2月26日付の英Economist誌が、ウクライナの主権と領土の一体性は守られるべしとの中国の王毅(外相)の発言はあったが、結局のところ、ウクライナ危機を前に習近平はプーチンに擦り寄ったという記事を書いている。
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すべての国の主権、独立、領土の一体性は尊重し保護されるべきであり「ウクライナも例外ではない」という王毅外相の発言は崇高な外交の化粧板に過ぎなかったとのこの記事の評価に異論はない。中国外交部の報道官が王毅の発言に言及することはあっても、「ウクライナも例外ではない」という部分は欠落している。報道官はロシアのウクライナ侵攻を「侵攻(invasion)」と認定することを頑強に拒否し、西側の制裁を批判し、「ウクライナを取り巻く現在の緊張の犯人」は米国だと述べた。
更には、中国外交部の報道官は「米国は大国を壁に追い詰めることの結末を考えたことがあるのか」と問うて、北大西洋条約機構(NATO)をロシアの玄関口にまで拡大したことを非難したが、これはロシアにおもねるものである。
NATOの拡大は言い慣わされた言い方であるが、それは基本的にはロシアの脅威に怯える中欧東欧諸国とバルト諸国の加盟への切実な願望にNATOが応じたものに他ならない。
しかし、中国がウクライナ危機の取り扱いに苦労している様子は垣間見える。プーチンが冬季オリンピックに際して北京を訪問した際に両国の共同声明が出されたが、奇怪なことに、この共同声明は中国外交部のウェブサイトには掲載されなかった――。世間に流布した共同声明の内容はクレムリンのウェブサイトの英語版に依っている。
中国外交部のウェブサイトでは両首脳の会談の模様が紹介されているが(共同声明にあるNATOの拡大反対への言及はない)、ウクライナに迫る危機を前に中国はロシアとの距離の取り方に工夫を要したのかもしれない。王毅の「ウクライナも例外ではない」との発言もそれかもしれない。
対話と交渉を呼び掛ける際に国連憲章に言及しているが(ウクライナ侵攻は明確な国連憲章違反である)、ささやかな異議の表明かもしれない。ウクライナと中国は友好関係にあり(空母「遼寧」はウクライナから購入した空母「ワリヤーグ」を再生させたものである)、6000人もの中国人が残されているというから、中国にとっては迷惑な事態であろう。
プーチンの蛮行を叱ることはできるのか
2月25日、習近平はプーチンと電話会談を行ったが、何が目的の会談だったのか判然としない。CGTN(国営TV)や新華社の報道によれば、習近平は「ウクライナ東部の情勢の最近の劇的な変化を指摘して」「中国はウクライナ問題自体のメリットに基づきその立場を決定する」と伝えたことになっている。
判然とはしないが、ロシアの共犯と見做されたくないという意味かもしれない。いずれにしろ、ウクライナ危機は中国がまっとうな行動をする時もあることを示すチャンスのはずである。今からでも遅くはない。習近平にプーチンの蛮行を叱ることくらい出来ないはずはないと思われる。
3月5日(日本時間)、ブリンケン米国務長官は、中国の王外相と電話会談し、ロシアのウクライナ侵攻に対し、中国も一致して行動することを促したが、王外相は、NATOの東方拡大のロシアへの影響を考慮すべきだなど、ロシア寄りの発言をしたとされる。ブリンケン長官が、「世界は見ている」と述べたが、今のところ、中国は、世界が欧州に注目している間に、アジアで自らの利益を得ようとしているようである。