ワーケーションに「どこに行くか」に加えて大事なのが「誰と行くか」です。一緒に出かける相手として思い浮かぶのは、家族、友人、同僚あたりでしょうか。もちろん一人で出かけて行くこともあるでしょう。
「誰と行くか」は、旅先でどんな時間を過ごしたいかによって決まります。前回、「限られた時間を、自分は今何に一番使いたいか?」という問いに自分なりに答えを出しておくことが大事だと強調しましたが、「誰と行くか」もそれに紐づいているのです。
「誰と行くか」に関して、一番悩むのは「家族を連れていくかどうか」だと思います。今回は、「家族とワーケーション」について書いていきます。
「家族が全員そろって」がマストではない
種々あるワーケーションの中にはすでに、子どもを連れて、ある種の家族旅行のような感覚で楽しむ「ファミリーワーケーション」というジャンルが存在します。とはいえ、家族全員そろうとは限りません。パパだけ、ママだけで子どもを連れてくるパターンもありますし、同じような年齢層の子どもを持つ同僚同士、友だち同士で予定を合わせて参加するパターンもあります。
ファミリーワーケーションのコツは、「普段より、子どもは楽しく、親はラクに」です。都市部で仕事をしながら育児もする生活は、とにかく毎日がとてもハードです。「仕事も育児も中途半端……」とモヤモヤしているパパやママはたくさんいます。そうしたパパやママにとってファミリーワーケーションは、怒涛のような日常ではなかなか持てない「リセットの機会」になりえます。
私たちは、数あるワーケーションの中でもこの「ファミリーワーケーション」が、もっとも可能性を秘めていると実感しています。過去に私たちが企画・運営した五島のワーケーションの場合、全参加者のうち平均して20%が子どもでした。滞在期間は週末を挟んで4〜6日ほどが多い印象です。
「親が子どもから離れる時間」も大切
私たちが企画・運営する五島列島のワーケーション・イベントでは、開催期間中さまざまなサポートをオプションとして用意することで、親が罪悪感を持たずに安心して「子どもから離れられる時間」を設計しています。具体的には、地域の保育園の一時利用、小学校の体験入学、アウトドアスクール、コワーキングスペースでのお子様見守りサービスなどを用意し、平日は予定に合わせて自由に利用できるようになっています。
平日の昼間は、子どもは子ども、大人は大人で別々に過ごし、夜や週末は親子一緒に旅先を満喫する。そんな時間を過ごす中で、「ひとりきりで過ごせる時間さえ持てれば、夫や子どもにもそんなにイライラしないのか」と気づいたり、「いつも家族のケアばかりで、自分のために時間を使ったのなんて何年ぶりだろう」とハッとしたり、あるいは「やっぱり自分は育児より仕事が好きなんだ」と認めづらいことを認められたりします。こうした気づきを得ることは、確実に、旅から帰ったあとワークスタイルやライフスタイルを設計し直す大きなヒントとなります。
家族が円満になる「パパだけ子連れ」ワーケーション
これまでたくさんの親子が五島のワーケーション・イベントに参加してくださいましたが、とりわけ胸を打たれた例がありました。「パパだけ」で1歳になったばかりの男の子を連れてきてくださったBさんです。
Bさんは、「ワーケーションで自分が“ダメパパ”だったことに気づいた」と話していたのが印象的でした。滞在中は、息子さんが起きている時間は息子さんと一緒に過ごし、夜やお昼寝タイムなど息子さんが寝ている時間に集中的に仕事を片付けるというふうに、普段とは完全にモードを切り替えて過ごしていたそうです。息子さんとはビーチでゴミ拾いをしたり、肩車をしながら散歩をしたり、キッチンで調理したパンケーキを持って地元の人との一品持ち寄りパーティに参加したり。
そんなふうに過ごしているうちに「これまでも家族を最優先に考えてきたつもりだったけど、実はちゃんと考えられていなかったことに気づいた」といいます。たとえば、息子さんに「抱っこして」と頼まれたとき、今までなら何も考えずに物理的に抱っこしてあげるだけだったのが、ワーケーションで四六時中一緒に過ごす中で「抱っこして」という言葉の背後に息子さんのどんな思いがあるのかを考えるようになったそうです。「高いところを見たい」のか、「さみしくて不安」なのか、日常の中では忙しくて気を配れない点にまで意識がいくようになり、親子の絆が
深まりました。
実は五島列島のワーケーションでは、「パパだけで子連れ」のパターンが珍しくありません。パパ自身が自分のワークスタイルを見直す上でも、ママのキャリアを設計する上でも、そして何より家族全体の関係性をよりよくしていく上でも、「パパだけ子連れワーケーション」が今後もっとポピュラーになっていくことを切に願います。
家族との距離感や関係性を見直す機会にも
ここまで読んでいただいて、必ずしもワーケーション中は「家族とべったり」である必要も、家族そろって出かけていく必要もないことはご理解いただけたと思います。今回は家族から離れて一人きりで過ごしたいという結論に至れば、家族と話し合って一人で出かけていくのもアリなのです。
その際に注意しておきたいのが、残していく家族とのコミュニケーションです。
まずは「一人で行きたい理由」を自分の中できちんと整理しましょう。「仕事に集中したいから」「新規事業のネタを探して仕込みに行きたいから」「子連れでは難しいハードなアクティビティに挑戦したいから」など、明確な「理由」が定まったら、留守の間負担をお願いすることになる家族のメンバーにそれを率直に伝えて理解を得ます。自分の気持ちにも周囲にも正直になることがポイントです。
特に普段家事や育児など「家族の仕事」をメインで担当している方が、一人でワーケーションに出かけることを強くおすすめします。たとえば、共働きの夫婦のうちママがほぼワンオペで「家族の仕事」をやっているのであれば、思い切ってママが一人でワーケーションに出かけ、その間だけでもパパがメインで「家族の仕事」を引き受けてみる。時にはそんなチャレンジを家族全体でしてみてはどうでしょう。きっと家族全体にいいインパクトを与えてくれると思います。
家族との距離感や関係性を一度見直してみる機会としてもワーケーションは有効なのです。
(書籍「どこでもオフィスの時代」に関する情報はこちら)
鈴木円香(すずき・まどか)
一般社団法人みつめる旅・代表理事
1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。
「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。