激変する安保環境 議論を進めよ – 石破茂

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 石破 茂 です。

 岸田総理大臣が敵地攻撃(敵基地反撃)に言及され、概ね一年をかけて新たな国家安全保障戦略や防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を策定する方針を明らかにし、自民党はこれを受けて来夏の参院選の公約に盛り込むべく議論を開始し、政府に提言すると報じられています。

 「我が国を取り巻く安全保障環境が激変している」というのは確かにその通りですが、敵地攻撃の結論まで辿り着くためには精緻な作業が必要です。

 かつての「基盤的防衛力整備構想」後の我が国の防衛構想は、「抑止力理論」をその基本としてきました。

 抑止力には「攻撃すれば、その攻撃をはるかに上回る反撃が予想されるため、攻撃を思いとどまる」という「倍返し」的な「懲罰的(報復的)抑止力」と、「攻撃しても相手国の受ける被害は小さく、所期の成果が得られないばかりか、国際的な非難を受けて孤立するという外交的な不利益も予想されるため、攻撃を思いとどまる」という「拒否的抑止力」の二つがあります。

 我が国は米国の拡大抑止力(いわゆる「核の傘」)によって前者を確保し、ミサイル防衛や国民保護などによって後者を確保する、というのが基本でした。

 我が国が自衛権の行使として実力行使するには「我が国に対する急迫不正の武力攻撃が発生したこと」「他に採るべき手段がないこと」「実力行使は必要最小限度にとどまるべきこと」の三要件を満たす必要があります。

 そして、平和安全法制によって集団的自衛権を部分的にせよ認めた以上、日本と米国の伝統的な役割分担(アメリカは矛、日本は盾)には変化が生じているはずです。

 これらの点を踏まえれば、敵地攻撃能力の議論は、「他に採るべき手段がない」という要件との整合性の問題ともいえるでしょう。

 また「脅威」は「意図と能力の積」と言われていますが、「意図」と「能力」をどのように見積もるのか、という議論もあります。

 国民を経空脅威から守る手段として、多くの国がシェルターを整備して拒否的抑止力を向上させています。ある統計によれば、ソウル特別市300%、スイスとイスラエルが100%、ノルウェーが98%、アメリカが82%、ロシアが78%、イギリスが67%、シンガポールが54%の整備率となっているのに対して、日本は僅かに0.02%とされています。

 まずはこの国民保護の徹底が急務だと、何度も指摘してきましたが、残念なことに遅々として進みません。憲法上の問題など皆無で、しかも防災の観点からも有効性が考えられるのですから、まずはここから、ということを今後さらに主張していきたいと思います。

 20年近く前に防衛庁長官(当時)を務めていた当時、自衛隊の敵地攻撃能力の有無を問われ、「今の自衛隊に敵地攻撃の能力はほぼ皆無です。国の決定となればそれには従いますが、どこに敵の基地があるかもわからず、有効な手段(兵器)も持たず、敵の迎撃への対処能力も無いままに行けと命令するとすれば、それは往時の特攻隊と大差ない非合理的なものです。

仮に今後、敵地攻撃能力を保有するとすれば、その造成には相当の時間と費用が必要であり、思考停止に陥ることなく国会で議論を開始して頂きたい」という趣旨の答弁をしました。

 その後ほとんど議論の進捗を見ていないことに、忸怩たる思いで一杯です。もちろん、このような議論を平場(ひらば)でどこまで行うべきなのかについても疑問なしとはしませんが、目の前に山と積まれた敵基地攻撃論に賛成、反対の資料を前に、今までの自分の怠惰さを深く反省しています。

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