食
アレルギーを引き起こす食品と言えばそばや小麦粉、甲殻類などを連想する人が多いかもしれませんが、中には「哺乳類の赤身肉」を食べるとアレルギー症状が出てしまう人もいます。2021年12月に発表された症例報告では、農場労働者の男性が「ダニにかまれた」ことが原因で肉アレルギーになってしまった事例が報告されています。
Mammalian meat allergy emerges after tick bite: the alpha-gal syndrome | BMJ Case Reports
https://casereports.bmj.com/content/14/11/e245488
It’s Possible to Accidentally Develop an Allergy to Red Meat. Here’s The Science
https://www.sciencealert.com/some-people-become-allergic-to-meats-after-tick-bites-here-s-what-to-look-out-for
アメリカ・ミズーリ州のカンザスシティ郊外に住む56歳の男性はある日、ハンバーガーを食べてから数時間後に腰や腕にじんましんが出たことに気付きました。男性はその後も肉を食べた後にじんましんが出たり、まれに息切れを起こしたりすることがあったそうですが、一体なぜこのような症状が起きるのかわからなかったとのこと。
男性は21歳の時にエイズウイルスに感染して治療を受けていたほか、季節性のアレルギーを持っていたこともあり、余計に原因の特定が難しかったと報告されています。男性は医師に症状を報告し、洗剤を変えたり新しい衣服を着ないようにしたりしたものの、じんましんや息切れを防ぐ効果はありませんでした。一般的な食品アレルギーは食べて数分以内に症状が出るため、男性は数時間前に食べた肉が原因であることになかなか気付けなかったそうです。
7年間にわたって症状に悩まされ続けた男性でしたが、ある友人から「ダニにかまれることで肉アレルギーになる」という話を聞き、「自分も農場でダニにかまれて肉アレルギーになったのではないか」と考えました。そして、肉アレルギーの診断を行っている医師の下で検査を受けたところ、本当に肉アレルギーを持っていることが判明。その後、食事から赤身肉を取り除いたところ、アレルギー反応に悩まされなくなったと報告されています。
肉アレルギーはかなり昔から存在していたものの、研究が進んだのは過去20年のことです。イギリスのアレルギー研究者であるトーマス・プラッツ-ミルズ氏は2002年、一部のがん患者がセツキシマブという抗がん剤に対してアレルギー反応を起こす事例に着目しました。そして2008年、セツキシマブに由来するアレルギー反応の根本原因が、「ガラクトース-α-1,3-ガラクトース(α-gal)」という炭水化物であることを突き止めました。
α-galは霊長類を除く多くの哺乳類の細胞膜に存在し、セツキシマブにはネズミ由来のα-galが含まれているとのこと。セツキシマブの投与に限らず、哺乳類の赤身肉を食べることによってもα-galアレルギー(肉アレルギー)が生じます。しかし、依然として「なぜ一部の人々がα-galにアレルギー反応を起こすようになったのか?」という点については解明されていませんでした。
プラッツ-ミルズ氏は、α-galアレルギーを持つ人の中でマダニによって媒介されるロッキー山紅斑熱の既往歴が多いことや、実際に牛肉を食べてアレルギー反応を起こした猟師からダニにかまれた傷痕を発見したことから、「ダニにかまれることでα-galアレルギーが引き起こされるのではないか?」と考えました。実際にプラッツ-ミルズ氏は、ダニにかまれることを期待して近所の山歩きをしたところ、その年の後半から羊肉にアレルギー反応を起こすようになったとのこと。
今日では、ダニの唾液中に含まれるタンパク質に付着したα-galによって、肉アレルギーが引き起こされることがわかっています。α-galは加熱によって分解されないため、哺乳類の赤身肉を使った料理を食べるとアレルギー反応が起きる可能性があるとのこと。また、動物由来の縫合糸(カットグット)、ウシ由来のワクチン、ブタ由来の心臓弁などがアレルギー反応を引き起こす危険もあるため、臨床医はα-galアレルギーの認識を高めるべきだと症例報告は主張しています。
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