オーストリア首相の感染から浮かび上がった問題

アゴラ 言論プラットフォーム

オーストリア連邦首相府で7日、衝撃が走った。ネハンマー首相が新型コロナウイルスに感染したのだ。首相は「私は元気だ」とメッセージを発信していたが、オーストリアのオミクロン株対策で先頭に立ってきた将軍が敵の弾に当たったのようなショックを受けた国民も多いだろう。

コロナに感染したネハンマー首相(右から2番目)オーストリア連邦首相府公式サイトから

首相は3回、ワクチン接種を受けている。オミクロン対策の連邦・州首脳会談でもFFP2マスクを着用していた。6日の記者会談でもそうだった。その首相がオミクロン株にやられてしまったのだ。

7日公表された連邦首相府の情報によると、首相は4日、家族と共に休暇を終えて帰国、5日、定期的なPCR検査を受けたが陰性だった。5日夜、セキュリテイー・チームと会合した。その後、6日の連邦首脳会議後のPCR検査で2回とも陽性だったのだ。どうやら5日の夜の会合参加者の中に感染者がいたのではないか、と疑われている。首相は自宅で検疫を受けており、現在、ビデオ会議や電話会議を使用して自宅から公務を行っている。「今後、数日間は全ての会合などはキャンセルされた」という。

首相は陽性反応後、すぐに5、6日の会合で接触した関係者に自身の陽性反応を連絡し、それぞれPCR検査を受けてチェックするように連絡している。ネハンマー首相が両日、接触した政治家、官僚は同国の指導的政治家、関係者らだ。保健相、教育相、観光相、内務相、財務相、そして9州の州知事関係者たちだ。彼らがオミクロン株に感染していたならば、オーストリア政界の要人は隔離されるから、オミクロン休暇に入らざるを得なくなるわけだ。実際、ミュンクシュタイン保健相は検査では陰性だったが、自主的に隔離措置に入っている。

ところで、オミクロン株は感染力が強い一方、重症化リスクは少ないといわれてきた。3回ワクチン接種した首相がオミクロン株に感染したことから2通りの受け取り方が出てきている。①ワクチン接種の有効性、ブースター接種の意義が問われる、②ブースター接種していたから重症化せずに軽症で終わった。ワクチン接種はやはり重要だ、という受け取り方だ。

昨年11月にコロナウイルスに感染したが、自宅療法で回復した極右政党「自由党」のキックル党首はマスク着用、ワクチン接種に反対する抗議デモ集会をしてきた政治家だ。同党首はネハンマー首相の早期快癒を願うメッセージを発信していたが、内心、「ワクチン接種、マスク着用は有効性がないことが証明された」と受け取っている一人だろう。

ネハンマー首相の感染報道が流れる直前、今度は2月1日からオーストリアが計画してきたワクチン接種義務化に対し、国民の健康保険証を管理する連邦・州の社会保険会社(ELGA会社)から「技術的な問題があって2月1日からの施行は難しくなった。4月初めからになる」と連絡してきたのだ。欧州で最初のワクチン接種義務化を施行する予定だったから、政府関係者は驚いた。

ELGA会社とその実施パートナーは、「国の予防接種登録簿を介した強制予防接種の技術的実施をカバーするためには時間がかかる」と述べている。シャレンベルク前首相が昨年11月19日、ワクチン接種の義務化を表明してから2カ月余りの時間があったが、その期間、技術的な障害を解決できなかったというわけだ。国民の中には、「ワクチン接種義務化に反対する関係者のサボタージュではないか」という声すら聞かれる。ワクチン接種の義務化では、「国民の自由」を蹂躙する、国民の病歴やその情報が外部流出する危険性があるなどから反対する声は当時から聞かれた。

それに対し、ミュックシュタイン保健相は、「われわれは予定通り2月からワクチン接種の義務化を推進する」と主張、ワクチン接種の義務化実施を延期する考えはないと強調している。

オーストリアでは昨年末、4回目のロックダウン(都市封鎖)が終わり、新規感染者数は減少したが、オミクロン株が出てきた年末年始にかけ新規感染者数は再び急増、5桁入りは時間の問題となってきている。先週の緊急会合ではコロナ規制の継続と共に、ブースター接種の推進と外でのマスク着用義務化が11日から施行されることで合意されたばかりだ。

オミクロン株の感染力は侮れない。オミクロン株は患者を直ぐには重症化しない、ということで「普通の風邪と同じだ」といった楽天的な受け取り方をする人も出てきたが、感染率、重症化率などの統計に一喜一憂しているうちに、社会のインフラが機能マヒ状態に陥る事態も予想される。オミクロン株の学習能力には警戒しなければならない。感染者が増加すれば、それだけ新たなウイルスの変異株が生まれやすくなるからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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