「ビデオゲームは子どもに有害」という悪いイメージを覆す研究を続けてきた心理学者へのインタビューが公開中

GIGAZINE



かつては「暴力的なゲームの影響を受けた子どもが事件を起こす」「ゲームは子どもにとって有害」といったステレオタイプが世間に広まっていましたが、近年では「ゲームを長時間プレイする子どもは知能が高くなる」「ゲームが脳活動や意志決定能力を強化する」といったポジティブな研究結果が多数報告され、ゲームに対するネガティブなイメージは薄まりつつあります。まだビデオゲームと心理学を結びつけた研究が少なかった時期から研究を続け、偏見の排除に貢献してきたレイチェル・コワート博士へのインタビューをゲームメディアのKotakuが公開しています。

The Psychologist Determined To Prove Video Games Are Good
https://kotaku.com/dr-rachel-kowert-psychologist-game-violence-learning-1850477266


コワート氏がイギリスのヨーク大学で博士号取得に向けた研究を始めた2010年頃、まだ心理学とビデオゲームを結びつけるという概念は珍しいものだったとのこと。コワート氏は当時のことを回想し、「本当にビデオゲームの心理学的研究は少なくて、スタンフォード大学でも1人か2人ほどの研究者しかいませんでした。それが今や、デザイン面だけでなく心理学・社会学・人類学・コミュニケーション科学など、文字通り100以上のゲーム研究プログラムがあるのです」「ゲームをエンターテインメントメディアとして研究することの価値や、ゲームが私たちの日常生活に与える影響についての認識が変化しているのを実感しています。そして、その価値を正当化する必要がなくなったという変化も、確かに見てきました」と述べています。

数十年前からビデオゲームはあらゆる年齢や背景を持つ人々を魅了する一大産業でしたが、社会が暴力的な事件に直面した際、説明が難しい犯人の心理的動機を説明するための「スケープゴート」としても用いられていました。

たとえば2018年にアメリカ・フロリダ州の高校で銃乱射事件が起きた際は、当時のドナルド・トランプ大統領が「私は多くの人々から暴力的なビデオゲームが若者の思考を形成しているという話を聞いています」と述べ、ビデオゲームが若者に悪影響を与えたのではないかと示唆しました。

銃乱射事件を受けトランプ大統領が暴力的なゲームや映画を規制すべきだと発言 – GIGAZINE


トランプ大統領は2019年にも銃乱射事件に反応し、「私たちは社会における暴力の美化を止めなくてはなりません。これは今や当たり前になった陰惨で悲惨なビデオゲームも含まれます。今日では、問題を抱えた若者らが暴力を賛美する文化にあまりに簡単に囲まれています」と述べて、ビデオゲームに責任があるのではないかと示唆しました。

コワート氏は、「暴力的なビデオゲームの研究は実に興味深いものです。なぜなら、人々は銃乱射事件や青少年の非行など、世間の複雑な問題に対する簡単な解決策をどうしても持ちたがるからです」「私は20年間研究を続けてきましたが、ビデオゲームと暴力事件が直接的に関連していることを示唆する一貫した知見はまったくありません。一方、純粋な非行傾向や欲求不満への低い耐性、過去の暴力的被害などを暴力行動の予測因子として関連付ける研究は非常に豊富にありますが、それらは社会問題を混乱させるので無視されているのです」と述べています。

今でもコワート氏は、業界での食事会や講演などの歓談で「子どもがフォートナイトにハマっている」ことを心配する親から、ゲームが子どもに及ぼす影響について相談を受けることがあるとのこと。実際、課金によって一定確率でアイテムやキャラクターがドロップする「ガチャ」については、プレイヤーではなく企業が収益を上げるためのものであり、一種の略奪的なデザインとも言えるとコワート氏は認めています。過去の研究では、「ガチャの構造および回す時の心理状態はギャンブルに似ている」ことも指摘されています。

ガチャを回す時の心理状態はギャンブルを行っている時と同じという研究結果 – GIGAZINE


ガチャを回すために親のクレジットカードを無断で使用する子どもが現れたり、ゲーム依存症になってしまうケースもあったりと、ゲームのすべての要素がユーザーにメリットをもたらすわけではありません。しかし、コワート氏をはじめとする研究者らは、ビデオゲームは社会にとって有益な効果をもたらすと考えています。

コワート氏は、「ゲームをプレイすることの影響は、全体的に見てマイナスよりもはるかにプラスが多いものです。周辺視野はその1つであり、周辺視野の小さな変化に気づく能力はシューティングゲームで訓練することができます。次にストレスの軽減や気分の向上、社会的なつながりや友情の促進、チーム構築とリーダーシップのスキル向上などもあります」と述べ、ゲームをプレイすることで現実世界でも役立つさまざまなスキルが身につくと主張しています。

中でも子どもにとって有益なのが、コワート氏が「意図しない学習」と呼ぶ種類のものです。たとえば文明を発展させるシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」では、プレイを通じて世界の歴史や都市計画などを学ぶことができます。実際にコワート氏の子どもは、「どうぶつの森」をプレイすることで、ゲーム内通貨の「ベル」を使用する際にさまざまな計算をしたり、ベルの管理を考えたりしていたそうです。

また、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」ではプレイヤーがさまざまなアイテムを組み合わせて自分だけの乗り物を作ったり、より強い武器を作ったりとプレイヤーの発想次第でさまざまな遊び方が可能であり、一種のエンジニアリング的なスキルを習得するのに役立つとのこと。コワート氏は、「プレイヤーはオブジェクトのいじり方、挑戦して失敗すること、粘り強さ、機械を作る方法について学んでいるのです」と述べました。

Nintendo Switchでハイラルの大地だけでなく大空や地底も冒険しまくりな「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」は「前作をはるかに超える自由度」と「作る楽しみ」が魅力 – GIGAZINE


コワート氏は単にゲームの明るい側面にだけ目を向けているのではなく、近年では「テロリストや過激派組織がプロパガンダを広めるためにゲームを利用する方法」という、ゲームのダークサイドについての研究プロジェクトに携わっています。その上でコワート氏は、この研究がゲームコミュニティの回復力を構築し、より良い方向に向けるための役に立つと考えています。

コワート氏は、「より回復力のあるコミュニティのインフラを構築できれば、過激派やテロの問題を解決できるだけでなく、ハラスメントやヘイトといったゲーム空間に潜むさまざまな問題を軽減することができます」「ゲームをより良いものにすることが常に私の目標です」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました