターが閉まっていて、街のどこにも人の気配がない。霧が街を覆い、まるで村人が全員殺されたホラー映画のようである。
建物が凝った作りであるせいか、余計に寂しさが増す。バブルの面影だけを残した、ファンシーなゴーストタウンという感じだ。
・清里自体には観光スポットがたくさんある!
……と、このように書くと「清里=終わった場所」のようなイメージになってしまいそうだ。駅前がシャッター街化しているだけで、清里が観光スポットとして栄えていないわけではない。むしろ魅力的な場所がたくさんある。
タクシーで5分ほどの「清泉寮」という、老舗の宿泊・観光施設に行ったのだが、そこはちゃんと営業していたし、雨にも関わらず観光客もたくさんいた。
ロッジ風のレストランでサンドイッチを食べたけど、雰囲気もよくて美味しかった……。
ちなみに、1970年代からの名物はジャージー牛のミルクを使った濃厚なソフトクリーム! めちゃめちゃ美味しかった……。
晴れた日は芝生が緑に輝き、青い空と八ヶ岳の雄大な景色を眺めることができるそうな。
ソフトクリーム以外にも、チーズケーキやクッキー、ソーセージやハムなど美味しそうなものがズラリと並んでいる。
私が行った時期は営業していなかったのだが、ゴールデンウイークから秋にかけて営業する「清里テラス」も標高1900mから野辺山高原や富士山の絶景が見られるスポットとして人気らしい。インスタやツイッターにきれいな写真がたくさんアップされている。
清里には人気のスポットはたくさんあるのに肝心の清里駅前はあの様子。なんとももったいない話である。
なぜ駅前が廃れてしまったのか……。当然、バブル崩壊が大きいと思うが、利用者目線で考えてみた。まず、小海線の電車の本数が少なく、小淵沢駅から清里駅まで25分ほどかかる。さらに観光地は清里駅から離れているので、車がないと行けない場所が多い。
そうすると、必然的に駅周辺には人が集まりづらい。また、悪天候の日やオフシーズンになると観光客が減って、店の採算を取るのも難しそうだ。
バブルの夢を詰め込んだような、清里の可愛らしい建築物と夢のような町並みは名もなき文化遺産とも言える。老朽化で難しいのかもしれないが、80年代リバイバルブームをきっかけに、あのかわいらしい建物をなんとか再利用できないのかしら、なんて思ってしまうのだった。