南海トラフ下、摂氏120度でも微生物が死なないのはなぜ?

GIZMODO

海底のさらに1,200m下、超高温も平気な生物が存在。

2016年、地球深部探査船・ちきゅうによる南海トラフの掘削調査により、海底下に広がる摂氏約120度の環境で微生物の生息地が発見されました。その後の研究で微生物の分析が進み、なぜそんな高温でも生きていられるのか、その答えが徐々に明らかになっています。

代謝率の高さがポイント

Nature Communicationsに発表された論文によれば、海底微生物の生存を可能にしているのは、その代謝率の高さです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の海洋地質微生物学者で、上の論文主著者のTina Treude氏によれば、海底の微生物たちは驚くほどアクティブで、高温な環境でもちゃんと生きています。

「われわれは常に、地下深い生物圏は非常に動きの遅い世界で、微生物は何百万年前に埋もれた有機物をゆっくり食べているだけだと考えていました。でも、深海底の生物圏には、驚きが満ちています」と、カリフォルニア大学のプレスリリースの中で、デンマークのオーフス大学の微生物学者、Bo Barker Jorgensen氏は言っています。「高温の深海底で、代謝率が高く繁栄している生物を見つけたことは、地球以外の惑星の類似環境で生物がいかに進化・生存できるかという私たちの想像をかきたてます」

この研究に参加していない地質学者、ウッズホール海洋研究所のVirginia Edgcomb氏は、この研究が「海底の深さや極端な温度を理由に、微生物の活動が低調だと考えるべきではないことを示している」とします。特に「炭素とエネルギーの供給源が十分にある場合」は、微生物にとって好条件だと言います。

この研究の場合、炭素とエネルギーの供給源は南海トラフにあります。2015年のちきゅうによる探査では海底を1,200m掘り、海底堆積物のサンプルと極限環境微生物が存在する証拠を取り出しました。探査の目的は深海底生物圏の温度限界と、この極限環境でどこまで生命が生きられるのかの調査です。研究チームは、摂氏120度でも繁栄しているらしい微生物コミュニティ発見しました。なぜそれが可能なのかはすぐにはわからず、さらなる研究が求められていました。

代謝でダメージを修復

エクストリームな環境の微生物ライフを支える要因を探るべく、Treude氏らは放射性トレーサーで微生物の代謝率を測定しました。測定にあたっては、空気中や試験器具上の雑菌が海底堆積物のサンプルに混入しないように、徹底した除菌が行われましたが、微生物の密度が堆積物1立方cmあたり細胞500個以下と低いため、それは簡単ではありませんでした。研究チームはまた、観察された代謝率が自然環境と研究室で同じになるように条件を整えました。

彼らはこの測定により、深海底微生物の代謝率の早さを確認でき、それこそが極限環境で生き延びられる要因だと考えました。彼らの仮説は、代謝率が高いことは必要条件で、それによって微生物は熱で傷ついた細胞を修復できるというものです。

「熱による細胞成分へのダメージを修復するのに必要なエネルギーは、温度とともに急激に大きくなります。またそのエネルギーのほとんどは、アミノ酸の継続的変化とタンパク質機能の喪失に対抗するために必要らしいと考えられます」Treude氏は説明しています。

またこの微生物は、有機物の加熱により供給される栄養素を潤沢に手に入れられます。栄養素とは具体的にいうと、海洋堆積物からしみ出す水を元にした、水素と酢酸塩です。

高温に耐えるだけじゃない微生物

Edgcomb氏は、この研究結果が「多くの人にとっては直観に反するかもしれない」と言います。「たいていの人は、こんな極限温度の深い海底にいる細胞は生きるだけで精一杯だと思っていますが、実際は非常にアクティブなのです」ただし活発な理由は、「熱による細胞のダメージを修復して生き延びるのに必要なエネルギーを供給するため」だとEdgcomb氏は付け加えています。

デラウェア大学の准教授でこの研究に参加していないJennifer Biddle氏は、この研究が高温下の微生物集団の変化や細胞分裂の増加に関する先行研究をよく補完していると評価します。この論文では、細胞は埋もれてから初めて活動を始めると言ってるのですが、この発見はBiddle氏が共著した最近の研究とも一致しています。それは「細胞は地中で『ハッピーな場所』を見つけると、成長する大きな力を手に入れる」という内容でした。

この研究の問題点として、Biddle氏は微生物の名前や種類を明記していないことを指摘しています。「どんな微生物がいたのかわかればすごく良いです。そうすれば、その細胞の代謝がどれくらい早くなりうるかより良く推定できるのです」またBiddle氏は、海底の微生物を培養していくつかの温度環境に入れて、環境ごとの適応の仕方を分析できれば有用だとも言ってます。

この研究で分析した微生物は、われわれの知る限り生物の温度限界に近いところにいますが、微生物はもっと高温の環境でも耐えられると考える研究者もいます。今後もっと深いところを掘れれば、さらにエクストリームな生き物がいるのかもしれません。

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