安倍元首相銃殺の「事件の核心」は?:逸脱する左派系メディア

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英国作家グレアム・グリーンの「事件の核心」を読まれた読者は多いだろう。当方は小説の内容より、そのタイトル「事件の核心」(The Heart of the Matter)が好きでその表現をコラムでも度々利用してきた。様々な事例、事件の背後にはそれを解明する核心部分が必ずある。それを見つけ出すために、一つ一つの「点」を結びつけながら「線」を見出し、その線上に浮かび上がってくる「面」に次は事実を積み重ねていく。「事件の核心」探しはそれだけ時間と冷静さが要求される。

ところで、安倍晋三元首相銃殺事件の場合、上記のような「事件の核心」へのアプローチとは少々異なった様相を呈している。安倍元首相が7月8日、山上徹也容疑者に銃殺されて以来、山上容疑者の犯行動機、その背景、容疑者と犠牲者安倍元首相との関係等々を巡って、数多くのシャーロック・ホームズが現れて、それぞれのナラティブ(物語)を綴った。

一方、事件を報道するメディア関係者は、点と点を結び、線と線を繋ぎ、事件の核心に迫るといった動きは余り見られず、警察当局が公表する、容疑者の供述内容(一部)をもとに既に出来上がっていたナラティブを量産している。すなわち、「事件の本丸は旧統一教会(現「世界平和統一家庭連合」)にある」というプロットだ。取材で浮かび上がってきた様々な証言はその結論を裏付けるために利用され、「事件の核心」を自ら見つけ出す努力を放棄しているのだ。

司法や警察当局からの情報には常に懐疑的に受け取ってきたメディア関係者が安倍事件では、警察当局が公表する容疑者の供述内容を全面的に受け入れ、その内容の真偽、ファクトチェックを怠っている。警察側が何らかの事情から供述内容を検閲する可能性も十分考えられるが、そのような疑問について敢えて無視し、供述から浮かびあがる事件のシナリオのみに執着しているのだ。

なぜなら、容疑者が「旧統一教会に対する憎しみからの犯行だ」と供述しているからだ。特に、日頃から旧統一教会を糾弾してきた左派系メディアにとっては絶好のチャンスとなる。その結果、山上容疑者は一部では英雄視され、「さん」付けで呼ぶソーシャル・メディアも出てくる。

話は少し飛ぶ。テロ対策部隊は事件が発生した場合、可能な限り犠牲者数を抑える一方、テロリストを射殺せずに取り押さえることを目指す。射殺すれば「事件の核心」の全容解明が難しくなるからだ。ウィーンでは2年前、イスラム過激派の銃撃テロ事件が起き、4人が死亡し多数が負傷したが、テロ対策部隊WEGAは犯人を射撃戦の末、殺してしまった。警察側はその後、事件の全容解明のために一つ一つの事実をパズル合わせのような捜査をせざるを得なくなったのだ。

幸い、といってはなんだが、安倍元首相銃殺容疑者は拘束された。「事件の核心」を知っている人間が生存しているということは、事件の解明にとって大きなメリットだ。

同時に、事件の核心を握る容疑者の身辺警備をこれまで以上に強化すべきだ。なぜならば、容疑者は「事件の核心」を知っている数少ない貴重な証人でもあるからだ。安倍元首相銃殺事件で容疑者以外の第3者が存在するとすれば、容疑者はその第3者から抹殺される危険性が出てくるからだ。もちろん、自殺の危険も排除できない。

ハリウッドや米政界などを巻き込んだ売春事件で有罪判決を受けたジェフリー・エプスタインが刑務所の独房内で謎の死を遂げたことを思い出すまでもない。いずれにしても、安倍元首相を守れず、容疑者をも失うようなことがあれば、警察当局の威信は完全に地に落ちてしまう。

ウィーンの地から安倍元首相銃殺事件関連報道をみていると、「第4権力」と呼ばれるメディアが事件の動向を特定の方向にがむしゃらに扇動しているような印象を受ける。特に、朝日新聞ら左派系メディアは報道機関というより「事件の当事者」の役を演じ、客観的な報道というメディアの使命から完全に逸脱している。

いずれにしても、安倍元首相銃殺事件の捜査では数多くの不透明な問題点が浮かび上がってきている。「事件の核心」が何者かに恣意的に別方向に誘導されているのではないか、といった懸念すら感じざるを得ないのだ。

suriya silsaksom/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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