日本におけるデジタル広告の単価は、諸外国と比較して、極端に低い。それが、日本のパブリッシャーのデジタル化を妨げる、ひとつの大きな要因となっている。 「当社の調査によると、ディスプレイ広告の場合、日本のCPMは確かに安い。 […]
日本におけるデジタル広告の単価は、諸外国と比較して、極端に低い。それが、日本のパブリッシャーのデジタル化を妨げる、ひとつの大きな要因となっている。
「当社の調査によると、ディスプレイ広告の場合、日本のCPMは確かに安い。他国と比較すると、米国は2.6倍、英国は2倍といった現状だ」と、Index Exchange(インデックスエクスチェンジ)の日本担当マネジングダイレクターを務める香川晴代氏は語る。「このままだと、来年、Google ChromeによるサードパーティCookie廃止が行われたら、ただでさえ安い日本のデジタル広告は、さらに低単価になり、課題は大きくなる」。
カナダのトロントに本社を置くIndex Exchangeは、その名のとおりアドエクスチェンジ企業で、現在13カ国で展開しているグローバルカンパニーだ。約550名の社員のうち60%がエンジニアとなるプロダクトファーストな企業で、デジタル広告の品質や透明性の向上に注力している。そんな同社が去る3月17日、ザ・リッツ・カールトン東京で開催されたイベント「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2022」にて、ワーキンググループディスカッション「広告単価改善、業界がチャレンジすべきことは」を協賛した。
「アメリカのパブリッシャーは、すでにCookie終焉に向けて、さまざまなトライをしている印象だ」と、香川氏は語る。「その一方、日本のパブリッシャーは、まだ様子見のところが多いように感じる。このディスカッションを、日本のデジタル広告単価の改善に向けたチャレンジのきっかけにしてもらいたい」。
ディスカッションは20のチーム(総計111名)で行われた
なお、「デジタル広告の単価を改善するために、パブリッシャー全体で取り組むべきことは?」という問いかけを中心に実施された、このワーキンググループディスカッション。総計111名(パブリッシャーエグゼクティブ:48名、パートナー:63名)の参加者が、20のチームに別れて行われた。
本記事では、そこで意見されたことを、7つの方向性に整理して、箇条書きで紹介していく。
◆ ◆ ◆
1. 広告主との相互理解を深める
- 日本は、サプライサイドとデマンドサイドを比べるとデマンドサイドのパワーが強い市場。サプライサイドのパワーバランスを取り戻すよう働きかける。
- 個々のユーザーは結局、複数のメディアを横断して、インターネットを利用している。それは、つまりユーザーデータを売っても、メディアの価値にはつながらないということだ。そこで、「自分たちのコンテンツを売る」という基本に立ち返ることが重要。そのためには、ユーザーデータからコンテクスチュアルデータへの移行が大事で、広告主にしっかりアピールしていかなくてはいけない。
- Cookieを利用したマーケティングは、正直簡単で誰でもできる。今後のデジタルマーケティングでは、ブランディングの視点が欠かせない。本質的なマーケティングを考える広告主に対して、しっかりアプローチしていくことが大事。
- テレビはテレビの良さがある、ソーシャルはソーシャルの素晴らしさがある。そして、オープンウェブのなかでも、それぞれのパブリッシャーには、そこにしかないブランド・世界観がある。リーチがどうとか、単価がどうとか、一緒くたに比較されてしまうが、それぞれファンクションが違うので、それを理解してメディアプランを組んでいただけるよう、デマンドサイドを啓蒙していく。
- パブリッシャーは、広告主が何を期待しているか、本当にわかっていないことが多くある。そこで、中間業者も含めて、広告主に媒体が何を提案できるか、話をすることからはじまるべきではないか?
