広告 で社会問題に立ち向かう、南アのレストランチェーン:「ナンドス・ペリ・ペリ」のブランドパーパス

DIGIDAY

パンデミックが始まってからの2年間、ブランドのマーケティングメッセージはもっぱら、一体感や衛生面での安全性、注意喚起に焦点が合わされていた。だが、最近はようやく「対面での通常の状態に戻ること」を示すクリエイティブに軸足が移っている。

二極化しているというパンデミックの性質を考慮して、より耳障りな広告を避ける企業が多い一方で、南アフリカの鶏肉料理専門レストラン「ナンドス・ペリ・ペリ(Nando’s Peri-Peri)」はあえて問題を投げかける広告を実施してきた。

立場を表明することが重要

2022年3月初め、ナンドスは「Don’t be an Anti-Apper」キャンペーンを展開、新型コロナウイルスの「ワクチン接種に反対する人々」をターゲットに、アプリの利点とワクチンの利点を対比させて描き、新しいモバイルアプリを宣伝した。このキャンペーンでは、店内の看板のほか、「My phone, my choice」といったコピーを用い、ソーシャルメディア上で有料・無料、両方の投稿を行っている。

ナンドスの北米担当最高ブランド責任者、セパンタ・バガープール氏は次のように話す。「このキャンペーンは、ワクチン接種に関する会話を奨励したいという思いから生まれた。ワクチン接種は我々の業界やビジネスに大きな影響を与えるものだし、もちろん、アプリをダウンロードしてもらいたい気持ちもあったからだ」。

これは、慎重さと軽快さというルールをきちんと守っているほかのブランドの広告とは対照的だ。たとえば、デニーズ(Denny’s)は、デルタ株の流行を受けて、衛生面での安全性に関するメッセージを発信し始めた。それより前にはアラスカ航空(Alaska Airlines)が、航空会社がどのように衛生面の安全性に対処しているかを示すための軽快なスポット広告を作成したことは、米DIGIDAYが以前の記事で報じたとおりだ。

ナンドスにとって、それはブランドパーパスであり、たとえ極論であっても、マーケティングメッセージを活用して社会問題に関する立場を表明することが重要だとバガープール氏は述べる。

「我々はワクチン接種を強く支持している。なぜなら、ワクチン接種が、この非常に新しく、ほとんど知られていないパンデミックを、大部分コントロールするのに役立っていることを直接目にしてきた。そして、我々はそれを声に出して言いたかった」とバガープール氏は話す。

「発言することは、常に我々の一部」

現在、ナンドスの広告はほとんど、最近始めたOTT(インターネット配信)とCTV(コネクテッドTV)でのテストとしてデジタルチャネルで流れている、とバガープール氏は付け加える。だが、バガープール氏は詳細を明かさなかったため、その広告支出がどのようなものであるかは不明だ。カンター(Kantar)によると、ナンドスが2021年にメディアに費やした額は4000ドル(約48万円)強で、2020年に費やした3万1000ドル(約375万円)を大幅に下回るという。この金額には、カンターが追跡していないため、ソーシャルへの支出は含まれていない。

マーケティング活動はまだ始まったばかりだが、ソーシャルメディア上ではさまざまな評価を得ている。この取り組みを奨励する声もあれば、ブランドと政治と切り離すよう求める声もある。しかし、バガープール氏は、アプリのダウンロード数とメディア露出が増えていると述べ、同社はアプリのダウンロード数とともに売上も増加する見込みだと付け加えた。だが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。

バガープール氏は電子メールに次のように書いている。「我々のファンは、我々の正直さと信頼性を高く評価していることがわかった。すべてのブランドがこのような状況にうまく対応できるわけではないが、発言することは、常に我々の一部だ」。

企業は社会問題に立ち向かうべし

マーケターのあいだでは最近、ブランドパーパスと価値がより大きな話題となっている。DIGIDAYの過去記事によると、買い物客は、特に危機のときに、ブランドにより多くを期待するようになるという。

「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」であれ、女性の権利であれ、パンデミックであれ、「結局、消費者の心に本当に響くのは正直さだ」と、文化情報コンサルティング会社スパークス&ハニー(Sparks & Honey)の最高マーケティング責任者、クリスティン・モリナリ・コーエン氏は語る。

顧客の信頼を得て、ブランドロイヤルティを高めるために、企業は社会問題に立ち向かう必要がある、とモリナリ・コーエン氏は付け加える。「組織としての価値観が明確であれば、文化のなかで何が起こっているのかを見て、その価値観に基づいて対応することが容易になる」と同氏は述べる。

南アフリカで生まれたこのレストランチェーンには社会風刺の長い歴史があり、アパルトヘイトの終末期に誕生し、政府の腐敗から外国人排斥まで、あらゆるものをテーマにした広告を制作してきた。ここ米国では、バージニア、メリーランド、ワシントン、シカゴを中心に40店舗以上を展開するレストランチェーンで、トランプ前大統領の就任式ではインクルーシビティ(包摂性)を声高にアピールした。

ナンドスでは、バガープール氏が「伝統的ではない戦術」と呼ぶものに力を入れ、人々を店に誘い込んでいる。

「もちろん、それにはリスクが伴う。しかし我々は、社会批判という誇り高い遺産を受け継ぐことが、我々の原点であると信じている」とバガープール氏は語った。

[原文:‘Honesty goes a really long way’: Why Nando’s chicken is keen on social commentary ads

Kimeko McCoy(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU

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