- 「CIAやユダヤ人の陰謀と戦うために」ウクライナを目指す白人過激派は後を絶たない。
- なかには欧米の現体制を打倒する「内戦」を目指し、実戦経験を積むためにウクライナに向かう者もいる。
- ロシアが侵攻するかしないかにかかわらず、「ウクライナ帰り」が欧米でテロに向かうリスクは高まっている。
「ロシア軍の侵攻があるかないか」だけがウクライナ危機の脅威ではない。たとえロシア軍の侵攻がなくても、ウクライナが世界中にテロを輸出する「第二のシリア」になるリスクは、すでに現実のものになりつつあるからだ。
軍事侵攻だけがリスクではない
「事態が急速にとんでもないことになりかねない」。2月10日、バイデン大統領はこう警告して、アメリカ国民にすぐさまウクライナから退避するよう呼びかけた。
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昨年10月から段階的にエスカレートしてきたウクライナ危機は、いまや暴発寸前のようにも映る。仮に軍事衝突が発生すれば、戦場となるウクライナの人的被害だけでなく、当時国の経済的損失を含めて、数百万人の生活が壊滅的ダメージを受けるとみられている。
ただし、ウクライナを震源地とする危機は、大国間の軍事衝突だけではない。ロシア軍が侵攻するかしないかにかかわらず、緊張のエスカレートでウクライナが白人過激派の巣窟になり、やがて各国にテロを逆輸出することになる公算が高いからだ。
白人テロリストのるつぼ
欧米における白人過激派のテロ事件数は近年、イスラーム過激派によるものを上回っており、治安機関のなかにもその支持者がいると報告されている。だからこそ、トランプ支持者が連邦議会議事堂を占拠した昨年、アメリカ政府は「国内テロ」を国家安全保障にとっての脅威と認定したのである。
そうした白人過激派のなかにはウクライナに渡る者が少なくない。アメリカのスーファン研究所によると、ウクライナには2019年までに世界50カ国以上から少なくとも1万7000人の白人過激派が集まっていた。
2019年にNZクライストチャーチでモスクを銃撃し、51人を殺害したブレントン・タラントもウクライナ行きを熱望していたといわれる。
危機のエスカレートはこれまで以上に白人過激派をウクライナに引き寄せているとみられる。それはちょうど、2014年からのシリアに「イスラーム国(IS)」やアル・カイダに参加するため世界中から数万人が集まったのと同じだ。
「CIAやユダヤ人の陰謀と戦うため」
なぜ白人過激派はわざわざウクライナを目指すのか。その最大の理由はウクライナが白人過激派のイデオロギーや陰謀論を満足させやすい土地だからだ。
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念のために確認しておくと、世界各国からウクライナに集まった白人過激派は、敵味方に分かれている。
ウクライナには東部ドンバス地方の分離を目指す勢力と、これを阻止してウクライナの統一を維持しようとする勢力がある。このうち東部の分離派はロシアの支援を、統一派は欧米の支援をそれぞれ受けて戦闘を繰り広げてきたが、そのどちらにも白人過激派が外国人戦闘員として加わっているのだ。
しかし、立場は違っていても、外国人戦闘員の多くは「CIA、メディア、ユダヤ人などを中心とする一部エリートが真実から市民の目をあざむき、世界を支配している」というQ-Anon的な陰謀論に感化されている点で共通する。
例えば、分離派の取材をした英ガーディアンのインタビューに、テキサス出身の元アメリカ軍人で、麻薬密輸で投獄された経験もある外国人戦闘員は、そもそもクリミア危機がCIAやユダヤ人の陰謀だと断定している。
そのうえで、「初めてドンバスにきたとき、分離派民兵からアメリカのスパイと疑われたんだ。でも、“9.11にアメリカ政府が関わっていたと思うか?”と尋ねられて、“もちろん。あれが仕組まれたものでないというのはバカか嘘つきだけだ”と答えたら、初めて信用されたのさ」。