世界屈指の歓楽街「新宿歌舞伎町」。この2年、新型コロナの影響で飲み屋街は大打撃を受けたものの、少しずつ以前のにぎわいを取り戻しつつある。さて、その歌舞伎町といえば「ホストクラブ」な訳だが、私(佐藤)は以前からずっと気になることがあった。
それはホストの源氏名(げんじな)だ。時々スゴイ名前の人がいたりするけど、あれってどうやって決めてるんだろうね?
気になったので現役ホスト5名に尋ねてみたところ、奥深い世界を垣間見た。源氏名はただの名前じゃない。
・源氏名の由来をホスト5名に聞いた
今回取材に協力頂いたのは、歌舞伎町で19年の歴史を持つホストクラブを中心とした企業「Smappa!Group」である。在籍ホストは200名以上。そのなかでもとりわけ特徴の強い名前を持つメンバー5名にお話を伺った
■令和(れいわ)さん
令和「はじめまして令和と申します」
――「いきなり特徴強めの方ですね。やっぱり改元に合わせて変えられたんですよね? ご自分で変えられたんですか?」
令和「改元の時ではあるんですけど、自分で変えた訳じゃないんですよね」
――「というと……」
令和「グループの店舗(ケーキ屋)がテレビ取材を受けることになったんですよ。その取材に出させて頂くことになったんですけど、その時にうちの会長が「名前を『令和』にしよう」と言い出して。令和に変えたらテレビに出られると。それで迷ってたんですけど、次に会長に会った時にはもう一方的に「よう! 令和」って呼び始めたんですよ」
――「ずいぶん乱暴ですね(笑)」
令和「でもおかげで取材を受けることができましたしお客さんにも覚えて頂けて、その頃を機にいまだにお付き合いのあるお客さんもいらっしゃるんで、変えてよかったと思っています。
ちなみにいうとその頃、「令和」って名前のホスト、めっちゃ多かったんですけど、みんな令和をやめてるんですよね。もしかしたら今、僕だけかも」
――「生き残りましたね(笑)。今後は変えないんですか?」
令和「ホストって、幹部に就くと苗字を名乗るようになるんですよね。だから僕も幹部になったら、以前の名前(下の名前)に「令和」って苗字を付けようと思っています」
――「そうなんですね! 名前にそんな慣習があるとは知りませんでした!」
令和「そうなんですよ。だから僕はまだ令和のままですけど、いずれ令和は苗字になると思います。以前の名前で指名してくれるお客さんもいるので、そのお客さんのためにもがんばります!」
■斎藤工(さいとうたくみ)さん
斎藤「こんにちは、斎藤工です」
――「もしや、あの斎藤工さんにあやかって……」
斎藤「違うんですよ。僕はこの業界に20年以上いて、始めた頃からこの名前なんですよね」
――「ってことは由来は違うんですか?」
斎藤「違いますね。以前在籍していたお店の上司が漫画『頭文字D』が好きで、主人公が藤原拓海っていうんですけど、そこから「拓海」をとって僕の名前につけたんですよ」
――「じゃあ、「斎藤」は?」
斎藤「斎藤は、その頃、顔が一卵性双生児の俳優「斉藤祥太・慶太」に似てるって言われてて、それで合体して「斎藤+拓海」になりました。それから後に占い師さんに名前を見てもらったら、画数が悪いってことになりまして、「拓海」を「工」に変えたんですよね」
――「なるほど! それはあの斎藤工さんは関係ないですね!」
斎藤「そうなんですよ。でも俳優の斎藤さんが芸能デビューされてからは、お客様は名前の由来を知らないので「やるならちゃんと似せろ」とか「出来の悪いパチモノ」とか「路上で売られているメイドインチャイナ」とか言われてました」
――「それは厳しい……。でも、同じお名前でよかったと思うこともありますよね?」
斎藤「覚えてもらいやすいというのはありますね」
――「誰でも1度は聞いたことのある名前ですもんね」
斎藤「そういえば、昔は「たくみ」って名前のホストが多かったんですよね。ちょっとヤンキーチックな名前が多かったけど、最近少なくなりましたね。「夜」を名前にいれるホストも多かったかなあ」
――「そうなんですか? 最近はたくみさんは少ないと。ではどういう名前が多いんでしょう?」
斎藤「キラキラネームみたいなカワイイ名前が多い気がしますね」
――「子どもの名づけと通じるものがあるのかもしれないですね。時代の流れで」
■MUSASHIさん
MUSASHI「はじめまして、MUSASHIです」
――「MUSASHIさんは普通にありそうな名前ですけど」
MUSASHI「変えたんですよ、以前は宮本武蔵でした」
――「苗字も! ご自身でつけられたんですよね。なぜその名前に?」
MUSASHI「漫画『バガボンド』からつけさせて頂きました。覚えてもらいやすいし、強そうですしね」
――「ではなぜアルファベットに?」
MUSASHI「ネット検索で本物が出てくるんですよ」
――「ガチの二刀流ですね(笑)」
MUSASHI「そうなんです、『五輪の書』です。だから下の名前だけをアルファベットにしました。ちょっと「EXILE」っぽいかなと」
――「たしかに「武蔵」を「MUSASHI」にするだけで、すごくアーティストっぽくなりますね。この名前で困ったことはありますか?」
MUSASHI「困るというか焦ったことはありますね。普段から飲食店とかで予約する時に、「宮本で」とか「武蔵」で取ったりするんですよね」
――「普段から?」
