商品を持った手をビタッと止めたかった

デイリーポータルZ

皆さんは近年、CM界に起きたある変化にお気づきだろうか?

商品をこちらに向かって突き出すタレントの腕と手が、微動だにせずビタっと止まっているのだ。

めちゃくちゃ気になる!

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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これがビタ止めCMだ!

「そんなCMある?」という方のために、まずは具体例を。特にCMの最後に注目して欲しい。

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アンメルツを持つキンキの2人の手が、ビタっと止まっているのが分かるだろう。これが「ビタ止めCM」だ。

人間、喋る時は口だけでなく全身も微かに動く。それなのに、ビタ止めCMでは商品とそれを持つ腕や手だけが完全に止まっている。ここに若干の気持ち悪さと妙な面白さが生まれる。

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他にもこの手法を用いたCMは幾つもあるので、チェックしてみて欲しい

このようなCMが作られるようになった背景はなんだろう。「せっかく広告打つんだから我が社の商品を1mmも動かさず、はっきり見えるようにして!」というクライアント側の要望? あるいはCM制作者側のクライアントに対する過剰な忖度?

いずれにせよ、いまや商品の僅かな揺れも許されないほどCMの世界は厳しくなっている。何の準備もせず、高いハードルを前にしてからオロオロしているようでは遅い。ビジネスの世界で生き残るために、私も読者の皆さんも早々にビタ止めの技術を習得しておこう。

信頼できるプロジェクトチーム発足

こんな時に協力を仰ぐのは当然、この方達。

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普段からビジネスに対する意識の高さを共有している、DPZ編集部の皆さん

今回は『デイリルツ』という商品のCMを作っていく。クライアント(林製薬)側からは「勿論、ビタ止めでね」とキツく言われている(全部妄想ですよ)。

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これが林製薬のデイリルツだ!H2Oと偽薬成分配合で脳こりに効く。さらに脳まで届く!

「じゃあ石井さん、早速やってみて下さい」と皆に言われたが、被写体は圧倒的にフォトジェニックな安藤さんにお願いし、私はディレクターに徹する。

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新製品、デイリルツの未来はこの男の笑顔に託された!

まずはデイリルツを持って、普通に商品を宣伝してもらう。

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我々の顔は曇った。「駄目だ。滅茶苦茶商品が動いてる。これでは契約を解消されても仕方ない」。早々にディレクターの腕の見せ所が来た。私が事前に考えてきた3パターンの手法を皆に提案し、順に検証していく。

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手法①『二人羽織法』

まず考えたのは「商品名を叫ぶ人と商品を持つ人を分ける」という手法。

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つまりこういうこと。これなら持つ人が頑張れば商品はビタっと止まるはず

前後左右、林さんが突き出す腕の位置の正解を探っていく。

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駄目だ。腕長すぎ!橋田さんはメイキング撮影を担当。良いプロジェクトチームに恵まれた
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どういうこと?
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お?ここじゃないか?早速動画で撮影だ!

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多少商品は動いているが、かなり良い線いってる。どうせなら商品とパッケージの両手持ちにも挑戦だ。

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林さんは分かるとして、安藤さんがつげ義春の『長八の宿』みたいになってるのは何故?
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商品が正面向いてないけど、悪くはない。よし、さらに改善して…
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あれ? 林さんが体育座りで遠くを見ている

あらゆる体勢を取らされていた林さん。いつの間にか肩で息をしていた。

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ウェブマスターをなんだと思ってるんだ! こんなに酷使して失礼にもほどがある

よし。この手法の検証、終わり! クリエイティブの現場は撤退する勇気も必要だ。

検証結果①「この方法も悪くはないが、商品は若干動いてしまう。あと、持つ係の人が時間と共に遠くを見るようになる」

⏩ 腕をパネルにする方法を発明

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