くじで引いた駅は浦佐だった。まったく知らない土地だが、南魚沼市であるらしい。といえばコシヒカリだ。おいしいごはんが食べたい。
突然日帰りで知らない場所に行き、ごはんを求めてさまよった記録です。
※この記事は年末年始とくべつ企画「新幹線の駅にひとり置き去り」の中の一本です。
トンチキな集まりに再び参加した
新幹線のチケットをランダムに引き、知らない駅で一人置き去りにされる。なんともトンチキな集まりである。2年前も参加し、そのときの心境を当時こう書いた。
「いまここで参加しなかったらもう二度とこんなことをやるチャンスはないだろう。人生は短い。トンチキなことは、それができるうちにやっておきたい。」
まさにそうだ。そしてこの2年間、そんなことが本当にできない状況になった。そして今後もいつできなくなるか分からない。万感の思いである。
浦佐になった
今年も朝の東京駅に集まった。上越新幹線のチケットを順番に引いていく。
他の人が長岡、越後湯沢などを引くなか、ぼくの行き先はここだった。
浦佐だ。
浦佐。前日の夜に路線図を見たので、そういう駅があることは知ってていた。しかし降りたことはなく、どんなところかは当然知らない。
新幹線は東京駅を出発し、一人また一人と降りた。約1時間半が経ち、間もなく浦佐駅となったときの車窓はこんな風景だった。
オーケー。主に田んぼと家だ。やはりそうなるか。
浦佐駅に着き、一人ホームに残された。いま10時30分。帰りの電車は17時だ。これからどうするか。
っていうか浦佐っていったいどこなんだ。
駅の観光案内を見る
車内では検索禁止だった。降りてからはネットで調べてもいいのだが、ふと、それも野暮かもしれないなと思った。行き当たりばったり。その地で見つけた情報をもとに散歩をすればいいじゃないか。そんな考えに囚われた。
というわけで、駅構内を見て回った。観光情報のコーナーもちゃんとある。
駅の周りのお店を学生たちが紹介するポスターがあった。
「日本一のコシヒカリ 南魚沼」とある。そうか、ここはコシヒカリで有名な魚沼なのか。であればお昼ご飯にはコシヒカリが食べたい。KITCHEN 片山、覚えておこう。
すごい大きさのポスターが貼られていた。本気丼という企画が行われているらしい。「開蓋」の読みが分からないが、とにかく本気だということは分かる。
突発的にバスに乗る
駅前はこんな風景だった。
ようこそ魚沼から行く尾瀬、とある。え、ここって尾瀬の近くなの? 現在地の位置関係がよく分からない。
辺りを見ると、バスが止まっていた。
行き当たりばったりでバスに乗ってしまうというのも魅力かもしれない。時刻表を見ると、1時間に2本くらいしかないようだ。よし乗ってしまおう。
乗っちゃった。まったくもってノーアイディアである。バスは駅前を出て、川を渡り、やや賑やかなところに出た。
車窓を見ると、「KITCHEN片山」と書いたきれいな建物があった。KITCHEN片山だ!さっき駅で見たやつ。本気丼のコシヒカリが食べられるお店。降りよう!
次の停留所は幸い、すぐ近くの魚沼基幹病院だった。バスってやっぱり病院に停まるんだ、テレ東のバス旅で見たとおりだ、などと思いながらお店に向かうと・・。
まじか。定休日かーーーー。
南魚沼のコシヒカリ。食べたかった・・。
雪国ならではの街角物件を見つける
割と本気で落ちこみ、これからどうしようと歩いていると、いかにも雪国なものを発見して少し気を取り直した。
道の端の赤と黄色の棒。スノーポールだ。雪が積もったときに車道の端っこが分かるようにするやつ。シマシマのひとつの長さは30cmらしいので、慣れた人なら今どれくらい積もってるのかそこから分かるのかもしれない。
道の真ん中に怪しく引かれた帯と銀色の何か。雪を水で解かすために地下に引かれた消雪パイプと、水の湧出口だ。
よく見るとまわりが茶色くなってる。パイプ内部の錆が水を通じて地面に移ったものらしい。
この消火栓のかっこよさ。火事のときに消防隊員が水を引くためのやつだ。
東京だとマンホールの下にあることが多いけど、雪の降るところだとこういう地上式をよく見る。しかもりっぱな庇に守られて小屋みたいだ。雪に埋もれちゃうのを防ぐためだろう。
そしてなんといってもこの遠くに見える雪山。素晴らしい景色だ。駅の出口に「八海山口」とあったので、たぶんあれが八海山なのだろう。
そして止まれが低い。これは雪が降ることと関係あるのか? ふつうに考えると埋もれてしまいそうだけど。史上最高に低い止まれを見た。
田中角栄像がすごい
いまいるところは駅の東側(八海山口)だ。あらためて地図で示しておきたい。
地図の中央が今いるところ。
最初に見た観光案内によると、地図左側にある駅の向こうにも定食屋があるとのことだった。そこでコシヒカリを食べよう。改めて駅のほうへ向かった。
