新卒一括採用が経済停滞招いたか – 非国民通信

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 先週は「何事も正しい現状認識があってこそ」と書きました。現状認識が間違ったままでは、誤診したまま処方箋を出すようなものです。もっとも現状認識の重要性までは大半の人に受け入れられると思いますが、では現実に向き合っている人がどれだけいるかと言えば、そこは少数派に止まる、現実よりも信念に沿って動く人の方が多いのではないでしょうか。

 アメリカでは先の大統領選挙で不正が行われた、本当の勝者はトランプであると信じる人が結構な割合に上ると伝えられます。選挙不正については全く根拠のない陰謀論に過ぎませんけれど、信者にとって事実関係は重要ではないわけです。それはキリストの復活を信じるのと同じことで、実際にそうであるかよりも自身が何を信じるかという選択の方がずっと重いと言えます。

 経済に関しても、事実とは矛盾する信念が世を覆っているところがあります。グローバル化で働く人が貧しくなる、経済成長によって格差が拡大する、成熟段階に達している先進国はそれ以上は成長しない──いずれも現実世界で起こっていることとは相容れませんけれど、それを信じている人もまた少なくありません。現実よりも、人は自らの信念を大切にするものです。

 そして日本の経済、とりわけ雇用分野を巡る言論で槍玉に挙げられる第一は「新卒一括採用」でしょうか。これが悪習として、日本経済の停滞を招いた戦犯であるように言われ続けたまま長い年月が経過しています。ある種の定番として、新卒一括採用の否定は経済誌の枕詞になっているとも言えますが、それは果たして正しいのか現実を振り返る必要もありそうです。

 読者の皆様にも就労している方は多いと思いますが、お勤め先の採用形態は新卒一括採用でしょうか、それとも中途・通年採用でしょうか。私の勤務先は、中途・通年採用です。ただし私の勤務先の親会社は新卒一括採用です。グループ内の他企業の採用情報を見ても、上位の会社は軒並み新卒一括採用で、末端の会社は中途・通年採用となっています。

 どうして親会社は新卒一括採用なのに、子会社はそれに倣わないのでしょう。理由の一つとしては「できない」ことが挙げられます。何しろ親会社と異なり子会社の方は離職率が高いため、年間を通じて人員補充の必要性に迫られているわけです。年に一度の採用では必然的に人手不足による破綻が不可避、そうならないためには年間を通して人を採用する必要があります。

 後は時間をかけて社員を教育することができないため、業界研究というおままごとしか知らない新卒学生は育てられない、多少なりとも就労経験のある人を採用するしかない、という事情もあります。裏を返せば新卒一括採用を「できる」のは離職率が低く年に一度の人員補充で運営できること、新卒者を一から育成できる制度と余裕がある会社に限られるわけです。それが無理なら、中途・通年採用しかありません。

 中小企業は、どこでも同じではないでしょうか。極一部の例外的なホワイト企業、大企業だけが新卒一括採用を「できる」のであり、多数派である中小ブラック企業は新卒一括採用など「できない」、望むと望まざるとに関わらず中途・通年採用しか選択肢がないのが現状ではないかと思います。皆様の勤務先の事業規模と採用形態はいかがでしょう?

 問題は一部の大企業のみが為し得る例外的な形態に過ぎない新卒一括採用が、あたかも標準的な採用方法であるかのような前提で語られ続けていることです。もし大企業だけではなく中小ブラック企業も等しく新卒一括採用オンリーで人を募っているのなら、経済誌の主張も分からないことではありません。しかし、現実に新卒一括採用を行っている会社が多数派であるかと言えば、それは違うはずです。

 新卒一括採用が、悪い採用形態であるかは分かりません。確かなのは、中途・通年採用が専門の中小ブラック企業が成長を続けて新卒一括採用を中心とする大企業との力関係を逆転させる、なんてケースはほぼ「ない」と言うことですね。それでも新卒一括採用にダメ出ししておけば格好は付く、それが日本の経済言論です。誤診を続けたまま処方箋を出していれば、衰退は必然でしょう。

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