2022年もまた、4月1日がやってきた。悪ふざけやいたずらを仕掛けて人を笑わせる伝統があるエイプリルフールだが、ブランド各社はこれをマーケティング活動に活用している。
潤滑ゼリーのアストログライド(Astroglide)や生理用品のコーテックス(Kotex)をはじめとするブランドは今年も、「企業のエイプリルフールおもしろネタまとめ」に選ばれそうな、工夫をこらしたPRやソーシャルメディアの記事を配信した。しかしブランドや代理店はなぜ、こういった悪ふざけ企画に力を注ぐのか? (2020年は例外だが)毎年恒例の企業によるエイプリルフールネタは、特集サイトに掲載される以外にメリットがあるのか? むしろデメリットのほうが大きいのではないだろうか?
この種の企画にかかわった経験があるマーケターや代理店幹部、PR担当者によれば、エイプリルフールネタの発信は代理店による年末年始のグリーティングカードと同様、容易に注目を集められる方法だという。企業はそれぞれの個性を発揮し、ユーモアのセンスを証明できる。また、型破りで面白いアイデアを試して人々の反応を確かめ、実現の可能性を探る場として手軽に使えるというメリットもある。
Advertisement
ワンダーマントンプソン(Wunderman Thompson)のエグゼクティブ・ヴァイスプレジデント兼エグゼクティブ・クリエイティブディレクター、ジャレッド・コーゼル氏は、「ブランドはつねに人々の関心を引こうとしている」と指摘する。ブランドや代理店各社にとってエイプリルフールの悪ふざけ企画は「非公式の活動の場」であり、「作業工数がさほどかからないうえ、数ある企業のなかで注目度を高めるチャンスで、おおむね低リスクの取り組みといっていい」。
「認知度向上を狙うPR施策」
エイプリルフールネタの制作方法はマーケターにより異なる。コンテンツ公開スケジュールに記載する活動の一環として予算を組み、代理店にクリエイティブ・ブリーフを送付して企画案を募るブランドもあれば、代理店または社内のクリエイティブ担当チームでブレインストーミングをして斬新なアイデアを選ぶブランドもある。コンテンツにはPhotoshopで加工した画像のSNS投稿などが含まれ、奇抜なアイデアが出たらエイプリルフール用に確保しておく企業もあると、代理店幹部やPR担当者はいう。
「代理店の多くは、エイプリルフールを利用して、各ブランドのイメージからは想像できないとっぴなアイデアを巧みに売り込む力がある」と語るのは、VMLY&Rのエグゼクティブ・クリエイティブディレクター、クレイグ・エリメリア氏だ。「エイプリルフールは、ブランド各社にとってはハロウィーンのような行事で、仮装していつもとは違う姿を見せる日になる」。
PR会社のMCブランド・コミュニケーションズ(MC Brand Communications)でマネージング・パートナーを務めるピラール・テリー氏はエイプリルフールの企画について、売上増を狙うマーケティング活動というより、「ブランド認知度向上に重きを置いたPR施策だ」と説明する。ただし、こうしたPRは、ソーシャルメディア上の企業コミュニケーションに変化が訪れる前の時代なら、より効果的な施策になっただろう。
「ソーシャルメディアの台頭により、ブランド各社の情報発信に人間味が感じられるようになった。以前はビジネスライクで杓子定規なメッセージばかりだった」とテリー氏は語る。「企業が消費者とコミュニケーションをとる頻度が増えたいま、ブランドが遊び心を見せる手段としてのエイプリルフールネタの必要性が低下している。1年を通して自社の個性をアピールできる機会が得られるようになったからだ」。
「この種の施策は失敗が多い」
今後、エイプリルフール施策が長期にわたって価値を維持できるかというと、それはわからない。ブランドが発信したネタが特集サイトで取り上げられたり、ニュース記事の見出しを飾ったりすれば読者の関心を引くだろうが、そうした企画だけでブランドに対する認識を変えられるかどうかは疑問だ。また、悪ふざけが常態化すると物議をかもす恐れがあるほか、受けを狙ったジョークが空振りに終わる例も見かける、とエリメリア氏は指摘する。
問題は空振りのジョークだけではない。代理店幹部やPR担当者は、エイプリルフールのいたずらはリスクが低いとしているが、2021年3月末に発表された「フォルクスワーゲン(Volkswagen)が米国法人を『Voltswagen』に社名変更」のプレスリリースのように、エイプリルフール用のネタが誤って流出するなど、予期せぬ混乱を招く場合もある。
2022年エイプリルフールのコンテンツを企画するブランドは「慎重に事を運ぶ」必要があると、ニューヨークに本社を置くTBWA\シャイアット\デイ(TBWA\Chiat\Day)のロブ・シュワルツ会長はいう。「この種の施策は成功するより失敗するほうが多い。紛争が勃発し、コロナ禍は収まらず、インフレも進行中だ。ブランド各社にとって、いまのご時世にふさわしい内容のメッセージを発信するのは非常に難しい」。
Kristina Monllos(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by Ivy Liu