(新聞通信調査会発行の「メディア展望」2月号掲載の筆者記事に補足しました。)
ロシアによるウクライナへの武力侵攻以降、欧州の難民受け入れ姿勢は劇的に変わった。
2015年の難民危機では、欧州各国は受け入れの足並みがそろわず、昨年秋から冬にかけてはベラルーシから入ってくる難民・移民たちを追い返そうとするポーランド当局の動きが国際的な非難を浴びた。
しかし、2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、これは欧州のどの国にとっても「許されない行為」だった。ウクライナを出て周辺の東欧諸国に向かう人々を欧州各国は最善を尽くして助けようとしているようだ。
現在、ウクライナからの難民のほとんどがポーランド、ルーマニア、スロバキア、ハンガリー、モルドバなどに向かっている。
国連によると、ロシアによる侵攻から1週間で、170万人を超える市民がウクライナを後にしたという。
昨年は難民たちの受け入れを拒んだポーランドはウクライナ難民100万人余をすでに受け入れた。昨年秋から冬にかけての難民流入への強硬な拒否姿勢とは大違いだ。
主な受け入れ先は以下。
ポーランド:約102万人
ほかEU諸国:約18万3000人
ハンガリー:約18万人
スロバキア:約12万8000人
モルドバ:約8万2000人
ルーマニア:約8万2000人
ロシア:約5万3000人
ベラルーシ:約400人
筆者が住む英国は、英国人の家族・親戚がいるウクライナ市民を受け入れるとしていたが、これを広げ、約20万人の受け入れ予定だ。
欧州連合(EU)は400万人のウクライナ市民が国を出る可能性があるという。
ウクライナは日本の約1.6倍の面積を持ち、人口は約4200万人(外務省)。
ウクライナ危機発生前の欧州の難民受け入れ状況を振り返ってみたい。
「要塞化」欧州
昨年秋、欧州に住む多くの市民が一連のテレビ報道に釘付けになった。
旧ソ連圏のベラルーシから欧州連合(EU)加盟国ポーランドに入ろうとする難民・移民たちに対し、ポーランド治安部隊が放水装置や催眠スプレーなどを使って流入を阻止する姿が画面に映し出されたからだ。越境を試みる人々の中には小さな子供を連れた母親の姿があった。阻止策に怯まず、近隣の森の中に何日も身を隠しながら、EU内に入る試みを続ける人々もいた。
凍てつく戸外で夜を過ごさざるを得ない難民たちと暖房の効いた部屋の中でこうした報道を目にする欧州市民の状況には、天地の差があった。
人間の尊厳の尊重、自由、民主主義などを基本理念とするEUの国境で、非人道的と思える排除手段が取られていたことに、筆者自身が衝撃を受けた。