MUSASHI「そうです、MUSASHIですから。それでドルガバで買い物する時に「宮本」で登録したんですよね。そしたら不意に店員さんに「下のお名前は?」と尋ねられて、焦って本名に言い換えてしまったことがあります。あれは恥ずかしかった……」
――「プライベートで「宮本武蔵」と反射的に言えなかったんですね」
MUSASHI「油断しました……」
――「今後、お名前を変えるつもりは?」
MUSASHI「ないです。人生の半分をこれで生きてきて、「ホストMUSASHI」は自分のアイデンティティそのものでもあります。変えません」
――「その決意は、宮本武蔵への憧れですか?」
MUSASHI「そうかもしれないですね。名前から「強そう」とか「男らしい」というイメージがあるみたいです。だから、そうあろうと思っています」
■青山礼満(あおやまれまん)さん
青山「青山礼満と言います」
――「れまんさんですか?」
青山「そうです、れまんです」
――「どういう経緯でその名前にされたんですか?」
青山「ホストを始める時に本名でやろうと思ってたんですよ。そしたら先輩に源氏名はあった方がいいって言われたんです。ある意味、別人格でお仕事をする訳ですから、使い分けた方が良いと」
――「そうですね、感覚的に仕事とプライベートがゴッチャになりそうですもんね」
青山「でも何も浮かばなかったんですよ。この名前がいい! みたいなのがなくて。それでお店のプロデューサーに相談したんですね」
――「名前を付けてくださいと」
青山「そう。そしたら、「お前、オシャレだから「オシャレマン」でいいんじゃないか?」 みたいに言われて」
――「オシャレマン……」
青山「とりあえず頂いたものですから、しばらくオシャレマンでやってました。でも、やりにくいんですよ」
――「そんな気がします……」
青山「初めてお会いする方に「初めまして! オシャレマンです」って挨拶するのが、ちょっとやりにくくて……」
――「人によっては怒られそうですよね」
青山「それで、下の名前「レマン」で2年間は「レマン」でやらせて頂いて、自分が幹部になった時に苗字に「青山」を付けました。「礼を尽くして満足して頂く」、そういう思いで「礼満」と漢字を当てました」
――「「レマン」ってあまり耳に馴染みのない言葉だと思うんですけど」
青山「そうですね、「ロマン」とか「レモン」とか間違われるけど、全然気にしてないです」
――「今後変えるつもりは?」
青山「ないですね。人と被らないし検索しても自分以外引っかからないので、これで行きます」
――「青山さんも幹部なら、面接をされるかと思います。名前をつけて欲しいと言われる機会もあると思うんですけど」
青山「僕はつけないですね。自分の名前すら思いつかなかったくらいなので。それから最近の子はみんな名前を決めて面接にきますね」
――「面接の段階で? 採用されるかもわからないのに?」
青山「そうですね。源氏名ってなりたい自分の像みたいなものなので、こうなりたいって欲求の強い子が多いのかもしれないですね。振り返ると、僕も本名で仕事を始めなくてよかったなと思っています」
――「なりたい自分、それが源氏名なんですね」
■一春(にのまえはる)さん
一春「にのまえはると申します」
――「「にのまえ」ってどういう風に書くんですか?」
一春「漢字の「一」ですね。それで「にのまえ」と読みます」
――「自分で名付けられたんですか?」
一春「春はそうですね。木村拓哉さん主演のドラマ『プライド』の主人公が「里中ハル」というんですけど、その主人公の生き方がカッコよかったので、そこから取りました。
あとは生まれた季節が春でしたし、当時の店長(現社長)にも「春」がいいと勧めて頂いたので。いろんな理由が重なって「春」です」
――「めぐり合わせでそのお名前になったと。苗字は?」
一春「苗字は大変恩のある先輩がホストをやめる時に、その苗字を引継ぎました」
――「襲名したんですね! 源氏名の襲名ってあるんですね」
一春「どうなんですかね? 人のことはわからないけど自分は名前を継ぎました。襲名ではないけど、お世話になっている先輩の名前から1文字頂いて、自分の名前にするってケースもありますね」
――「先輩の名前を引き継いだプレッシャーはなかったんですか?」
一春「良い意味でのプレッシャーはあります。むしろそれがモチベーションになっています。自分が名前に恥じないように生きるモチベーションですね。プレッシャーというよりも、意識を高く持つのにプラスに働いていると思っています」
――「ということは、この先、名前を変えるつもりは……」
一春「ないです。自分の名前に誇りを持っているので」
――「良いことばかりですね」
一春「強いていえば……、毎回読み方を説明するのがちょっとダルいくらいですかね(笑)」
――「ひと目で読める人、いないと思いますよ(笑)。でも1度聞いたら忘れないですね」
一春「そうですね。それも含めて良い名前だと自負しています」
・一春さんと春風さん
ちなみに後ほど広報の方に伺った話によると、一春さんの先輩はホストに復帰しているそうだ。復帰の際に、一春さんの名前にちなんで「春風」という苗字でホスト復帰しているという。その話を聞くだけで、一春さんと春風さんが互いを厚く信頼しあっていることがよくわかる。
ホストの源氏名は芸人の芸名のように、仕事や人間関係に影響を与えていることがよくわかった。さらにたくさんお話を聞けば、熱いエピソードにめぐり合える気がする。源氏名は生き方、彼らは日々それを背負って仕事をしている。