新世代の消費スタイル

アゴラ 言論プラットフォーム

お金持ちは何にお金を使うのでしょうか?私もさまざまなお金持ちの人たちのライフを長年見てきました。そして金持ちのライフスタイルは時代と共に明らかに変わってきました。そして今後もどんどん変わっていくはずです。「一年の計は元旦にあり」と言いますが、お金が抱負に絡むこともよくあります。そのあたりの参考になればと思います。

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今の60代から上の人たちは「物欲の塊」だと称した人がいます。つまりモノ文化が自分の華やかな人生の中で主役であったのです。それは次々発売される新製品や改良された商品のオンパレードの中で過ごし、最新のものを使い、自分を少しでも良く見せるための果てしない努力をしたともいえます。ゴルフクラブを次々と買い替え、腕よりクラブ自慢だった方も多いでしょう。その間、世界全体で消費者向け商品をいかにたくさん売るかというマーケティング勃興の時代と重なったこともあります。

自動車や携帯を頻繁に買い替える、洋服は一年ごとに全部流行路線に切り替えるといった時代の流れに乗り、新宿伊勢丹絶頂期は日本の物欲の頂点であったと思います。

ところが2000年頃に始まったIT成金、MBAブームで外国の大学院を出た人たちが重用される時代になると明らかに時代の流れは変わります。彼らはバブルの恩恵を受けておらず、基本的にモノ文化に慣れていません。その代わり、異業種交流会でワインをくるくるさせながら自分のビジネスのさわりを述べ、その人とSNSでつながりたいという新しい欲求が生まれてきます。

彼らが物心つく頃は既に商品のレベルは一般的な使用には十分すぎるレベルに達していたこともあります。自動車しかり、パソコンしかり、です。ユニクロの服は安いのに高品質で壊れない、その上、ベーシックという路線だから何年着ていても別に陳腐感がありません。

結構な成功者ながら頭の上からつま先まで身に着けているモノの価値を足し合わせると1万円に達しない知人がいます。彼は時計をしません。理由は時間はスマホで確認できるからと。つまり、「物欲はほとんどなし」世代なのです。

では彼らはひたすらお金を貯めているのか、といえばそうでもないのです。自分のこだわりの趣味に使ったりしますが、最大の違いは知的欲求が異様に高い、ということです。講演会に多額のお金を使い続ける、有料オンラインセミナーに何十万円も使う、といった具合です。先日TEDexに行った話をしましたがあれも参加費は4000円ぐらいするものです。それならサッカーの試合を見に行くという人も多いでしょう。

日本では所有価値と知的価値の違いがなかなか分からないと思います。例えば書籍を「積読」する人は多いと思います。何かの思いで購入した本は「これ読みたい」と思って買うことにより所有をするのですが、買ってしまったことで満足してそれで終わってしまうのです。一方、知的価値とは学校に行く、セミナーに通うといった無形の自分だけの財産を取り込むために多額のお金と時間を自分にあてがいます。これが新しいお金の使い方の流れです。

分かりやすい例をもう一つ。食生活に於いて自分でこだわりぬいて作る人が増えたという点です。プロ顔負けの料理を作ることに満足し、その辺のレストラン以上の味や見栄えにこだわるのです。お宅のお父さん、週末になるとキッチンに立っていませんか?そういう方が増えているのです。そうなると外食にお金をかけるのではなく、家のキッチンの拡充やアップグレードにお金を使うでしょう。これも一種の知的価値です。

「このお店のこの味がなぜ自分で出せないのだ?」というチャレンジ精神からスタートします。そして金持ちになる人ほどそれに対してあくなき追求心を持つのです。面倒くさい、とか俺に出来るわけない、といった端から挑戦しないタイプとは違います。

この変化は日本だけではなく北米でも基本的に同じです。お金持ちは自分のお金のことは二の次でそれよりもいかに面白いことをするか、そして刺激あるライフをさまよい求めています。そして見つけた行為にお金がかかるかどうかはその内容次第で必要ならそこにお金を投入する、ということでしょう。

もう一つ、一度良いものを持つと長年使えるという良さもあります。私の乗っている12年前のGTRも5年ぐらいたつBMWも陳腐化しません。そりゃ最新のクルマは電装とコンピューター化が進んでいますが、走りとか快適性を考えると十分満足です。ルィヴィトンの財布も7年ぐらい使っていますが、全然疲れた感じにならないのです。

とすれば売り手の側に立てば売るだけではなく、さらに何が提供できるのか、を考える時代になったともいえるのでしょう。変化は富裕層から普通の人に必ず伝播していくものです。この変化に気が付けば今年1年の過ごし方も大きく変わるかもしれませんね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月9日の記事より転載させていただきました。

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