駅前になにか像がある。近づいてみると田中角栄先生とあった。そういえば、企画に参加したライターのきだてさんが、「浦佐には田中角栄像があるから、それで1ネタいけるよ!」と言っていた。
もしかして田中角栄は浦佐出身なんだろうか?(後で調べたら違った)
逆から見たらまるで後光が指すようだった。そして屋根で守られてる。さすが田中角栄像。そこらへんの像とは違う。
屋根は、像に雪が積もって大変なことになるのを避けるためだろう。
こんなふうに。
ごはん屋さんは閉まってた
駅の西側には「えづみや」というお店が「本気丼」を出している、とのことだった。
が、訪れたときには閉まっていた。お昼の営業は14時00分までだそうで、いまは14時30分。つらい。またしてもコシヒカリが・・。
これはもう、今日はごはんは無理か。そう思いながら脇を見ると、地面の下から水が滝のように川へ注いでいた。ということはこの先の道は暗渠(水路に蓋をした場所)だ。
水も暗渠も好きだ。水はこの先にある山から来てるのだろう。ごはんは後で考えることにして、いったんそっちへ行ってみよう。
水の湧く神社
暗渠を辿って山のほうに行くと、その先には神社があった。
白山神社。浦佐の鎮守とのことだが、なにか参道のようすがおかしい。道がびしょびしょなのだ。雨は降っていないはずなのに。
道の両端には濡れた布のようなものがある。踏むと、ぐじゅっと水が滲みだす。
鳥居をくぐると、右手に手水鉢があった。手を清めるところだ。しかし、見ていると中からぼこぼこと水が湧いている。
すごい。竜の口みたいなところから水が流れ出しているのはよくあるが、鉢から直で湧いているのは初めて見た。
山からの水をここから出しているのだろう。そしてその余った水が参道を下っているのだろう。そんなことあるのか。
さらに奥に行くと、石のベンチがあった。
なんだこれは。苔むしている。座ってみるとふかふかだ。いったいどれだけの時間が経てばベンチがこんなふうになるのか。あたりには自分しかいない。すごい神社に来てしまった。
ごはんを食べに川岸の店へ
いいかげんごはんを食べたい。いま15時すぎ。そして帰りの電車は17時だ。冒頭でぼくはこう書いた。
「ネットで調べるのは野暮かもしれない。行き当たりばったり。その地で見つけた情報をもとに散歩をすればいいじゃないか。」
さあ、今こそそんな悠長な考えを捨てるときだ。駅から神社に来るまでのすべてのお店は閉まっていた。いきあたりばったりではごはんが食べられない。
ネットで調べると、17時までやっているというお店が見つかった。川魚の定食で、お米はコシヒカリを使っているという。食べたい。場所は再び駅の反対側(東側)だ。しかし急いで行けば新幹線の定刻の17時までに駅に帰って来れる。
そのお店は川沿いにあるという。橋を渡っているときにそれらしき建物が見えた。そこそこ遠い。
お店の看板があった。いま15時30分。
気持ちは急くが、この先にお店がありそうな景色ではない。
先に進むと建物があった。これがお店だろうか。しかし悪い予感がする。シャッターが降りているのだ。
中を伺っていると店主らしき方がやってきた。思い切ってきいてみる。今日ってやってますか?
「・・やってないよ。3日くらい前からね。」
まじで?
橋を渡ってここまで来て、今日3軒めのお店にも、やっぱり入れないのか。こんなことってあるのか。
諦めきれず、断ってお店の中を少し見させていただいた。
素敵なお店だ。ここで川魚とコシヒカリを食べたかった。
通路に置かれた瓶には水がずっと注がれ続けていた。コポコポと、とてもいい音がする。神社でも聞いた音だ。
夕陽があたって、むちゃくちゃ綺麗な光景だ。
店の奥、川のほうになにか設備が見える。橋からも見えたやつだ。魚をつかまえるための設備だろうか。ダメもとで聞いてみた。
「川面のほうを見させていただいてもいいですか?」
「いいよ」
なんと許していただけた。やっぱりだめよと言われる前に川を見に行こう。
かっこいい。この橋の向こうに、魚をつかまえるための場所があるんだろう。
これはすごい。あまりにも綺麗だ。こんなところでご飯を食べてみたかった。
川面との接点はこんなふうになっていた。ここで魚を捕まえるのだろうか。こんな本格的なお店みたことない。
帰路へ
すでに時間は16時すぎ。駅まで歩いて20分といったところ。ごはんは無理だったが、驚くような光景が見られた。それでいいじゃないか。と思うことにする。
17時。やってきた新幹線に乗る。
そこには1日を終えた仲間たちが乗っていた。みんなはごはん食べられただろうか。
まとめ
浦佐には心残りが多い。まずKITCHEN片山。お肉が食べたかった。そして「やな場」。あんな景色で魚が食べたかった。
じつは近いうち新潟市内に行く予定がある。こんどは事前に確認して、浦佐にも寄ってみたい。
年末年始とくべつ企画「新幹線の駅でひとり置き去り」
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