2021年のアップフロント(米国におけるTVCM枠の先行販売)市場をおかしいと思った人もいるだろう。2022年はまったく違う意味で、かなり風変わりなアップフロント市場になりそうだ。
2021年のアップフロント市場は、リニア(従来型)TV、CTV(コネクテッドTV)、ストリーミング、デジタル動画を横断して広告枠を確保するため、価格交渉に終始したが、2022年の交渉は、テレビを評価するための測定システムと通貨を中心に展開されるだろう。少なくとも、主要なメディアバイヤーや最高投資責任者は米DIGIDAYにそう語っている。問題は、どの測定システムを支持し、どの通貨を重視するかについて、幅広い合意が形成されていないことだ。そして、ある持ち株会社はクリーンルームを交渉の前提にすることを検討している。
クリーンルームを交渉の前提に
オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group:以下、OMG)の最高アクティベーション責任者、ミーガン・パグリウカ氏は「このアップフロントでは、最適制御と相互運用性を重要なテーマに掲げている」と話す。パグリウカ氏は最高投資責任者のジェフリー・カラブリーズ氏と緊密に連携し、クロロックス(Clorox)、ブローニー(Brawny)、フォルクスワーゲン(VW)といったCPGブランドを含むクライアントの交渉やアクティベーションをコーディネートしている。「クリーンルームの立ち上げによって、クリーンルームに分析を取り込み、よりスマートな方法で投資に反映できると考えている。また、CTV標準の取り組みを活用することで、透明性を高め、標準化を推し進め、結果として、相互運用性を実現できるようになる」。
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つまり、OMGはメディアセラーに対し、使用するデータや分析が安全でプライバシーに配慮されていることを本質的に保証するクリーンルームを経由することを求めるということだ。パグリウカ氏とカラブリーズ氏はともに、クリーンルームでのデータ共有に同意しないネットワーク、プラットフォームは投資の縮小に直面する可能性があると述べている。
「今年はすべてのメディアパートナーに対し、データストリームをオープンにして、インベントリー(在庫)への自信に基づいて、我々のクリーンルームを診断的に使うよう強く求めていく」とカラブリーズ氏は補足する。「クリーンルームに参加しないのは、販売しているインベントリーに自信がない場合だけだ」。
別のバイヤーも、クリーンルームは交渉の際にもっと考慮されるべきだと述べている。ただし、「そのような形で大々的に取引されるのはまだ先のことで、来年かその次のアップフロントになるだろう。クリーンルームを稼働させれば、2日後に取引できるというようなものではない」と警告している。
クロススクリーン測定とニールセン
クリーンルーム以外にも、米DIGIDAYの取材に応じたバイヤー全員が、より良いクロススクリーン測定の必要性を認めている。リニアTVネットワークからストリーマー、コネクテッドTVプレイヤー、ソーシャルプラットフォームまで、購入しなければならないテレビの選択肢がたくさんあるためだ。これらすべての選択肢を横断して、視聴者の移動をより正確に追跡することが、クライアントの広告が適切な場所に表示される鍵になるのは確かだが、まだ明確な道筋は示されていない。
IPG傘下のマグナ・グローバル(Magna Global)のプレジデント、ダニ・ベノウィッツ氏は「クロススクリーン測定が必要なのは間違いない。実施する必要があることだ」と話す。「キャンペーンを測定する際は、インクリメンタルリーチ、価値の高いオーディエンス、成果、アトリビューションなど、さまざまな要素に目を向ける。業界全体でいくつものテストが行われており、我々も皆とともにテストしている。しかし、通貨は我々が取引に使う価格そのものだ。1年で慌てて通貨を変えるべきではないと思う」。
もうひとつの重要な問題がニールセン(Nielsen)だ。ニールセンはパンデミック中、視聴率の問題で打撃を受け、多くのメディアクライアントがほかの測定プロバイダーに乗り換えるのを目の当たりにした。ニールセンの利用を止めるべきだという声も聞かれるが、ある大手持ち株会社のバイヤーは米DIGIDAYの取材に対し、「ニールセンから離れるつもりはない」と語っている。別のバイヤーも、ほとんどのクライアントが依然としてニールセンベースのモデルを支出計画の判断材料にしていると述べている。
アップフロント市場における現状
それでは、現在の市場がどのような状況にあるかを見てみよう。2021年のアップフロントでは(視聴率の低下が続いていたため)、バイヤーはリニアTVインベントリーの大幅な値上げを受け入れたが、クライアントが購入した広告枠の一部を手放したため、スキャッター市場(アップフロントで売れ残った在庫を四半期ごとに販売する市場)の価格設定は大幅に軟化したと複数のバイヤーが報告している。ある主要バイヤーによれば、キャンセル率は前年の3倍程度で、アップフロントで購入した在庫の6~7%に上るという。
なぜだろう? キャンセルの主な理由はサプライチェーンの問題で、広告キャンペーンの縮小を余儀なくされたためだが、スキャッター市場の価格がさらに上昇することを恐れ、多くの広告主がアップフロントで余分に購入していたことも一因だ。
匿名を条件に取材に応じたあるバイヤーは、スキャッター市場が落ち着いたことで、「アップフロント市場も落ち着きを取り戻してくれればいいのだが」と期待を口にした。「ただし、アップフロントの価格がどうなるかを正確に予言するのは時期尚早だ」。
猛プッシュしているYouTube
同時に、一部のデジタル動画パブリッシャーは、従来のセラーが動き出す前に顧客の予算を奪うため、例年以上に猛プッシュしていると言われている。象徴的なのは、GoogleとYouTubeが伝統的なアップフロント週間にお披露目会を行うと発表したことだ。リニアTVネットワークは毎年5月第3週に今後のコンテンツを発表する。大手持ち株会社のバイヤーは匿名を条件に、YouTubeはテレビ広告予算のシェアを拡大するために「今動いて」おり、気前のよい価格を提示していると明かした。
YouTubeが成功するかどうかはさておき、マグナのベノウィッツ氏によれば、映画スタジオ、旅行、自動車、金融など、いくつかのカテゴリーは復活が見込まれているという。そして、暗号通貨からギャンブル、賭けまで、新たな資金がアップフロントに投入されると予想されている。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)