エコノミスト誌11月13日号は、「ロシアの弾圧の新しい時代。これは西側との対決につながるだろう」との社説を掲載、ロシア情勢に懸念を表明している。
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その主要点を一部抜粋してご紹介すると次の通り。
・プーチンは国内での弾圧を強め、これを正当化するために、西側とのイデオロギー対決を作り出し、それに依存している。クレムリンは、反対するすべての人々を外国のエージェントと描いている。
・石油・天然ガスに依存するロシア経済は、持続的な成長を生み出すダイナミズムを持っていない(注:今後制裁に耐え得ないことを示唆)。
・ロシア人のほとんどが対決の利益を信じていないことは、良いニュースだ。プーチンのプロパガンダにもかかわらず、ロシア人の3分の2は西側に対し肯定的見方をしている。ほぼ80%が西側をパートナーで友人であるとみなすべきであると言っている。この傾向は特に若者の間で最も明確だ。
・西側は、国家を簒奪し人々を苛めているロシア当局に焦点を合わせ、制裁を調整すべきである。
・西側は、プーチン後のロシアのための基礎を作り始めるべきである。プーチンのシステムが彼を超えて生き残ると見るのは困難である。
・西側は、価値を共有する人々に投資すべきである。ロシアの国内での人権侵害に声を上げるべきである。良い生活を求めるロシアの学生、ジャーナリスト、インテリの数は増えるだろうし、西側政府は彼らを受け入れるべきである。西側はそうすることで、単にプーチンの弾圧の犠牲者を助けるのみならず、自分自身を助けていることになるだろう。
(出典:‘Russia’s new era of repression’, Economist, November 13)
この社説は良く書かれた論説であり、その情勢判断、政策提言には全面的に賛成できる。
エリツィンは自分の後継者にプーチンを指名したが、エリツィンはこの選択を悔いていたと、米国の国務副長官であったタルボットは証言している。
プーチンは自己の権力維持を何よりも重視し、利権を仲間に与える網の目を作り、治安当局とそのOBを優遇してきた。19世紀の英国の歴史家・思想家・政治家のアクトン卿は「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」と言ったが、プーチンの統治はそのよい例である。
前述のエコノミストの社説の主張、プーチン後のロシアを考えるべきであるという点はその通りである。ロシアの世論は弾圧で抑え込まれているが、ロシアの世論は反プーチンになってきている。この社説が言う西側への好意的評価、特に若者におけるその傾向は明らかである。プーチン・システムがプーチンを超えて生き残ることはないとの判断にも賛成できる。
親西側政権誕生も近い?
かつてソ連では、スターリンの死後、マレンコフが一時指導者になったが、政権内で権力闘争が起こり、ベリヤの逮捕、モロトフの追放を経て、フルシチョフが20回党大会でスターリン批判を行った。プーチン後にも同じことが起こる可能性は高い。プーチンが弾圧を強化し、先の国会選挙でもオンライン投票を導入し結果を操作したことは、そもそも信用できない世論調査の結果よりもプーチンの実際の支持率が低くなっているからであろう。
ロシアでは新型コロナウイルス感染者が増加している。プーチンはコロナウイルスに対するワクチン、スプートニクVをロシア人にうたせようとしているが、軍人への強制などをしても接種率は30%程度である。接種証明なしにはレストランに入れないなどの規則を作り、接種を進めようとしているが進んでいない。
政権に対する信頼度は極めて低いことがここにも現れている。プーチン自身はワクチンを打ったというが、これがスプートニクVなのか西側のワクチンなのかははっきりしない。
プーチン後には若干の紆余曲折はあろうが、親西側の政権ができると考えられる。その時こそが日露関係の正常化へのチャンス、中露を離間させるチャンスになるだろう。今のプーチン政権には厳しく、批判的な態度をとることがプーチン後に備えることになるだろう。いずれにせよ、プーチンでは日露の領土問題は解決しないことは明らかである。