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スパークリングウォーターブランドのアグリードリンクス(Ugly Drinks)はここ数カ月、事業を停止しているようだ。
飲料業界の内部関係者は、英国を拠点とする同社のウェブサイトが現在停止しており、アグリードリンクスの公式Amazonストアで同社の商品を注文できないことに気づいた。さらに、同社のTwitterとインスタグラムのアカウントは昨年後半から更新されていない。ある顧客のソーシャルメディア投稿によると、3月上旬にオンラインで行った注文は数日後にキャンセルされたという。
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アグリードリンクスは、事業停止についての確認の要請に応じなかった。同ブランドのソーシャルメディアアカウントは、コメントを求めるメッセージに応答していない。
2021年には昨年比500%の成長も
アグリードリンクスは2015年に英国で設立され、数年で英国全体に進出し、ホールフーズ(Whole Foods)やW・H・スミス(WH Smith)のチェーンも含めて、3000近くの店舗で扱われるようになった。
2018年に米国に渡り、オンラインや専門店、独立系小売店での販売が始まった。同社は今日までに、カラーキャピタル(Color Capital)のクリス・カンティーノ氏とハイメ・シュミット氏が参加した2019年のラウンドを含め、合計390万ドル(約4億8400万円)の資金を調達した。それ以外にも、英国企業のペントランドベンチャーズ(Pentland Ventures)やステッドマンパートナーズ(Steadman Partners)に加え、アーリーステージ(初期段階)ファンドのマジックファンド(MAGIC Fund)なども投資している。
同社の計画は「可能な限りあらゆる場所で扱われる」ことだったと、同社の共同創設者で元CEOのヒュー・トマス氏は以前米モダンリテールに語った。同社は過去2年間、D2Cビジネスを強化するとともに、米国内ではAmazonやボックスド(Boxed)のようなマーケットプレイスを通じた流通を拡大してきた。同社は2021年半ばにドラッグストアチェーンのCVSで営業を開始し、米国で最初の大規模小売契約となった。2021年7月には、CVSの6500店舗や、そのほかの地元小売店も含め、米国内で1万店舗以上の店舗で販売を行っていると主張していた。
同社はオンラインでの拡大に加えて、D2Cビジネスにも多くの労力を注いでいた。同社のもっとも一般的なマーケティング戦略のひとつは、毎月限定版フレーバーを発売することで、これにはマシュマロやバースデーケーキなど常識を外れたフレーバーも含まれていた。これによって、2021年5月、同社のD2C事業は前年比で500%も成長したと語っていた。
トマス氏は、昨年11月にCEOを退任し、燃え尽き症候群を理由に同社を離れてからアグリードリンクスの運営には関与していないと、米モダンリテールに語った。同氏は、自身が去った後に同社に何が起きたのかについては何も知らないと語る。「もし閉鎖してしまったのなら、設立に関わったすべての人々にとって悲しいニュースだ」と同氏は語る。
飲料ブランドの拡大の難しさ
同ブランドが終了したらしいことは、Twitter上にいる人々とっては驚きだった。しかし、投資家のなかには、飲料ブランドの規模を拡大することの難しさを考えれば、この結果は驚くにあたらないと言う人もいる。
「飲料ブランドの構築は単調で大変な作業だ」と、セルバベンチャーズ(Selva Ventures)の共同創設者であるキバ・ディキンソン氏は米モダンリテールに語った。店舗での棚のスペースをめぐる競争が激しいため、新興ブランドは十分な速度で成長するために、いくつもの全国的な小売業者に展開する必要があると、同氏は述べる。アグリードリンクスの場合、CVSでの取り扱いだけでは卸売の収益を伸ばすには十分ではなかった。「ほとんどの顧客は、新しいブランドを探すためにCVSには行くわけではない」と同氏は言及している。
ディキンソン氏はさらに述べている。「ヒュー・トマス氏が昨年退任したことが、このブランドの将来を示す兆候だったと思う。同氏は非常に賢明で熱心に業務を行っており、同社の優れた経営者だった」。
結局のところ、同社が直面した課題は、小規模なチームの層の薄さから生まれたものだったかもしれない。LinkedInによれば、アグリードリンクスには8人が元社員として登録されており、同社の米国プレジデントであるブレット・ランフォード氏は2022年1月に同社を離れた。
ディキンソン氏は、新規ブランドはスパークリングウォーター市場のなかで差別化を図るうえで困難に直面すると述べる。これは、大手の食料品チェーンで、ペプシ(Pepsi)のバブリー(Bubbly)や、コカコーラ(Coca-Cola)のアハ(Aha)のような、巨大複合企業が開発したブランドが、新興ブランド商品と同じ棚に置かれる場合、特に当てはまることだ。「このカテゴリーの新ブランドの唯一の強みは、それを試そうとする消費者がいることだ」と同氏は述べる。また、D2C飲料の分野はここ数年、オリポップ(Olipop)や、サンゾー(Sanzo)、ユナイテッド・ソーダズ・オブ・アメリカ(United Sodas of America)などの新規参入により、多くのブランドがひしめくようになった。
肝心なのはイノベーションをもたらす製法
この分野でこの数年成功を収めているのが、カフェイン入りのスパークリングウォーターブランドのリミットレス(Limitless)だ。同ブランドは2020年1月にキューリグ・ドクター・ペッパー(Keurig Dr Pepper)に非公開の金額で売却された。肝心なのは市場にイノベーションをもたらすような独自の製法だと、ディキンソン氏は語る。リミットレスの場合、すべての飲料水に1杯あたり35ミリグラムのカフェインを添加することで、市場のギャップを埋めた。
D2Cは究極的には、新商品のテストやマーケティングに最適なチャネルだと、ディキンソン氏は説明する。「しかし、商品の価格が低く、配送コストが高いため、飲料品企業が規模を拡大するにはまったく非現実的な方法だ」と同氏は結論している。
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ugly Drinks