マンガが読めない子供たち:文字が読めない日本人が生まれつつある

アゴラ 言論プラットフォーム

私たちの時代、通勤電車では多くの人が週刊マンガを読んでいました。降りる時、ぽいと網棚に乗せると誰かがすっとそれを取り、また読み始める、という電車図書館状態だったこともあるのですが、今の人には想像できないシーンでしょう。

縁があって今、カナダでマンガを売っています。先日もイベントに出展して山のように並べたマンガや関連商品、グッズなどに人々がどのような反応を示すのか、商売より動きをみているのが楽しくてあっという間の2日間でした。

そんな中、びっくりしたのが日本でもベストセラーになっている新海誠の文庫本「すずめの戸締り」を多くの人が手にしたことでしょうか?もちろん、非日本人です。読めるのかなぁ、と思っていると割と購入してくれる人が多いのです。「頑張って読みます!」と。日本の書籍を売る者として小説を非日本人にお買い上げいただくのはすさまじく嬉しいのですが、そのトリガーは映画などを通じて若い人たちのハートをつかんでいるということなのでしょう。そもそも海外で新海誠がそんなに話題になっているなんてあまり知られていないのではないかと思います。

実はもう一つの発見は日本語のコミックがこちらの人に売れるのです。「これください」とマンガを差し出した白人の方に「読めますか?」と聞いたら「マンガの文字は短いし、割と簡単な日本語が多いから練習になるのでいいです」と。なるほど。そういう視点は考えもしなかったです。中国人になると漢字が読めることもあり、よりハードルが下がるのでそのまま日本語のマンガ、お買い上げになることはままあるのです。

先日、こちらの書店で英語に訳された日本のマンガを立ち読みしていたのですが、なるほど日本のマンガを英語で読むのは案外英語の勉強になるなと。日本に逆輸出しようかと真剣に思ったぐらいです。

それでも日本語のマンガはそれほど数は出ないのでアートブック(原画集)を主体に販売しています。これは出ます。スラムダンクの原画集は日本でも4000円する豪華本。それが面白いぐらい売れるのです。「なぜだろう?」と同僚に聞けば「男のロマン」と。確かに結構おっさんもお買い上げになっていました。

さて、「マンガが読めない子供たち」。どこかで聞いたタイトルだなぁ、と思った方は敏感です。話題になった新井紀子氏の「AI vs. 教科書が読めない子供たち」を受けた私が命名した発展版です。冒頭の話ではないですが、昔は通勤時間に一生懸命コミックを読んでいたのです。違和感なく「読んでいた」のです。が、今、そもそもスマホの画面を通じてみるマンガは読むではなく「見る」なのです。画質が良く、原画の美しさが鮮明に見えるスマホになると目線はマンガの字面ではなく、絵に焦点が行きます。そしてスクロールするだけなのでするする絵を追うのです。字ではありません。なのでマンガのストーリーですら十分に理解することが出来なくなってきているのです。

そこに登場したのがボイスコミックです。数年前から少しずつ出てきているのですが、本格化しそうです。これは動画ではないのです。マンガそのもの。ただ、マンガの吹き出しに入っているセリフを声優さんが演じてくれるのです。結構有名な声優さんも登場します。正直、これには驚いたです。自分で読む必要がなく、画像に集中しながら耳からセリフが入るのです。ある意味、完璧。これなら字を読む努力が不必要なのでもっと見たくなります。

ビジネスの観点からは読まない書籍やマンガを買ってもらうための必死の努力なのですが、これをやればやるほど読解力が無くなるのだろうな、これが私の思うところです。

今の子供たちはユーチューブにはまっています。ユーチューブにもいろいろありますが、わたしが感じるのはどういう番組にしろ、結論が3分で出てくるのです。大人も子供もそれでわかった気になってしまうのです。これが怖いのです。つまり自分の頭で考えておらず、ユーチューバーの言葉巧みな言い回しと画像を通じた説得力で「本当だ!」「へぇ!」「勉強になった!」になるのです。それはそれでいいのですが、付け焼刃というはこういうことで自分の身についていないのです。

カナダで仕事をしているとあることに気が付きます。こちらの人は字が書けないのです。昔からタイプライターなどを使うのが当たり前で自分の手で字を書くことはまずないのです。スマホで検索する時も「hey, Siri!」で入力しています。するとローカルの方がペラペラ滑らかにしゃべっている英語でも紙とペンを渡し、書かせると日本の中学生レベルでスペルミスだらけのわけのわからない文章が出てくるのです。これは驚きです。字が書けないだけはなく、文字を書く能力が完全に欠落しているのです。

これは日本でも将来起きかねない事態です。それが「文字が書けない日本人」であり、読解力が欠落して「文字が読めない日本人」になるのです。

ViewApart/iStock

なぜこうなったのだろう、と考えると皆さん、一様に帰ってくる答えが「忙しいから本なんて読めない」です。現代社会が忙しいのは分かっています。私だって当然その一人です。ただ、忙しくなったというより欲張りになったというだけではないでしょうか?「あれも、これも」と予定を詰め込み過ぎる気がします。私は年間50冊の書籍を読むためにどれだけ時間を確保しなくてはいけないか、計算しています。週1冊、一冊は4-5時間かかかりますからそれを一週間に優先的に配分しているのです。その時はアポを入れません。こうやって時間を意図的に確保しないと我々はもう読むことなどなくなってしまうのでしょうか?寂しいというより危機感そのものなのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月17日の記事より転載させていただきました。

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