薹(とう)が立ったフキノトウを食べてみる

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これくらい育ったフキノトウもおいしかったです

フキノトウという山菜が好きで、毎年摘んで食べているのだが、一つだけ納得いかない点がある。

フキノトウは漢字で書けば「蕗の薹」。薹とは花を支える茎のことだが(なんて偉そうに書いたが「塔」だと思っていた)、食べるのは薹が立つ前であり、名付けるなら「フキノハナメ(蕗の花芽)」ではないか。

フキなのに筋が通っていないのは気持ち悪い。よし、薹の部分を食べてみよう。

まずフキとは何か

フキの「薹」を食べる前に、フキノトウという山菜がフキの花芽であることを知らない人もいると思うので、そもそもの話としてフキについてちょっと説明させていただく。

フキとはお弁当の歌で「筋の通ったフ~キ~」と歌われているアレのことだ。成長したフキの地面から生えて葉っぱを支える葉柄(ヨウヘイ)部分を煮物などにして食べる。

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フキノトウの後に出てくるフキの若葉。
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大きく育った葉柄が食用部分。
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「筋の通ったフキ」というだけあって皮に筋があるので、下茹でをしてから剥いて調理する。
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フキの煮物。ほろ苦くておいしい。

これがフキノトウです

フキは多年草だが冬になると地上部分は全部枯れて、早春に地下茎から花芽を出す。これがいわゆるフキノトウだ。天婦羅や蕗味噌にするとほろ苦くておいしい。

さっきから食べた感想が「ほろ苦くておいしい」ばかりになるのは山菜あるあるなので許していただきたい。

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まだ開く前のフキノトウ。市販されているのはこれくらいの状態だろうか。
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ちょっと開いたフキノトウ。
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パカっと開いたフキノトウ。勲章みたいでかっこいい。
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春の訪れを感じさせてくれる天婦羅。
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自家製コンニャクの蕗味噌田楽とか最高。

この記事を書くにあたって調べて知ったのだが、フキは雌雄異株で、雄と雌の株があるそうだ。

黄色っぽい派手な花を咲かせるのが雄株で、筆のような白い花が雌株。

雄株はあまり伸びないが、雌株は種を遠くへ飛ばすためにピンと薹を伸ばし、花をタンポポのような綿毛に変えるそうだ。へー。

フキは地下茎で繋がっていて繋がっている範囲は雌雄のどちらか一方になるので、雄花の周りは雄花ばっかり、雌花の周りは雌花ばっかりとなる。私が確認した範囲だと雌株が多いような気がする。

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フキの雄株の花はちょっと珍しいかも。
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こっちが雌株で薹を伸ばしてから咲く。
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雌株の薹がしっかり伸びる頃には、フキの葉っぱも地下茎から生えてくる。

ということで、食べてみるのは花が咲く寸前まで育った雌株の薹部分となる。

これぞ本当の「蕗の薹」なのだが、一般的に食べ頃を過ぎた山野草は苦くて硬い。だがこのくらいまで育ったものを好む地方もあるらしい。さて一体どんな味なのだろうか。

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普通に考えると、すごく苦くて硬そうだよね。
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フキの花束はエディブルフラワーになるだろうか。
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フキの薹のキンピラはうまい

摘んできたフキノトウを水でよく洗いつつ、しっかりと観察しながらどうやって食べようかなとじっくり考える。

野良食材を食べるまでの工程で、一番楽しい時間かもしれない。

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なんだかおままごと感の強い食材だが、どうやって食べようかな。
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薹にも穴が開いていた。

フキの薹はしっかり育った葉柄(フキとして食べる部分)ほど硬くないので、ちょっと水に浸けてアクを抜く程度で大丈夫そうだ。板ずり(塩でゴシゴシやるやつ)も下茹でも皮剥きも無しでいってみよう。

地面側の太いところは半分に切って、花側の細い部分はそのままで、キンピラにしてみようかな。

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胡麻油で炒めて、酒、味醂、醤油、唐辛子、胡麻で味付け。
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この写真を見てフキ料理だとわかる人が、果たして日本に何人いるだろうか。

作りながらこれは絶対にうまいだろうなと確信してから食べたのだが、期待以上の素材だった。味と香りはフキの葉柄とフキノトウの中間という感じで、ちょっとだけほろ苦くておいしい。意外なことにフキノトウよりも苦くないのだ。

一番気に入ったのは茎ワカメや山クラゲを思わせるシャキシャキの歯ごたえで、これはフキにもフキノトウにもない長所。フキの薹、うまいじゃないか。

蕗蕾味噌もうまい

フキの薹が独特の歯ごたえと程よい風味を持った立派な食材であることは分かったが、残された蕾の部分がもったいないので、こっちも食べてみよう。

花芽であるフキノトウの時点でかなり苦いのだから、ここまで育ったらものすごく苦いんだろうな。

苦そうだなと思いつつ、あえて下茹でをせずに蕗味噌にしてみる冒険。格好つけて蕗蕾味噌と呼ぶべきか。ふきつぼみみそ、語呂が悪い。

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水にさらして粗く刻む。
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油で炒めてから(すごく縮む)、味噌、砂糖、醤油、味醂で甘じょっぱく味をつけて煮詰める。
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油と味噌と砂糖の力で苦みが食べやすくなるはず。
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ごはんに乗せて食べてみよう。

この蕗蕾味噌がすごくうまいんですよ。作り比べた訳ではないので断言はできないが(毎回味付けが違うので)、普通のフキノトウで作る蕗味噌よりも、味がまろやかで食べやすいようだ。

酒のつまみとして鮮烈な風味を好む人は物足りなく感じるかもしれないが、ごはんのおかずにはこれくらいがちょうどいい。私が道の駅に並べる商品の開発担当者なら、張り切って蕗蕾味噌を売り出すな。

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バターを塗ったパンに蕗蕾味噌、さらにチーズまで乗せちゃう。トレビアンである。

天婦羅にしてもうまい

あれ、もしかして、育ちすぎたフキノトウは苦いだろうと敬遠していたのはまったくの誤解で、普通に食べられるのかな。どちらかといえば薹が伸びてからの方が苦みは弱い?

今度は蕾と薹を葉っぱもそのまま丸ごと天婦羅にして、その味を確認してみよう。

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打ち粉をしっかりして衣をつけて揚げる。
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ジュワー。
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菜の花みたいですね。

これが程よくほろ苦くておいしい。やっぱりフキノトウは伸びた方が苦くないようだ。まだ開いていないフキノトウで作った天婦羅の強烈な風味が苦手だという人には、これくらいが口に合うのでは。食べ応えもたっぷりあるし。

フキノトウが採れるシーズンは短いので、うっかり摘みそこなうことも多いが、これくらい育ってもおいしいことがわかったので、今後はドーンと構えて生きていこうと思う。

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後日、別の場所で観察したフキの雌花。ここまで育つとさすがに固いかな。
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フキの花をちゃんと見たことなかったけど、小さくてかわいいですね。

薹が立ったフキは苦くなかった。見た目やイメージに騙されてはいけないという自然からの学びの味。これくらい育ったフキノトウを好む地域があるという話もよくわかる。

「薹が立つ」という言葉は、盛りの時期が過ぎてしまった状態を指すが、「薹が立ったからこその優しい味わいとボリューム感もあるんだよ」と、何かの際にドヤ顔で言いたいと思う。

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