光る公取委の目 芸能界に変化 – 渡邉裕二

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公正取引委員会の古谷一之委員長 共同通信社

放送局や芸能事務所に対して再び公正取引委員会(公取委)の動きが活発化し始めている。

「公取委がテレビ局やラジオ局の調査に入り始めているようです」

と語るのは、放送局と取引のある関係者だ。

「表向きはコロナ禍の影響で、取引先の制作会社に不利益を生じさせていないかなどのチェックをしているようですが、芸能事務所との出演契約についても厳しいチェックが行われているようです。

ただ、出演者との契約はケースバイケース。出演に際して発注書を出せだとか、お役人目線で細かいところまでチェックするのは疑問があります。何が何でも契約書が必要になれば、不都合な面も出てくると思いますけどね。公取委にしてみれば一番目立つ業種から指導に動いた方がアピール度は大きいのでしょうけど…」

過去を振り返ると放送局の下請けイジメが指摘されたことがあった。

7年前になる。2015年に公取委はテレビ局から番組制作を下請けする800名を対象にした取引実態調査を行い、280名から回答を得た。前述した通り、事業者に不利益を与える行為をしていないかという調査だったのだが、その調査結果として「テレビ局による制作会社への独占禁止法に違反する行為が横行している実態が示されており、特に制作会社の規模が小さいほど被害が多いことも明らかになった」と断定、その上で「今後も取引実態を注視し、法律に違反する行為に対しては厳正に対処していく」としたのだ。

この時から公取委は「芸能事務所に重点を置くようになった」(芸能関係者)

と言われる。

SMAP解散で浮き彫りになった「事務所の圧力」

Getty Images

そして3年前の2019年。今度は芸能事務所の所属タレントに対する行為を指摘した。

「テレビ局に圧力をかけたり、所属タレントに対して『干す』などと脅して移籍や独立を阻んだりする行為がある」

と問題視し始めたのだ。

「この時はジャニーズ事務所とのトラブルが社会問題化したSMAPの独立がキッカケになったと言われています。さらに、のん(能年玲奈)の独立問題なども重なってタレントの独立がクローズアップされました。19年8月、そうした流れの中で開かれた自民党の競争政策調査会で、公取委は芸能事務所がテレビ局などの出演先に圧力をかけ、移籍・独立したタレントの活動を妨害している行為を例にしながら『独占禁止法上問題になり得る行為』と今後の最重要課題に挙げていました」(前出の芸能関係者)

そうした公取委の指摘が、業界内で功を奏したのかもしれないが、昨今はタレントや俳優の独立が急増している。だが、その一方で「芸能事務所の厳しい事情も見え隠れする」と言うのは古参のプロダクション関係者である。

「所属タレントにはマネジメント方法や待遇面など、事務所に対しての不満があるのかもしれませんが、芸能事務所にとっても厳しい現実があるのです。昨今は放送業界も厳しく、制作予算の切り詰めなどで出演ギャラの見直しが急ピッチに進んでいますし、コロナ禍で多くの芸能事務所の業務に支障が出てきています。

さらに追い討ちをかけているのが「働き方改革」なのです。労働基準監督署もうるさいですからね。となると、事務所の資金もなくなり、これまでのように新人タレントの育成に投資が出来なくなる。当然ですが所属タレントの維持費も大変になってきます。そこで、所属タレントに独立を促すような事務所も出てくるわけです。

独立したタレントのその後の活動に圧力をかけるとか干すなんてのは、正直言って過去の話ですよ。よくジャニーズ事務所が取り沙汰されますが、このSNS時代に事務所側が圧力をかけるなんてことはまず考えられません。あるとしたら、それは放送局側が勝手に忖度しているだけだと思いますけどね」

社会状況も変化しており、今やテレビ、ラジオなど既成のメディアを利用せずともYouTube、TikTokなどを使えばタレント独自のメディアを持つことが出来るし、そのインフラも確立している。タレントを干せない時代になってきたのだろう。

渡邉裕二
芸能ジャーナリスト

芸能ジャーナリスト。静岡県御殿場市出身。松山千春の自伝的小説「足寄より」をCDドラマ化し(ユニバーサルミュージック)、その後、映画、舞台化。主な著書に「酒井法子 孤独なうさぎ」(双葉社)など。

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