スニーカーの eコマース 新興企業に、いまも巨額の投資を続ける投資家たち

DIGIDAY

キックス・ワールド(Kyx World)やキックス・クルー(Kicks Crew)などスニーカーのeコマースを手掛ける新興企業に、投資家たちは先月1,000万ドル(約11.8億円)以上を投資した。ストックX(StockX)やゴート(GOAT)といった主力企業は過去3年間で数億ドルを調達し、現在は10億ドル(約1,177億円)規模へと成長したが、投資家からのスニーカー新興企業に対する関心と信頼は高まり続けている。

立ち上がってまだ8カ月のスニーカーレンタル企業であるキックス・ワールドは、スポーツテック分野のベンチャーキャピタルファンド「セブンティー・シックス・キャピタル(SeventySix Capital)」から、2月末に300万ドル(約3.5億円)を調達している。投資家がスニーカーのeコマースに関心を持ち続けている理由はいくつかあると、キックス・ワールドのCEOであるブライアン・ムポ氏は語る。

同氏がまず挙げたのは、スニーカーのオーディエンスがマーケティングに対して高い受容力があり、なおかつゴートなどの成功によって購買力が証明された明確なセグメントであることだ。スタティスタ(Statista)の推定によると、世界のスニーカー市場全体の価値は約700億ドル(約8兆2,452億円)で、毎年成長している。2点目は、スニーカーが一般的には、時間の経過とともに高く評価される資産であること。これらの企業が在庫を持つ際のダウンサイド・プロテクション(資産価値の下振れ抑制)となり、購入した在庫が損失になる可能性が低くなるのだ。

3点目は「スニーカーは、業界が向かっていく方向を示す先導者として機能している」ことだ。

「このカテゴリーが、流行を生み出している」とムポ氏。「スニーカーで人気が出たものはその後、ほかのファッション界にも広がっていく。そして、流行を生み出すものは常に、投資家からの信頼を集めるものだ」。

その例として、スニーカー業界がいち早くNFTを採用し、それがファッション界全体に広まっていった事実を挙げる。

スニーカーのeコマースプラットフォーム「キックス・クルー」は3月9日、ゴビ・パートナーズ(Gobi Partners)から600万ドル(約7億982万円)を調達した。キックス・クルーのCOOであるロス・エイドリアン・イップ氏によると投資家たちは、ニッチな層から関心を寄せられていたスニーカーが、巨大市場で幅広い層に支持されるものへと変わっていくのを目の当たりにし、トレンドを追うようになったのだという。

しかしスニーカーのeコマース市場にはプレーヤーが多く、新しいプレーヤーも常に参入してくる。キックス・ワールドが立ち上がったのは2021年6月で、ほかにもソール・サヴィー(SoleSavy)アナザー・レーン(Another Lane)ソーダ(SODA)などが昨年ローンチされている。ソーダは今年1月にソフトバンク・ベンチャーズ・アジアなどから約25億円を、ソール・サヴィーはパナッシュ・ベンチャーズ(Panache Ventures)から200万ドル(約2億3,574万円)をそれぞれ調達している。

ムポ氏によると「競争の激しい市場であることは明らかだが、途方もなく熾烈というほどではない」。

eコマース市場のこれらのプレーヤーは人々の視線を集めるため、ストックXなど既に成功を収めた企業の事業モデルを模倣するのでなく、新しい方法を模索している。たとえばキックス・ワールドではサブスクリプションモデルを提供している。一方でリセールプラットフォームであるキックス・クルーは、ターゲットを熱狂的なスニーカー収集家ではなく、ごく一般の消費者に設定し、差別化を図る。

この差異こそが、キックス・クルーに投資家たちが引き付けられる理由だ。

「オンラインスニーカー市場で、ほとんどのプラットフォームがターゲットにするのは、比較的ニッチでハイエンドな収集品としてのスニーカーであり、はるかに大規模なセグメントである一般消費者向けの商品はあまり重視されていない」と、ゴビ・パートナーズのグレーターベイエリア(GBA)担当マネージングディレクター、チボ・タン氏は語る。

スニーカーeコマースに新しく参入するプレーヤーには差別化の要因が必要だと、ムポ氏は話す。ストックXのような10億ドル規模の新興企業や、フットロッカー(Foot Locker)のような定評のあるレガシーブランドなどが市場を支配しており、スニーカー市場はもう黎明期ではないのだ。

「現時点で、直球勝負なマーケットプレイスをただ立ち上げるだけでは苦しい戦いになるだろう」とムポ氏。「しかし、より差別化されたモデルには、まだ多くの余地が残されている」。

[原文:Investors are still pouring tens of millions into sneaker e-commerce startups

DANNY PARISI(翻訳:田崎亮子/編集:猿渡さとみ)

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