風力発電業界は国家窮乏を望むか – WEDGE Infinity

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三菱商事は困惑しきりではないか。昨年末、秋田県および千葉県沖の3海域における洋上風力プロジェクトの入札で三菱商事を中心とするコンソーシアムが3海域すべて総取りで、しかも他の参加者の平均価格の半分程度という圧倒的な低価格で落札した一件である。

(MR1805/gettyimages)

低価格で落札したことは国民の電気料金負担を軽減するわけなので、本来称賛されるべきことだ。ところがこの三菱商事コンソーシアムの落札に対しては「風力発電業界」から異論が噴出しているという。三菱商事コンソーシアムによる価格破壊が事業の実施可能性、産業育成、立地地域の合意形成の面で問題が生じうるとして、今後の入札基準の見直しや審査評価の透明化、更には今回の三菱商事コンソーシアム落札の結果さえも政府は見直すべきとする論稿まである。

見直せば、アジア展開への狙いとは逆行

筆者はむしろ三菱商事コンソーシアムの落札結果を見て、日本の洋上風力に対する悲観的な見方を少し修正し、希望が見えた気がした。以前、別稿「日本の「グリーン成長」を可能にする条件は?(前編)」(国際環境経済研究所、2021年1月14日)で筆者は日本政府のグリーン成長戦略の筆頭に挙げられていた洋上風力について考察したが、その結論は、日本の洋上風力の産業化の規模とコストダウン目標が中国と比べると10年以上遅れていて、日本で市場を立ち上げていずれアジア展開を通じてグリーン成長という筋書きは全く現実性を欠くというものであった。

三菱商事コンソーシアムのプランは日中の差はまだ残るとしても、かなり縮めることに貢献できそうだ。それにもかかわらず、三菱商事コンソーシアムの低価格は「リスクを低く想定」し、「楽観的な事業見通し」によるものとし、今回の政府決定を覆そうと画策したり、今後の入札基準を見直そうとする動きは果たして理に適ったものなのだろうか? 中国との比較から考えてみよう。

現状は導入量もコストダウン目標も中国と圧倒的な差

20年12月に公表された『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』において洋上風力はわが国のグリーン成長を目指す分野の筆頭として挙げられている。政府の目標は30年に10ギガワット(GW)、40年に30~45GWの洋上風力を導入し、30~35年にキロワット時(kWh)当たり8~9円までコストダウンするというものであった。しかし中国の状況を見ると全く太刀打ちできないと感じざるを得ない。

中国では21年9月時点で13.2GW、すなわち日本政府の30年目標を大幅に超える洋上風力が既に送電網に接続済となっている。そして驚くべきことに、21年は17GW(!)の新規発電設備を導入し、送電網未接続の設備も含めると累計導入量は26GWに達したとされる(ちなみに日本の現状は中国の440分の1の59メガワット(MW))。

1年間で17GWという莫大な導入量は21年の世界全体の導入量の8割以上を占めたと考えられる。この驚異的な急拡大の背景には洋上風力の買取優遇価格の見直しが予定されているために駆け込み需要があったとされる。したがって今後多少減速することは考えられるが、日本の40年目標の下限30GWに、早ければ22年にも到達する可能性があり、上限にも30年までに到達する可能性が高いと考えることができそうである。

また20年時点で中国の風力発電業界は25年にkWh 当たり6.3円までのコストダウンを目指していた。21年の導入急拡大を見るとコストダウンの目標は更に深掘りされている可能性が高い。20年時点の25年目標でも、日本の目標と比べると2円程度低いコストを5年から10年早く実現する目標ということになる。これでは日本政府のグリーン成長の前提であるアジア展開を中国企業に対抗して実現することに一縷の望みもないと言わざるを得ない。

しかし三菱商事コンソーシアムの落札価格は11.99~16.49円と固定価格買取制度(FIT)上限価格29円を大幅に下回る。グリーン成長戦略の目標価格8~9円は企業の利潤を含んでいないものとのことで、実質的にほぼ同水準とみなすことができるという。コンソーシアムの計画では今回の3プロジェクトは28年9月から30年12月にかけて運転開始ということで、グリーン成長のコストダウンを目標より2~5年早く達成するものと評価することができる。

依然として中国の目標とスケジュールには後れを取っているが、まだ希望を捨てなくても良いかもしれないと思わせるものだ。何よりも今回の三菱商事コンソーシアムが日本の再エネの高コスト構造を打ち破るべく一石を投じたことで、今後コストダウンに向けた健全な競争が活発化し、入札価格を更に低下させていく動きが生まれてくることが期待できる。

落札基準の見直しを求める声

しかし「風力発電業界」の観点から三菱商事コンソーシアムを批判する先の論稿は、三菱商事コンソーシアムによる落札は事業の実施可能性、産業育成、立地地域の合意形成の面で問題が生じうると指摘している。

確かに今回の入札は制度設計において問題があったのは間違いないようだ (この点については、電力中央研究所社会経済研究所朝野賢司上席研究員よりご教示を頂いた。記して感謝したい)。今回の入札は価格水準と事業可能性の2つの基準ごとに採点し、その合計で落札企業を決定することとなっていた。事業可能性の得点を上げるため、参加企業は立地地域との折衝を進め、中には環境アセスメントまで行った企業もあった。しかし三菱商事コンソーシアムが圧倒的な低価格で入札したことで価格水準において大差がつき、相対的に事業可能性の得点差は入札結果にほとんど影響を与えなかった。

事業可能性を引き上げようとした企業の努力が報われなかった事態となったのは確かなようだ。そのため、「風力発電業界」は評価基準について、価格水準と事業可能性の配分を見直し、事業可能性の配点をより多くするべきと主張している。

しかし価格水準に比べると曖昧さのある事業可能性の配分を高くすることは望ましくないと考える。曖昧な基準の比重が高まれば高まるほど、先行企業が有利となり、新規企業の参入意欲を損なう恐れが高まる。先行企業にとっても、今回事業可能性を高めるために何をどこまでやれば良いのか曖昧で分からず費用が膨らんでしまった事態が生じたようだ(そしてその費用は落札できなかったため、回収不能となった)。

また事業可能性を高めるために立地地域と折衝を行う中で、不当に高い協力金を約束したりする事態もあり得るだろう。それは立地地域の歓心を買うために一般国民に電気料金上昇という形でツケを回すモラルハザードを引き起こす懸念があるということだ。

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