冬の風物詩である霜柱。土から見え隠れする姿はきらきらした飴のようで、踏めばサクッザクッと小気味良い音をたててホロホロと崩れる。
霜柱、食べたらきっとおいしいんだろうな。あなたもそう思ったことはないだろうか。霜柱自体はただの氷なわけだし、あの土の部分が食べられる素材だったらいいんだろう。できそうじゃないか。
まちを歩くのと建物が好きで不動産会社に入りました。
休日は山を登り川を渡り海で石を拾います。
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2022年1月。
お正月のおめでたいムード漂う街の片隅に、一人頭を抱える者がいた。
食べられる霜柱作りの研究を初めてはや一週間。失敗の連続と正月休みの残り日数に、焦りが隠せないようだ。
ドンドンドン!!(扉を叩く音)
加藤先生〜!
はい、加藤です。
加藤先生、実はわたし、「霜柱を食べたい」という夢がありまして……。
ほう
霜柱ができる条件を調べて、土を食べられる素材に代えたらいいんじゃないかって思ったんです。
素晴らしい構想の実験ですね。
ありがとうございます!でも、全然うまくいかなくって。それで加藤先生に相談しに来たんです。
霜柱はどうやってできるのか
まず、いつも目にしている霜柱はどうやって出来るのかを調べました。
この環境を再現して、人工的に霜柱をつくるには、3つの条件があるんだそうです。
食材を使う前に、先に本物の土を使った再現実験をしました。これはわりとすぐ出来たんです。
ここまではよかったんですよ、でも、肝心の土の代わりになる食材が全く見つからなくって……。
冷凍庫で霜柱発生の再現に成功しただけでもすごいと思いますよ。
土だと拍子抜けするくらい簡単だったのに、土を何かに変えようとした途端、にっちもさっちもいかないんです。今まで試した5つの組み合わせを一緒に振り返ってもらえませんか。
はい、見てみましょう!
いざ!失敗5連発から学べ
氷がつきやすい土の条件として、粘土のようなこまか〜〜い粒子が必要なんだそうです。なので最初は、クッキーを砕いたものとココアパウダーを混ぜて試しました。
①クッキー×ココアパウダー
混ぜるお湯の量を多め少なめ…といくつかバージョンをつくって、土のときと同じように上から乾いた混ぜものをかけて冷やしました。でも、どれも土全体が凍ってしまったんです。
なるほど。油脂を使ったので粒子の親水性が失われていそうな雰囲気がしますね……。
親水性が失われる。
油で水が弾かれてしまうということです。水がキレイに染み込んでいく粒子のほうがうまくいきそうです。
なるほど。わたしもクッキーと土と比べて、油が入っていたのが原因かもと思い、次に小麦粉・ココアパウダーを水で練ったものをつくってみました。
②油脂無しクッキー×ココアパウダー
指ですりつぶしても粉末にはならなくて、水を垂らしても、水を吸うには吸うけれど、泥のようにはなりませんでした。これも内部まで凍ってしまいました。
なるほどー、でもこれかなりいい線いきそうな配合ですね。
見た目は完全に土なんですけどね。
それから、霜柱発生には関東ローム層の土がいいって聞いたので、昔関東で農家をやっていた両親に、土に似た性質の食材がないか相談してみました。
なるほど…!
給水素材として高野豆腐を僕も思いついたのですが、実践済みだったんですね。
③高野豆腐×きな粉、④×抹茶、⑤×炭パウダー
結局、これも霜柱は発生しませんでした。むずかしい〜!
表面の素材をこれだけ試してもそうは成功しないんですね。難問ですね……。
食材がだめなら太田胃散だ
あと微細な粉末といったら太田胃散でしょうか……。
太田胃散?!って、薬局とかでよく見る胃薬ですよね?(面白い冗談だな…)
変なものを紹介してすみません。そもそも霜柱を形成できる土の粒子にはいろいろな条件がありすぎるんですよね。
土粒子自体の重さ(密度)なんかもファクターになりそうに思えるし、
粒子自体の吸水性(ココアや抹茶はセルロースなので吸水性がままありますが、泥粒子には無い)なども、ファクターになりそうですね。
吸水性ってどんな性質なんですか?
乾いた砂に水をかけても膨らまないけど、茶葉は少し膨らむじゃないですか。
茶葉には分子構造自体に、水を含む作用があるんです。
なるほど…?!泥と抹茶は水と混ぜた時にちがう現象が起こっているということですか?
そうです。泥粒子自体の水を吸う力はほぼ無いんですよ。粒子間に水を抱くだけです。
霜柱発生に関する論文を読むと、スギオガクズや小麦粉などの有機物は、土に含まれる無機物に比べて、どれも粒子が大きく、のきなみ霜柱を作る機能がないという研究結果があったようですね。
原案として、貝殻をすり潰して作られた顔料を提案しようと思っていたんですが、論文の筆者も一通り試していたようですね。これらは起霜作用があるようですよ。
顔料!日本画で使う絵の具ですね。
顔料にも色々あるが、牡蠣などの貝殻を長い時間かけて自然に風化させ、すりつぶして微細化させる「胡粉」というものがあるのだそうだ。画像はナカガワ胡粉絵具株式会社ホームページ「絵具について」より
そうです。この胡粉とおなじ炭酸カルシウムが太田胃酸に入っているんですよ。
あっ!それで先ほど太田胃散を!(冗談じゃなかった…!)
あとケイ酸アルミニウムも入っています。ここら辺は要は石の粉で、つまり顔料の仲間ですから、幾分か可能性あるかな……と。
おおお、これは可能性がありそうですね…! 早速やってみます。加藤先生、ありがとうございました!
太田胃散で霜柱はできるのか
なんと高野豆腐の上に土を撒いたものからも、立派な霜柱ができていたのだ。水分が上に集まったからか、下部分はさらさらの粉状に戻っている。以前失敗したと思っていたのは、起霜機能がなかっただけで、給水機能はきちんと果たしていたのだ。
つまり…
加藤先生、太田胃散でも霜柱は発生せずでした!
太田胃散でも難しかったですか。薬の中に水溶成分も多く入っているのが、気にかかってはいたのですが…
振り返ってみるといかに自然界のものが奇跡的なバランスで成り立っているかということがよくわかりました…!くうう、あともう一歩なんだけどなあ!
俺たちの戦いはこれからだ
長い長い挑戦になりそうなので、悔しいけれど今回の実験はここまで!一旦わかったことをまとめておこう。
〜わかったことまとめ〜
・霜柱ができる土には起霜機能と給水機能が必要
・給水機能は高野豆腐を粉末にしたもので再現できそう
・起霜機能を満たすにはめ〜〜っちゃ細かい粒子が必要
・粒子は吸水性がないほうがよさそう
・ただし粒子に油分があると親水性が損なわれるので注意
・太田胃散はシナモンのいい匂いがする
・高野豆腐を砕いた中に手を入れるとあたたかくて幸せ
素材さえ思いつけば実験自体は手軽にできるので、興味がある方は冷凍庫の掃除がてら、ぜひやってみてほしい。
そしてよさそうな素材を思いついたらぜひこの記事のURLを添えたツイート等で教えて下さい!来年の冬は霜柱を食べるぞ〜!
参考:
金光達太郎 著「霜柱の生長に関する研究」千葉大学園芸学部学術報告1982-03-25刊行
日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ 霜柱実験① ~そうだったのか!霜柱!~