初対面の相手のコミュニケーション能力を見抜くにはどうすればいいか。表情分析のプロである清水建二さんは「採用面接の面接官が学生のコミュニケーション能力を見極めるお手軽な方法があります。それは、学生さんが志望動機や自分の長所や短所を話しているときに、眉間に力を入れた表情を学生さんに向ける、という方法です」という――。
※本稿は、清水建二『裏切り者は顔に出る 上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
悪気なく“自分を大きく見せるウソ”をつく人
昔、予備校でアルバイトをしていたとき、私はそこの教室長の方からこんな話を聞きました。
その予備校には、チューターと言って、生徒さんから学習科目に関する質問に答えたり、進路相談を受けたり、レベルに合った講座選択の相談を受けたり、各種お知らせを周知したり、教室の環境を整えたりする役割を担う新卒の男性社員がいたそうです。
上智大学の外国語学部を卒業した秀才です。
その社員が入社して2カ月程経過した頃、生徒さんから苦情が寄せられました。
「あのチューターさん、質問に全然答えられないんですけど」
1人や2人ではなく、何人もの生徒さんから似たような苦情が寄せられたのです。
また、入社後に卒業証明書の提出が求められているのですが、「ちょっと時間がかかってしまって」と言い、なかなか提出して来ません。
本当に上智を卒業したのかな?
疑問は徐々に深まります。度々、卒業証明書を催促しても何かにつけて提出してきません。
そのまま2カ月程が経過したある日。彼は来なくなったそうです。一度も卒業証明書を持って来ることなく。
彼が上智を卒業していたのか、そもそも在籍していたのか、疑問符が付くところですが、真相は闇です。
飾るのは自由だが、誤解を招いてはいけない
ところで、面接官は入社面接のとき、彼の言動から怪しさを感じなかったのでしょうか。感じなかったからこそ内定を出しているわけですので、平たく言えば、彼の、おそらくウソ、を見抜けなかったのでしょう。
卒業証明書のように物的証拠から人物の履歴や能力を把握することが出来れば、話は簡単ですが、そうした証拠がない事柄について人物を評価するには、その人物の言動から見極めるしかありません。その人物の言葉がどれだけ真に迫っているか、表情はどうか、声色はどうか、どんな姿勢か……等々。
就職活動生に限らず、私たちは多かれ少なかれ自分を飾ります。
私が所属する講師・コンサル業界は、その典型かも知れません。自分という商品を高く買ってもらうために出来るだけ自分を綺麗に、大きく見せようとします。
そのこと自体は悪いことだとは思いません。商品価値を高めるための努力であり、工夫であり、自己プロデュース戦略です。その軸が事実に基づく限り。
しかし、それが完全なウソ、そこまで行かなくても相手から明らかに誤解を招くような装飾であれば、問題です。
経歴に関する“装飾”は多い
私が実際に目にした、過ぎた装飾、あるいはウソは、経歴に関するものが多いように思います。例えば、海外の大学で夏期休業中などに実施される短期プログラムを受講し修了しただけの者のプロフィールに「○○大学卒業」「○○大学○○学科留学」と書かれていたり、大学の客員講師であるにも関わらず、「客員教授」と書かれていたり。
また、一度だけセミナーや打ち合わせをしただけで、社員研修・コンサルの実績としてプロフィール欄にデカデカと書いてある例も知っています。
面白いというか、あきれてしまった実例としては、宣伝用に使う自身の写真の背景がウソだったことがあります。ビジネス交流会で、「自分はこんな宣材写真を使っている」と、ある講師が自身の宣伝用写真を皆に見せていました。自信ある様子で腕を腰に当て、笑顔で写っている写真でした。
ウソを見抜く術を磨こう
背景に目を移すと、本棚があり、膨大な書籍が並べられています。
「へぇ~この本、全て読んだのですか!」という驚きの声とともに誰かが尋ねました。その講師は、「もちろん! ほとんど読みました。ただ、まだ読みかけのものもありますし、サラッと斜め読みしたものもありますけどね」と答えていました。背景に膨大な書籍を並べることで、知性をアピールしたかったのだと思います。
その「本棚」。実は本棚風の壁紙だったのです。写真に違和感を抱いた私が、その講師に一応気遣い、コッソリと確認しました。「それ壁紙ですよね?」と。
すると悪びれる様子もなく、「バレました? 演出ですよ、演出」。こうした演出が効いてか、結構、その講師の自己演出セミナー、売れているようです。
自分を大きく見せるウソ。着飾りのウソと言います。身近にあるウソですが、度を過ぎれば詐欺です。口八丁の人に騙され、大切な時間やお金、人を失わないように、ウソや心理を見抜く術を磨きましょう。