父親が2018年に亡くなった後、ポール・マーロウ氏は恐怖、不安、抑うつに苦しんだ。そのとき彼は、幻覚剤の少量摂取による「マイクロドージング療法」に目を向けた。彼は今も全く、この決断を後悔していない。
マイクロドージングは、仕事に集中するのに役立つ、と彼は言う。「エネルギーを与えてくれ、既成概念にとらわれない思考をしている自分に気づいた」と語る。同氏は、バンクーバーでメンタルヘルス・サポートネットワークのネバー・アローン(Never Alone)を運営する。マイクロドージング療法は「精神状態が悪いときに、曇った頭をスッキリさせ、生産的になるチャンスを与えてくれる。この療法がなければ、私はベッドに留まったまま、体を丸めて天井を見つめるだけになる」と付け加えた。
パンデミックが続くなか、モチベーションやインスピレーション、もしくは何らかの薬物療法を求めている人の多くはマイクロドージングに目を向けている。マイクロドーシングは、精神衛生上の問題に対処し、創造性や生産性、身体の健康を高めるために少量の幻覚剤を摂取する療法だ。
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自信を持ってこの療法を勧める人々がいる。また、複数の研究が、「マジック・マッシュルーム」を摂取することと、心疾患や糖尿病、不安やうつ病などの具体的な健康上のメリットとのあいだに関連性があることを示している。しかし、薬物を恒常的に服用しているという社会的な負のイメージが、この療法に影を落としている。
賛否意見がわかれる専門家たち
この春、幻覚剤のマイクロドージング(幻覚剤はあくまでも、違法であることに変わりない)で解雇されたというCEOのニュースがあった。それを考えると、その行為が職場にどのような影響を与えるかを問うのも当然だ(ハームリダクション・ジャーナル[Harm Reduction Journal]に掲載された研究では、マイクロドージング実践における最大の障壁として「違法性」が挙げられ、次いで「生理的不快感」と「集中力の低下」が挙げられている。最大のメリットは「気分の向上」「創造性」「自己効力感」だった)。
デンバーに拠点を置き、幻覚剤を用いたこのような経験を手助けする人々のネットワークであるサイケデリック・パッセージ(Psychedelic Passage)の共同創設者であるニコラス・レヴィッチ氏は、マイクロドージングを利用して仕事の生産性を最大化している多くのクライアントと仕事をしてきたと述べた。クライアントの多くは、会社オーナーであったり、上級管理職についているという。実際、彼のグループのファシリテーターのひとりは、上級役員の「自制の会得」のためのマイクロドージング支援を専門としている、と彼は言った。
「米国の雇用の大部分は生産、そして生産性に基づいており、マイクロドージングはこれらのパフォーマンス指標を改善するための自然な方法を提供する」とレヴィッチ氏は付け加えた。
マーロウ氏はまた、マイクロドージングが「朝のコーヒー1杯と同じくらい一般的なもの」になると予測しており、より広範な労働力にもたらされる恩恵は自明だと考えている。
誰もが納得しているわけではない
マイクロドーシング療法に誰もが納得しているわけではない。ロサンゼルスで一般人の医療用大麻カードの入手と医師の医療用大麻資格の取得を支援するテレヘルス・プラットフォームのリーフウェル(Leafwell)を運営するルイス・ジャシー医師は、勤務時間中に幻覚剤を微量投与することは「非主流の行為」であり続ける可能性が高いと述べた。「多くの人にとって、薬物を禁止する職場の規則によって職を失うかもしれないという恐れは、職場での幻覚剤の使用を避ける大きな理由になるだろう」とジャシー氏は付け加えた。
ほとんどの薬物検査では幻覚剤の検査は行われていないが、だからといって従業員が「薬物の影響を受けている」と雇用主が判断した場合に解雇されないわけではないとジャシー氏は言う。たとえその従業員が精神作用のない低用量を服用していたとしてもだ。人の安全を保証する職務に従事している人は、自分自身や他者の健康や法的責任を回避するためにも、勤務時間中に幻覚剤を使用しないよう特に注意しなければならない。
「雇用者は職場で薬物を禁止する権利を保持している」とジャシー氏は言った。「シロシビンのような化合物が法的に利用可能になるまでは、たとえ低用量であっても、勤務時間中に幻覚剤を使用することを職場が許可する必要はない」。
「受け入れるべき」という意見も
それでも、職場でのマイクロドージングの捉われ方を変える可能性のある有望な研究が複数存在している。すでに述べたように、一部のキノコに含まれる、幻覚作用のあるシロシビンを抗うつ薬として使用するなど、幻覚剤のさまざまな利点を指摘する研究が増えている。もしそれがうつ病の処方箋として利用できるようになれば、いつの日かレキサプロ(Lexapro)やゾロフト(Zoloft)のような医薬品と同じくらい一般的になるかもしれない。
「職場でのマイクロドージング実現の鍵は合法化だけでなく医療行為化にもある」とジャシー氏は言う。
一方、サイケデリック・パッセージのレヴィッチ氏は、理論的には、従業員がマイクロドージングを行っているかどうかは雇用主にとって問題ではないと考えている。
「雇用主は、コーヒーを何杯飲んだか、その日に薬を飲んだかどうかを監視していない。マイクロドーシングも同じことだ」と彼は言う。「いずれにしても、マイクロドーシングは自然であり、安全で、最終的に従業員の生産性と福利を向上させる可能性があるため、雇用主はこのタイプのサプリメントを受け入れるべきだ」。
[原文:Mushroom boardroom: Why some execs are using psychedelics to get through the workday]
Tony Case(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU