大和証券が狙う日本の資産活性化 – 大関暁夫

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証券業界はネット証券の台頭やメガバンクグループの証券業務強化、活発化する異業種参入などにより、従来のビジネスモデルが根底から覆されるような大変革期を迎えています。

そのような状況下で、独立系証券大手の大和証券グループが新たな中期経営計画を発表しました。激動の時代を、どのような戦略をもって勝ち抜こうとしているのか、佐藤英二常務執行役CFOに浮沈のカギを握るリテール戦略を中心にお話をうかがいました。

大きな転換となる「資産管理型ビジネス」へ舵を切った背景

大関:証券業界激変の流れの中で、大和証券グループの新たな中期経営計画が発表されました。前中計では業績KPIである経常利益2000億円の目標に届かなかったところを見ると厳しい環境下を感じさせます。今中計でも同様の目標が掲げられていますが、前中計の評価と今中計の達成に向けた基本的な考え方を聞かせてください。

佐藤CFO(以下、佐藤):当社グループは前中計で掲げためざす姿があります。それは「マーケット環境に左右されにくい、より強固な収益構造をつくる」ということです。それを6か年かけて実現しようという6か年計画が基本にあり、前中計はその前半3か年、今中計が後半3か年にあたります。

確かに経常利益では未達という結果にはなりましたが、「強固な収益構造の確立」に向けて、布石は十分打てた3年間だったと評価しています。

それは、資産管理型ビジネスモデル確立に向けた営業改革、ハイブリッド戦略の推進、コスト構造改革が順調に進捗したことです。更に、財務基盤KPIとして掲げた連結総自己資本規制比率では、3月末の数値で目標の18%を大きく上回る21.72%となっています。

経常利益の未達については、厳しかったマーケットの要因もありますが、リテール部門がビジネスモデル移行の過渡期であったことも要因の1つにあったと捉えています。

具体的には、前中計から取り組んでいる、ブローカレッジ型すなわち売買収益型から資産管理型へのビジネスモデルの転換をしっかり進め、お客様との長期の信頼関係をつくることに専心し、新たな収益モデルの確立に向けて取り組んでいます。

大関:ブローカレッジ型ビジネスから、資産管理型ビジネスへの転換に大きく舵を切られた意図をお聞かせください。

佐藤:日本の個人金融資産は約1900兆円ありますが、その過半は依然として現預金が占めており、欧米に比べると明らかに証券市場での運用が少ない状況です。言い換えれば、リテールの証券ビジネスにとっては非常に高いポテンシャルを秘めた、未開の沃地であるわけです。

そしてもうひとつ、我が国の金融資産の63%を60歳以上の方々が保有しているという事実があります。この比率は、10年後に65%、20年後には70%になると予測されてもいます。

すなわち、高齢の方々への偏在はますます進むわけで、お客様のニーズは目先の短期的な利益ではなく、中長期の資産形成、資産保全ということに変わっていくことが確実視されています。

こうした分析をベースに考え、我々が進むべきビジネスモデルの方向は資産管理型への転換を最優先で取り組むべきであるとの結論に至ったのです。

前中計期間は、特にその移行を前提として新たな企業文化の定着に大きな力を割いてきたこともあり、数字的にはやや不満足なものになったと言えます。しかしながら、昨年度下期からは数字もかなり上向いていますし、ここからがいよいよ本番であると捉えています。

ビジネスモデルの転換に伴い社員の評価基準も刷新

大関:長年の企業文化を変えるビジネス移行には、ご苦労も多いのではないでしょうか。

佐藤:資産管理型ビジネスというのは言葉で言うほど簡単なことではなくて、何よりお客様の利益最優先という考え方を社員に浸透させることなので、新たな文化として社員一人ひとりのスピリットを入れ替えるという意味では確かに大変なことです。

そこでその実現に向けて、まず商品ごとの目標を廃止するという証券業界としては革命的なことから始めました。それに伴い営業店の評価基準も変えました。新たな評価項目として、ネットプロモータースコア(以下NPS)という指標を追加しました。

NPSとは、当社を知り合いに勧めてくれる人がどれだけ増えたか、批判する人がどれだけ減ったかを数値化する、お客様の満足度を測る指標です。

これによって、営業員がいかに売買収益を上げてもそれがお客様のニーズに沿っていないならば評価には値しない、ということになるので、社内に浸透させるのには大変苦労しました。

同時にお客様の知り合いに当社を勧めてもらうためには、会社としても高度なサービスが求められるため、お客様の声を起点とした商品・サービスの開発や改善を、営業店と本部が一体となって取り組んでいます。

具体的には、ファンドラップの運用報告書の見直しや、無料で使えるATMの増加、口座開設手続きのペーパーレス化などは、お客様の声から生まれています。できることから徐々に広げていますが、手ごたえは十分感じています。

デジタルを活用した顧客との地道なコミュニケーションが必要

大関:証券会社において、勧めてくれる人を増やして批判する人を減らすというNPS向上は、現場の人たちにとってはかなりハードルが高いように思いますが。

佐藤:そうですね、営業員が売買によって会社の収益を上げてもお客様のニーズに沿っていなければ、NPSの評価にはつながらないわけです。

ですからまずは、会社の収益よりもお客様の収益を上げるということを主眼にしなくてはいけません。その考え方を定着させるために、2019年からは営業現場の評価にお客様の損益を反映させるようにしました。

もちろんお客様の収益を上げるだけでNPSが向上するというわけではなく、また相場が生き物である限り、いつもいつも利益がでるわけではないですから、NPS向上には地味な取り組みを愚直に続けていくしかないのです。

NPS向上に王道なしということで、お客様との接点づくりにおいて、中長期的なニーズヒアリングや上席者を含めた定期的なアフターケアなど、地道にコミュニケーションを増やすやり方に変えていこう、という方向で徹底しています。

大関:サービスのデジタル化という視点も、これからの証券会社経営にとって重要なファクターであると思いますが、このあたりの取り組みについてはどのように考えていますか。

佐藤:コミュニケーションツールとしてのデジタル化は確実に進んでいきますが、要はお客様が求めているものはアナログかデジタルかという問題以前に、いかに価値のあるアドバイスやコンサルティングが受けられるかだと思います。

特に高齢者、経営者層、富裕層といった、主に我々のアドバイスを必要とするであろう方々のニーズは複雑ですから、リアルとデジタルを組み合わせた形で最良のものを提供していくことが重要だと思います。

例えばデジタル活用で申し上げれば、米国のMSCI社が海外のプライベートバンクなどに提供する「WealthBench©」を当社用にカスタマイズした「資産運用プランニングツール」というものがあります。こちらは、お客様が他社にお預けされている資産も含めてポートフォリオ診断をしてくれるデジタルツールです。

「資産運用プランニングツール」を使って、ご自身の金融資産を俯瞰していただき、「なるほどこうすれば、自分のゴールにたどり着けるのか」と、運用ポートフォリオを見える化することができるのです。

ただ、このツールをネット上に置いておいても、それだけで使っていただけるわけではありません。ですからアナログで営業員が背中を押してあげるという、その信頼関係があってはじめて使っていただく流れになるわけです。このように、デジタルとアナログの組み合わせは重要なのです。

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