2. 自らのメディアを見つめ直す
- ファーストパーティデータの価値は、パブリッシャーが提供しているブランド・メディア・コンテンツが生み出しているはずだ。ここをしっかり見つめ直し、広告主にアピールしていくべきかと思う。
- 日本だとPMPの割合が1割とか2割といった状況だが、海外だと5割を超えているところもある。そうした状況を作り出すため、ファネル下部のパフォーマンス系の予算ではなく、上流のブランディング予算を取りに行く。そのためには、ユーザーを正しく理解し、メディアはメディアを見つめ直すべきだろう。
- パブリッシャーはパブリッシャーとして、自分のメディアがどんなメディアかしっかり見つめ直すことが大事。たとえば、インベントリーのクオリティをしっかり担保するために、広告枠の数を無駄に増やさない。しっかり効果を可視化できる、価値のある広告枠を作っていく。さらに、オーディエンスの詳細を可視化できる資料をちゃんと準備しておくことなどが肝要だ。
3. テクニカルな取り組みに臆さない
- デマンドサイドのニーズに対して、最適かつ最大の効果を提供可能なシグナルを発信できるように、業界全体で取り組む。
- すでにサードパーティCookieを廃止されているSafariのユーザーは、CTRなどの面においてパフォーマンスが高い。こうしたユーザーを獲得し、ファーストパーティデータを整備していくことで、単価の向上を狙える。
- いまのプログラマティック広告は、ヤフーオークションみたいになっている。誰でも買えて、誰でも売れる状態だ。そうではなく、サザビーズオークションにする必要がある。そのためには、PMPの普及に尽力しなくてはいけない。
- バイサイドは価格を下げていって、底値で購入するようになっている。広告主側のテックは日々進化しているのに対して、媒体社側のテックは進化していない印象だ。しかし、海外へ目を向けるとさまざまなツールが存在している。そういったものを、腰を軽く、身軽にトライアルしていくことで、広告主側からのテックの圧力に対抗していくことも重要だ。
4. 企業カルチャーを改善する
- 社内における収益マインドの欠如も見逃せない。制作サイドがマネタイズに非協力的だったり、逆にビジネスサイドがプラットフォーマーの仕組みに頼り切りになっていたりすると、やはり広告単価は上がらない。全社一丸となって収益マインドを維持・向上していくことが必要だ。
5. パブリッシャー間の連携を取る
- ファーストパーティデータについては、いま各媒体社でどういうデータを保有しているのか、そのデータはどういう粒度なのか、といったことがまったく可視化できていない。デマンドサイドから見たら、完全にブラックボックスになっている。これをオープン化する必要がある。そのためには、パブリッシャー業界全体で、ファーストパーティデータの基準作成や標準化を推し進めていかなくてはいけない。
- デジタル広告の効果を可視化する取り組みを一媒体だけで実施していても焼け石に水だ。パブリッシャー業界全体でシンジケーションを組み、事に当たることで、ボトムアップすることができると思う。
- デジタル広告を日々運用していると、やれることはやりつくしてしまうことがある。そうなると、改善点が見当たらなくなる。そんなときには、同業他社である外部の目が役に立つ。パブリッシャー間で協力しあい、お互いの運用施策を評価しあう取り組みがあってもいい。
- 奇しくもメディアの「広告枠」という意味なら、JICDAQ(ジックダック:一般社団法人デジタル広告品質認証機構)といった、その品質を評価・担保する仕組みができたばかりだ。だが、そもそもメディアとかコンテンツのクオリティを担保するような動きが、もっとパブリッシャー間であってもいい。海外ではそれをアワードといった形で担保する取り組みもあるという。そうした、品質向上の仕組みもほしい。
- ディスプレイ広告以外も含めて、パブリッシャーが果たせる役割があるはず。テレビCMも含めた広告キャンペーン全体で、予算を取りに行く必要がある。パブリッシャー全体で手を取り合って、取り組めるタイミングになってきている。
6. ユーザーへの啓蒙を進める
- ユーザーの「広告嫌い」は相当広まっている。だからこそ、あえて「広告は悪くないよ」というエデュケーションを行っていくのも大事なのでは?
- 漫画村やコピペメディアのような、不良コンテンツを取り扱うメディアは、いまだに存在している。しかも、それは個人によって運営されていたりもする。ここにも広告枠が生まれているのが現実だ。インターネットは限界産業ではないため、規制がなければ広告枠が次から次へと生まれてしまう。そうした不良コンテンツを排除・淘汰していく仕組みも必要だろう。
7. ユーザーエクスペリエンスを高める
- ひとことで言うと「広告枠を50%減らす」。これは希少価値を上げるということ。いまは広告枠がすごく多くなりすぎていて、単価が下がっていると思われる。そこで、50%はいいすぎかもしれないが、広告枠を整理していくことは必要なことだと思う。
- 広告主やステークホルダーに、広告枠の価値向上を問う前にやることがあるのではないか? つまり広告枠の価値を量から「質量」に変えることが先だと思う。やはり我々は、顧客に対して、サービスを提供することが使命。だからこそ、ECやサブスクリプション、コミュニティなどに本気で取り組まないといけない。これを結実させてからの広告ビジネスではないかと思う。パブリッシャーは、メディア・アズ・ア・サービス(Media as a Service)を目指すべき。
- あらゆるコネクティビティを向上させる必要があると思う。これは広告主に対しても、ユーザーに対しても、ビジネスパートナーに対しても。どうやってデータを連携させるかというのも、これに含まれる。ありとあらゆるコネクティビティを上げることが一番大事だ。
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今回で第7回となる「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT」の歴史を振り返ってみても、もっとも盛り上がったひとつとなった、今回のワーキンググループディスカッション。「自分は総括する立場にはないのだが」と断ったたうえで、Index Exchangeの香川氏は、「今回の盛り上がりは、このテーマが日本のパブリッシャー業界において、いかに重要なのか? を証明している気がする」と締めくくる。
Index Exchangeの香川晴代氏
「日本のデジタルマーケティング業界はパフォーマンス偏重型なので、CPA、CPC、CPIという物差しで単価が決められることが多かった。しかし、Cookieレスとなることで、良質なコンテンツを提供し、良質なユーザーを集められるメディアの価値が見直されると信じている」と、香川氏。「そういうサプライサイドの業界全体でまとまって、アクションを起こしていくことで、デマンドサイドのマインドに変革を起こしていくのは、いましかない。Cookieレスは生かしていくべきチャンスだと思う」。
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO
Illustration by Shutterstock(TOP画像)
Photo by 渡部幸和(本文中)
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